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第十四輪:自己紹介

やっとこさ更新できました…時間が欲しいですprz

騎士団のメンバーは、色々なゲームから拝借しましたって言うネタバレ。


そんじゃどうぞー!

町に出て服を回収した二人は、裏通りに向けて歩いていた。

数多くある裏通りの中でも、忘れる事は出来ない裏通り。そう、シエルが拉致られたところだ。


今ではどうなってるのか見てみたい、と切り出したのはシエルである。


《裏通り…トラウマな筈なのに、どうしてシエルは自ら…》

『二つの可能性がある。一つ目は、裏通りの現状視察だ。王国の死角…正しく"闇"だな。それがあったせいで、王国が危機に陥りかけたみたいなモンだ。シエルちゃんだって王女様なんだしな、親の手助けしてェのかもな』

《シエル……そうだとしたら、俺…二度と顔が上げられなくなっちまうじゃねーか…》

『頭踏まれてるだけじゃね』

《酔ったシエルならやりかねんな…》

『酒飲ませてそのまま踏まれとけよ、一生な』

《シリアスな雰囲気台無しだな。まぁ二つ目もせっかくだし、聞いてやるよ》

『ナオヤと二人きりになれる――』

《聞いた俺が剣山の上を裸足で歩く位紛れも無くバカでござんした》

『………』


最後まで聞いてくれなかった直哉に落ち込むウィズ。いつかのメイドみたく、コイツも脳内がピンク色――


『聞こえてるんだよ』

《知らないっここはドコ私はダレ、ふーあーゆー!》

『ここは異世界お前はナオヤ、俺様は神様だ』

《マジレスすんなよ…》

『知った事かー!』


バカなやりとりをしてるうちに、件の礼拝堂跡地に着いたようだ。


「うわー、凄い穴~!」


シエルが驚きの声を上げる。直径50mはあろう大穴がぽっかりと口を広げてるのだ。落下防止のためか、穴の周りには黄色いテープらしきモノが張り巡らされていた。

嫌な雰囲気も無く、問題も無さそうだ。


「ナオヤがやったんだよね…」

「あ、あぁ」

「凄いなぁー…私も治癒魔術頑張らなきゃ」

「おう、擦り傷だらけになったら治療してくれよ」

「うん!ナオヤならタダでいいよ」

「金取る気だったんか?!」

「あははっ、冗談だよ~、じょ・う・だ・ん!」

「どこまでが冗談だか分からないから怖いな」

「ん?何か言った?」

「いいえ何でも御座いません」


シエルももう平気みたいで、冗談を織り交ぜた相槌を打ってきて、ほっとした直哉。

満足に見渡したので、礼拝堂跡地を後にする。裏通りの建物を王宮のヤツが消し飛ばしたと言う噂を耳にしたが、その噂のお陰で破落戸が減ったようなので、何も言わなかった。


そして、王宮に到着した。シエルに客室まで連れてってもらい、入り口で待たせておき、直哉だけが部屋に入りドアを閉めた。

右手には服が入った袋を携えていた。


少しすると、ドアが開いた。待ってましたと言わんばかりに笑顔になるシエルの前には、黒いTシャツに黒いジーパン(もどき)の、相変わらず黒尽くしだがいつもと違う直哉がいた。


「わぁ、ナオヤがナオヤじゃなくなった!」

「言ってる事がさっぱりだが、ぴったりで着心地も抜群だ!」

「私の貴重なお小遣いから出してあげたんだからね!感謝しなさい!」

「ありがとうございます、シエル様」

「っ!…よ、よろしい」


シエルは赤くなって、そっぽを向いてしまった。何か悪い事しただろうか…と真剣に悩む直哉。


「ナオヤ殿、ナオヤ殿ー」


そんな直哉を呼ぶ声が響き渡った。聞き覚えは無く、なぜ名前を知ってるのかすら分からなかった。

振り向くと、今朝の会議で見たような気がする人が走ってきた。動きやすそうな革鎧を身に纏っていて、身長は175cmくらい…直哉と同じ位だ。体型はスラッとしてる。茶色の髪の間から見えるこれまた茶色の瞳は、不思議な光を宿している。所謂モデルのような人だ。

きっと、多く(?)の男の敵なんだろうな…と直哉は思った。


「殿?!…っと、君は?」

「私は王国第一騎士団のルシオと言う者です。国王様が、ナオヤ殿に騎士団を詳しく説明してやれと」

「なるほど、そしたら同僚か。あ、取り敢えず"殿"と敬語はやめてくれ。同じ仲間なんだしな」

「ふむ…国王様の言った通り、変わった人だ」


すぐに敬語をやめてくれたのは良かったが、"変わった人"と言うワードを聞いてしまった気がする。


「……そんなに変?」

「「かなり」」

「………」


シエルとルシオ、二人に肯定されてしまい、直哉はかなり落ち込んだ。ルシオはシエルの声を聞き、はっとして片膝を地面に着けた。


「こっ、これはシエル様…申し訳御座いません」

「どうしましたか?ルシオ様」

「!わ、私に"様"などいりませんよ!」

「いえ、貴方も大切な国民の一人です。差別なんて出来ません」

「シエル様……ん、待てよ…そしたら、ナオヤは?」

「なっ、ナオヤは…その…特別ですっ!…ナオヤは……その……わ、私の親友です!!」

「シエル…」


シエルの言葉に感動する直哉。てっきり奴隷だとかペットだとか、凄まじい扱いをされるだろうと予想してただけに、反動もまた凄まじい。

単に友達として認められたのが無駄に嬉しかった。尤も、抱き着いて一緒に寝て…この時点で、友達のボーダーラインを上限不明のフロントラインに書き換えてしまっているのだが、直哉は気付かないのだった。


訳も分からず目頭が熱くなる直哉。急に後ろを向く直哉に、シエルが声を掛けた。


「ナオヤ?」

「ぐすっ…な、泣いてなんかないぞ!目が痛くて擦ったらこうなっただけなんだぞ!不可抗力だ!!」

「……ふふ、ナオヤ泣いてるー、かーわいー!」

「ひぐ…う゛る゛ぜぇ゛や゛い゛!」


後ろを向きながら完璧な涙声で抗議する直哉を弄りつつ、この世界で直哉は独りぼっちだと言う事を思い出していたシエル。

独りぼっちは、どれだけ辛くて、淋しくて、苦しかっただろう…友達が出来たら、どれだけ頼もしいだろう…。


そう思うと、目の前で泣いてる直哉が、卵から孵ったばかりの雛鳥のように見えた。巣から落ちたら悲しい運命しか訪れない、か弱い雛鳥に。

愛らしくて、儚くて。どうしようも無くなって、直哉を後ろから抱き締めた。


「じえ゛る゛……」

「大丈夫だよ、ナオヤ…もう独りぼっちなんかじゃ無いから…シエルが一緒に居てあげるから…」


二人の解釈には各々に凄まじい齟齬があるが、ルシオが知る訳が無い。

抱き合う二人(一方的にシエルが抱き着いているが)を見て、顔を赤くしながら背けるルシオ。超が付くほど純粋だ。


「………」


ルシオは本来の用事を済まそうと思ったが、今はそっとしといてやろうと思った。


…用事に取り掛かれたのは、それから一時間先の事だった。






「ぐしっ…しかし、ぐすっ…ひろいなぁ…」

「慣れないと大変ですからね、この王宮は」


泣きながら後ろを着いてくる直哉に、ルシオは苦笑いした。

記憶喪失に、天涯孤独。この絶望の底から直哉を救い出したシエル。二人をこれ以上散策するのはやめようと決心したルシオ。


因みに、抱き着いていたシエルがルシオに気付き、慌てて直哉から離れ、真っ赤な顔をしながら自己弁護を開始、最終的にルシオに直哉を渡して逃亡を図った。これが一時間の間に起こった出来事だ。


様々な思考を巡らせつつ、二人は王国第一騎士団の訓練所に到着した。直哉が藁案山子を抹消した部屋は、王国第二騎士団の訓練所だ。


「ここが、これからナオヤが己を磨く部屋だよ」

「でけぇ~…」

「人数が多いからね。それなりの大きさが無いとね」

「…しかも、ドアが閉まってるのに、声が…凄い気合いだな」

「王国の守護を承ってるからね…兵士達には、常に全力を出すようにさせてるんだ」

「ほほぅ…」


話が終わると、ルシオがドアに手を掛ける。直哉は急いでそれを止めた。


「?!」

「待て、待つんだルシオ。今の俺は…目が汗により真っ赤にされている。このまま入ったら、第一印象が残念な事に…」

「……それもそうですね。では、少し待ち――」


ガチャッ


ルシオが同意したが、ドアは開いた。中から一人の男が出てきたのだ。

そして、直哉とルシオはドアの真っ正面に居る。これが意味する事、つまり――


「………」

「「………」」


――こう言う事だ。

泣きじゃくり充血した目を見られたく無いが故に入室を躊躇ったのだが。


「……お、よく見たらナオヤじゃねーか」

「そ、その声は…アリューゼさん?!」


声の持ち主は、城門で直哉に突っ掛かり、シエルに止められてたアリューゼだった。

意外な再開に目を見張る……三人。


「アリューゼ様…ナオヤとは、知り合いですか?」

「あぁ、ちょっと――」

「無抵抗の俺に槍を向け、刺し殺さんばかりの殺気をくれました」

「そりゃあ姫様と一緒に居たらなぁ…それよか目が赤いぞ?」

「っ?!こ、これには深い訳が…」

「ははは、姫様にフラれたか!」

「なっ!ち、ちがっ!」

「はいそこまでー!」


止みそうも無い論争を止めたのは、良く響く女性の声だ。


「ったく、アリューゼ団長ったら…調子に乗り出したらキリがないんだから…」

「いや、これはだな…あれだ、再開の喜びを――」

「問答無用!団長としての威厳を持ってください!そもそも、訓練を勝手に脱け出したり……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


止みそうも無い説教を、正座して床に頭をぶつけて…所謂土下座を繰り広げて終わりにしようとするアリューゼ。団長らしいが、その威厳は星の彼方に消え去ってしまっている。


そんな姿に哀れみを溢れんばかりに含んだ眼差しを送り、溜め息をつく女性。

そして、直哉と向き直る。


「で、涙目のカッコいい君。君が王国第一騎士団に編入された――」

「涙目とカッコいいは除外してくれ…それを取り除けば、残るは編入された神崎直哉だけっす」

「……君、変だね」


女性の呟いた一言に、直哉の動きが止まる。先程それを体験したルシオは、直哉にとってショックが大きすぎる事を知っている。


「おやめください!それは、禁句で――」


ルシオは必死に女性を止めようとしたが、時既に遅し。


直哉を黒いオーラが包んだと思ったら、不意に視界から消えたのだ。

驚く女性とアリューゼ。他にも騎士団員はいるのだが、離れて固まっていて、三人の様子はよく見えないようだ。


そして、キョロキョロするアリューゼが直哉を見つけた。

……部屋の隅で体育座りをし、踞って人差し指をくっ付けているいる直哉を。


「いいんだ、俺は変なヤツなんだ…シエルに言われコラーシュに言われ、ルシオに言われ、最後にはあの女の人までに言われ…そう、みんな公認の変なヤツなんだ…ほら見てみろよ、こっち見て笑ってるぜ…あぁもうダメだ、どうして俺は生まれたんだろう…待て、待つんだ直哉、そんな事言ったら両親に向ける顔が無い…って、異世界だから関係無いや…荒れ野原に捨てられて、小動物に貪られて、屍すら…存在すら残らないのさ…ははっ、ははは、あはははは」


何か独り言をぶつぶつと呟く直哉を、女性とアリューゼが驚いたような目で見て、ルシオは大きな溜め息を吐く。


ルシオが説得する事一時間、何とか直哉を立ち直らせたルシオは、力尽きて――


「勝手に殺さないで下さい」


――無かった。

が、疲れたようだ。部屋の隅に座り込み、ぐったりとしている。


ふらふらと歩いて来る直哉。どう考えても変だが、もう言わない事にした二人だった。


「そ、それじゃ、ナオヤ…自己紹介を、みんなに…」


直哉が黒いオーラを纏ったままと言う事にビビりつつ、アリューゼが切り出した。

他の騎士団員も横一列に整列している。


「……そこの女性に存在を否定された、人間の底辺…神崎直哉です…そのうち存在が消えると思います…短い間ですが――」

「待ってよ、待って!私が悪かった、謝るから!!」


ダークネスな直哉の自己紹介を、女性が止めた。ぺこぺこと頭を下げて謝罪する女性を、絶対零度の眼差しで見つめる直哉。その余りにも冷たすぎる視線に、騎士団員に戦慄が走る。


そんな騎士団員の強張りを見た直哉。流石にふざけすぎたな…と、溜め息をついた。


「……えー、改めて。この度王国第一騎士団に編入される事になった、神崎直哉です。敬語は嫌いなんで、普通に接触してくれ、以上!」


転入先の学校で自己紹介する者のような自己紹介をする直哉。すると、ある騎士団員の「変な人」と言う呟きが聞こえた。

顔を見合わせる女性とアリューゼ。青ざめているのがよく分かった。


不意に閃光が走り、全員の視界を奪う。そして、バチバチ…と言う効果音が耳に響き渡る。

各々がうっすらと目を開くと、視界には雷球を両手に携える直哉が写り込んだ。


「さぁーて、今禁句を呟いたヤツは素直に名乗り出てくれ。素直に出てきたら弱めにしてやる。出て来なかったら消すしかないかなぁ…因みに、俺は誰が言ったか把握してるから…両親には此方からお金でも送っとくとしよう」


そう言うと、黒い光を放ち、両手に携えた雷球が形を変え、トゲトゲが痛そうな円形の刃になった。所謂チャクラムだ。


直哉は素晴らしい笑顔を、騎士団員…左から四番目の人に向けた。

見るからに尋常じゃない震え方をしている。例えるなら…直下型地震だ。それも震度7くらいの。その場でぴょんぴょん跳び跳ねてる、と言うと分かりやすいと思う。もちろん、本人の意志では無い。


恐怖と振動で喋れない騎士団員を見て、直哉は残念そうに溜め息をひとつ。


「はぁ…名乗り出ないみたいだ…命は大事にするモノなんだけど…自ら捧げられちゃ、握り潰すしか無いよね…」


両手に携えたチャクラムを構える、稲妻が唸りをあげる。


「あ……あひ……あぁ……」

「そうかそうか、楽に逝かせて欲しいか…」

「ち、ちが、ごめ、ごめな――」

「君の事は忘れないよ、ありがとう…そして、さようなら…」


直哉が両手を振りかぶった。そして、哀れな騎士団員に向けて腕を振り切る。


「ごめんなさあああああああああああいいいいいいいい!!」


騎士団員の絶叫が訓練所に響き渡った。

鋭い刃に切り刻まれるだろう左から四人目の騎士団員を見まいと、一同は目を瞑った。明らかに自己紹介な空気では無さすぎた。


ザシュッ!


何かを切り裂く音…そして、何かが倒れ伏したような音が響き渡った。


「………」


黙り込む一同。

彼は悪くは無い。寧ろ、国の危機を救ってくれた英雄だ。そんな彼を激昂させる一言を呟いたのは我々だ。怒りの矛先が自分達を向くのは当然。そして、然るべき罪を問われるのも当然。

ただ、切り刻まれるなんて…


きつく閉じた目を開く一同。きっと血の海が広がってるだろう…そう思いながら開いたのだが、抉れた地面しか目につかなかった。しかし、件の騎士団員は倒れていた。あはあは言いながら。


「ちぇっ、コントロール狂っちゃったよ」


直哉の一声で、凍り付いた空気が解凍された。

件の騎士団員の元へ駆け寄る者だらけだが、アリューゼだけが直哉に向かって歩き、土下座した。


「ナオヤ…傷を抉る形になってしまったのは我々の責任だ。だが……命だけは…」

「大丈夫だよ、あいつ生きてるし」

「へ?」

「消した方が良かった?何ならアリューゼさん、代わりに――」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」


先程女性の説教を逃れる為に発動した究極奥義の土下座だ。しかし、頭を打ち付ける速度が先程の比では無い。


「いいですよ、アリューゼさん」


直哉がそう言うと、アリューゼはほっとした様子で顔をあげる。先程の説教の危機も、この土下座で回避出来たのだ。今回も切り抜けれると思ったのだろう。

顔をあげたアリューゼは、恐怖に目を見開いた。


直哉が笑っている。顔立ちが整っているだけあって、それには人を引き寄せる魅力がある。悩殺スマイルと言うヤツだ。

だが、その暖かい視線が何を意味するか、アリューゼは気付いてしまった。

直哉のバックにはシエルが控えている。それに、戦闘力も桁違いだ。逆らったところで、どう足掻こうが勝てる相手では無い。


「どうかした?俺の顔に何かついてる?」

「いやいやいやいや、そんな事無いよ、ナオヤ」

「そう?ならいいんだ」


笑顔をアリューゼから騎士団員に向ける。凄まじい威圧感を感じたのか、全員の動きが止まる。


「ま、そーゆー事。分からない事だらけだけど、よろしく」


笑顔を崩さずに言い切った直哉。晴れて王国第一騎士団は、ガルガント王国よりも恐ろしい脅威を手に入れたのだった。


「まぁ、俺の自己紹介は終わりましたよ、アリューゼさん」


肩をポンと叩く。ビクッと震え、背筋を伸ばすアリューゼを見て、直哉は苦笑いした。


「やだなぁ、本気にしないでくれよ。ただ、禁句を呟いたらどうなるかを身に染み込ませただけだよ」

「ナオヤが言うと本気に聞こえるんだよ…」

「えぇー…別に槍を向けられて殺され掛けた事なんて気にしてないよ?」

「………すまん」

「ふふん。まー、槍の使い方教えてくれればチャラにしてあげようじゃないか」

「……そんなんでいいのか?」

「んじゃあ、後はちゃんと訓練に参加する事を条件としよう」

「ぐ………」

「別に槍を向けられて殺され――」

「あー分かった分かった!それで良いよもう!」


アリューゼを言いくるめた直哉は、女性に視線を向け、ウインクした。心なしか、頬が赤らんでるように見えた。


「……まぁ、みんなの名前分からなきゃ何も出来ない。自己紹介してもらえるかな?」

「そ、それもそうね。私はミーナ、騎士ナイトよ。よろしくね」


そう言うと、女性…ミーナは微笑んで見せた。髪の毛は栗色、ふわふわとカールしている。目は金色で、猫のようだ。革鎧を纏ってはいるが、非常に魅力的な身体をしているのが分かる。


「ナイト?」

「あぁ、説明して無かったね。騎士団は大きく分けて、騎士ナイト魔術師ウィザード魔術騎士パラディンに分類されてね――」



――騎士ナイト

主に接近戦を得意とする。剣や槍を使い、力で相手を薙ぎ払う。魔術には長けないが、それを差し引いても有り余る程の攻撃力を誇る。


――魔術師ウィザード

魔術を武器とする。様々な属性で繰り広げる遠距離攻撃が特徴。騎士ナイトとは逆で、接近戦には弱が、魔術に長けている。


――魔術騎士パラディン

騎士ナイト魔術師ウィザードを足して半分にしたようなモノ。魔術で武器に属性を持たせたり、魔術と物理攻撃を組み合わせたりと、様々な戦術がある。



ミーナが説明してくれたのは、こんな感じだ。


《俺はパラディンかな?》

『多分ナイトでもウィザードでも通じるだろうな』

《優遇されすぎわろち…》


そんな事を考えていると、次はその隣に居た男が名乗り出た。


「俺はラルフ。魔術騎士パラディンだ。よろしく頼む」


紺色の髪・つり上がった紫の目を持つ、クールなイメージの青年・ラルフ。身長が高く、190はありそうだ。スリムな体型もプラスされ、これまたモテそうだ。


「わ、私は、せ…セフィアと言います…魔術師ウィザードです、よろひくっ…よろしくおねがいしましゅ!」


噛みまくりな如何にもドジっ娘なセフィア。肩にかかる赤い髪に赤い目、気が強そうな印象とは掛け離れた顔立ちだ、笑顔が似合っている。身長はシエルと同じ位。何かシエルと似てる気がする。


「先程も自己紹介したけど、ルシオだよ。騎士ナイトだ」


ミーナと同じでナイトらしい。外見からは想像がつかない。


「そして、私はアイザックです。魔術師ウィザードです。どうぞよろしく」


言葉遣いが丁寧な男性のアイザック。緑色の長髪に、群青の瞳。海のような輝きは、回りにも安心を撒き散らす。セフィアと同じ位の体型だ。


「そして、ミーナ・ラルフ・セフィア・ルシオ・アイザックを纏めるのが俺、アリューゼだ」

「……意外と偉い立場なんだ」

「意外とは何だ意外とは」

「読んで字の如く」

「………」

「アリューゼさんはほっといて…ミーナにラルフ、セフィアにルシオ、そしてアイザックと」


五人はそれぞれ頷いた。軽く流されたアリューゼは、膝から崩れて頭を垂れている。


「そして、俺達の元には…それぞれ百人の部下がいるんだ。俺が魔術騎士パラディンだと、部下も魔術騎士パラディンで統一される」


つり上がった目がクールなラルフが言う。


王国第一騎士団は、アリューゼ団長の元にミーナ・ラルフ・セフィア・ルシオ・アイザックの五人の騎士達(副団長)が居て、その五人の元に各々百人の兵士(副団長と同じ分類の)が居ると言う事だ。


「なるほどな…んで、俺は何処に所属すりゃいいんだ?」

「それなんだが…ナオヤ、武器は扱えるか?」

「あぁ、剣なら弄った事はあるけど」

「ふむ…先程の魔術と言い、剣を扱えると言い…どうなってんだ、お前」

「槍は使えないから大丈夫。それに、剣も振り回してるだけかも知れないしな」

「訓練あるのみだな。…まぁ、取り敢えず剣だな。武器が無きゃ始まらん」

「剣って、どーすんのよ」

「作らせる。王宮には鍛冶場もあって、すぐに調達出来るぞ」


いくら王宮でも、ここまで来ちゃいますか…直哉は内心で呟く。そして、首を振る。

ミーナ隊の部下から剣を借りる。両側に刃がある、洋刀だ。


「多分、これじゃ耐えられないからさ」


そう言うと、洋刀を右手に持ち、集中する。雷球を作るイメージだ。


パリンッ!


ガラスが割れるような音と共に、剣は砕け散った。

一同は目を見張る。特に、パラディンのラルフ。マナとエレメントの量が多すぎて、剣が耐えれなくなり、崩壊したのだ。


「…やっぱり。あ、一本依頼しといてくれ。出来たらこの人に渡してね」


ミーナ隊の剣を貸してくれた部下に謝りつつ、アリューゼに言う。了解しながらも、心配な顔を隠せないようだ。


「そしたら丸腰じゃないか。騎士が丸腰ってのは、部下に示しがつかんぞ?」


言われてみれば…ミーナは片手剣を腰に下げ、背中には小型の盾を背負っている。ラルフとルシオは両手剣を、セフィアとアイザックは杖を、そしてアリューゼは槍を、各々が所持していた。


「それもそうだな…ま、俺なら平気だよ。"作れる"し」

「え?」


思わず聞き返すのはセフィア。魔術でモノを作り出す事が出来るとは聞いていたが、実際に成功した例は無い。

それを直哉は出来ると言ったのだ。自分の経験のため、是非とも見せてもらいたかった。


「あ、あのあの…もし、良ければ…その…こ、ここで作れませんか?」

「うーん…恥ずかしいんだけどなぁ…大したモノじゃ無いけど、まぁ」


そう言うと、右手を前に出す直哉。一同は固唾を飲んで見守る。


直哉が集中を始める。ナイトとアリューゼを除く三人の副団長の表情が強張る。

部下も気付いているようで、ざわざわと話す声が聞こえた。


エレメント・マナの量が尋常では無いのだ。何回か直哉の魔術を見た者が居るが、こんな身近では初めてだろう。


「マテリアライズ」


不意に直哉が呟く。すると、右手にエレメント・マナが集まり、渦巻き始めた。それらの渦はすぐに消え、代わりに柄のようなモノが出来上がる。


言葉を発する者は居ない。魔術に疎いナイト達でさえ、目の前の光景に驚愕していた。

何せ、何も無いところから、何かを作り出したのだ。普通じゃ考えられない。


「………柄?」

「そう、柄」

「刃は?流石に柄だけじゃ話にならないよ」


ルシオが驚きながら言う。確かに、柄だけじゃ攻撃するどころか、防御すら無理だ。


「刃はね…こうしてっと」


直哉が柄を上に突き上げ、集中を始めた。そして、稲妻が柄に落ちる。


「「うわっ!」」

「「きゃっ!」」

驚嘆の声と共に、顔を覆う一同。稲妻属性魔術にはびっくりさせられっぱなしだ。


静まり返る訓練所。直哉の声が耳に届く。


「出来たよー」


危険は無いと感じたのか、目を開き始めた。だが、稲妻の閃光をダイレクトに見てしまい、視界がぼやけている。

ゆっくりと視界が晴れて、直哉の姿を捉えた。

そして驚愕した。


先程まではただの柄だった所に、黒紫色の少し曲がった刃が伸びていた。痺れるような威圧感を放つそれは、尋常じゃない刀だと言う事を認めざるを得ない程、恐ろしくて美しかった。


「す、すごい…」


セフィアがぺたんっと座り込む。視線は直哉に送りっぱなしだ。


「わ、私…初めて見た…」

「信じられん…」

「ナオヤ…凄いね、君」

「うわぁ~」


上からミーナ・ラルフ・ルシオ・アイザックだ。想定済みな内容だったので、苦笑いで済んだ直哉であった。






色々と騒動もあり、時間は飛ぶように過ぎていた。結局柄を腰にぶら下げれるような器具だけを依頼し、サイズ調整のために柄は持ってかれてしまった。そんなこんなで、今日は解散となった。

気付けば外も真っ暗で、夜になっていた。


「あー…腹減った…」

「大食漢だしね、ナオヤ」

「え?何で知ってんの?」

「ナオヤの食べっぷりは噂になってるからね」

「………」


客室への帰り道をルシオに案内してもらいながら、直哉は考えた。


《……あの第一印象さ……》

『あん?』

《正直最悪だよな》

『あぁ』

《そこは遠回しにするなり励ますなりするとこだろ……》

『だってお前のせいじゃねェか……』

《それはそうだけどさ…変なんて言われて喜ぶヤツなんていねーべ?》

『ナオヤ、変』

「うるせぇぇ!」

「っ?!」


ウィズの一言に直哉がぷっつんしてしまい、言葉に出して怒鳴った直哉。ルシオはただ驚くしか無かった。


「どどど、どうした?」

「あ、いや…虫が回りを飛んでてさ」

「そ、そうか……」

「あ、あぁ……」


気まずい空気になってしまった。が、立ち直す事も出来ず、黙々と歩くしか無かった。

永劫にも感じれた時間も終わり、部屋に着いた二人。


「おー、ありがとさん」「どういたしまして。待ってれば、メイドさんが呼びに来てくれるよ…多分」

「素晴らしく不確定だなおい」

「はははっ!まぁ、僕も自分の部屋に戻るとするよ」

「あぁ…また明日な」

「うん。早いけど、おやすみ」

「おやすみ、ルシオ」


ルシオと別れ、部屋に入る直哉。精神的にくたくたで、ベッドに倒れ込んだ。


「あぁー…明日から鬱になりそうだ…」


独り言を呟くと、スウェットに着替える間も無く夢の世界に誘われる直哉だった。

直哉が眠って少し経ったころ、部屋に忍び寄る影が一つあった。

余りにも挙動不審で、見るからに不審者だ。


そしてドアを音も無く開けて、中に侵入した。熟睡中の直哉は気付かない。


「ナオヤさん…」


侵入者は呟き、直哉の顔を覗き込む。安らかな寝顔は微笑んでるように見え、見てると安心する。


不意に侵入者は右手を直哉に向ける。手には何かが握られていた。


直哉を見つめる目には、嫉妬のような眼差しが含まれていた。


そして、大きく振りかぶった右手を、直哉目掛けて振り下ろした。

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