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第十二輪:ナオヤ

今回はほのぼのまったりを採用しました!

前回とは違って、大部分をネタやほのぼのまったりが占めております。


じゃ、どーぞ!

一気に王宮まで飛んできた直哉。相変わらずテレポート…ってか、神様パワーに勇者補正は反則だと思っている。

因みに、出現した場所はシエルを救い出した時に出現した場所と同じだ。警備兵の飛び上がってビビるリアクションまで同じ。


「よっ」

「こ、こんばんわ…」


笑顔で挨拶をする直哉に、心底戸惑っている様子の警備兵。因みに、周りは暗くなっている。


「えぇと…」

「は、はぃっ!」


言葉を濁す直哉に、心臓バクバクな警備兵。ただの客人ならともかく、王女様の客人なのだ。その発言力には、当然権力が宿る。直哉の後ろに笑顔なシエルが透けて見える……気がする。


「そのー……」

「は……はい……」


言いにくい事なのか…まさか、王女様から遠回しに解雇を言い渡されたのか?!

そう思う警備兵の額には、脂汗が浮かんでいる。


もちろん、直哉はそれを承知である。なので、も少し苛めてみる事にする。


「シエルがねぇ~」

「はぃぃぃぃっ!!」


予想通り、物凄くびくついてくれる警備兵。にんまりと笑みを浮かべる直哉とは対照的に、警備兵は絶望と悲しみを織り混ぜた表情を浮かべる。


「……警備兵さん、頑張ってますね。これからも宜しくお願いします(はぁt)だってさ。伝言任されてたんよ、俺」

「……はい?」

「言葉の通りだよ。頑張ってるから、これからも宜しくね、とさ」


因みに、こんな伝言頼まれた覚えなど無い。紛れもないデマカセである。


だが、そのデマカセを聞いて座り込む程安心する警備兵。今さらガセネタだなんて言えない。黙っておく事にした。


「んでさ、これは個人的な頼みなんだけどさ」

「はい!何なりと!」


物凄く嬉しそうだ。

実は私…貴方の事が…その、好きなの!とシエルが言ってたよと吹き込んだら、どうなってしまうのだろう。


「国王様達の食堂まで案内してくれ」

「はい!喜んで!!」


ここまでやる気を出されても…しかも、内容が道案内って…。


とりあえず迷う事は無くなった。あとはどうやってアレを報告するか、だ。

スキップしながら意気揚々に道案内をする警備兵について行きながら、微妙に鬱になる直哉であった。






何かと語り掛けてくる警備兵に苦笑いしつつ、やっと食堂の前に辿り着いた。これからまた話すしか無いと言うのに、既にくたくたな直哉。

そんな事とは露知らず、満足気に去って行く警備兵。かなり溜めた溜め息を吐く直哉。


ドアの前に立ち、そのままノックする直哉。


「はい…」


シエルの声だ。


「直哉が帰ってきま――」

「ナオヤ!!」


バン!とドアが開けられる。ドアは部屋から出る時には押して開くと言うタイプのモノだったので、直哉は開くドアの直撃を喰らってしまった。鼻を押さえてうずくまる直哉に、シエルが駆け寄る。

真っ白のローブを身に付けて、如何にも白魔導師みたいだ。毎度お馴染みの服装である。


「っ~~!」

「あ、ご、ごめんね、ナオヤ」

「だ、だい゛じょ゛ぶ」


心配そうな視線を向けて来るシエルを、鼻を押さえながら笑顔で撫でる直哉。目を細めて撫でられるシエル…うん、可愛い。


ふらふらと立ち上がると、シエルが肩を貸してくれた。なんていい娘なんだろう……


『不覚にも、俺様までそう思っちまったぜ』

《だよなぁだよなぁ!…でも、ウィズって女の子…いや、メス?》

『せめて女の子にしてくれ』


ウィズの嘆願を聞き届け、脳内のウィズのプロフィールの性別を、メスから女の子に変える直哉。失礼の寄せ集めみたいな男だ。


《こらナレーション、失礼な事言うんじゃねぇ!》

『…ついにおかしくなったか』

《悪意の籠った意識を感じた》


憐れみを含むウィズの言葉に、不機嫌な感じで答える直哉。ナレーションも大変である。


「ナオヤ?」

「あ、わりぃわりぃ…今行く」


動かない直哉に不安を帯びた声で尋ねるシエル。直哉は大丈夫な事をアピールする。


部屋に入る二人を迎えたのは、コラーシュにフィーナ、セラの三人だった。最近このメンバーで居る事が増えたと直哉は思った。


「お疲れ、ナオヤ」

「お帰りなさい、ナオヤ」

「お疲れーっす!」


上からコラーシュ・フィーナ・セラである。自分を気に掛けてくれる言葉が身に染みる。


「神崎直哉、ただいま帰還しまひた!」


大事な所で噛んでしまう、可哀想な直哉なのであった。

それに気付かないのか、敢えて流してるのか…コラーシュは直哉に聞く。


「先程、巨大な柱のようなモノが目撃された。ナオヤ、お前なのか?」

「はい…」

「ヤケに自信が無い言葉だな」

「いや、まぁ…」


言葉を濁す直哉は、シエルを一瞥する。シエルは直哉を見つめ、コクリと頷いた。


ふぅ…と息を吐き、直哉は話し始めた。






「そんなのがいたと言うのか……」

「俺もびっくりしました。まさか、あんなのが…」

「そのまま放っておいたら…危なかったかもな」

「でも、なんで王国にそんなのが居るのでしょう……」


フィーナの疑問に、直哉は思い出したようにポケットを漁る。

そして、お札のようなモノを取り出した。


「あ…これ、ソイツを消したところに落ちてました」

「これは…呪術符?!」

「如何にもな名前ですね」

「ふむ…」


直哉の突っ込みのようなモノを受け流し、思索に更けるコラーシュ。なかなかヤバめのモノらしい。


「……まぁ、あんなに大規模だったら、次の手もそれなりに時間が掛かるでしょう」

「……それもそうだな」

「だから、今日のところは休んでおきましょ。明日から…そうだな、警戒を強めればいいかと」

「あぁ、そうするよ」


直哉の意見に頷くコラーシュ。的確で鋭い直哉の意見は、かなり貴重だ。

現に、礼拝堂騒ぎも直哉の意見により収まったようなモノだ。


「それにしても…やっと帰って来れたのはいいけど…」

「む、どうかしたか?」


ちょっと暗い表情を浮かべる直哉。心配したコラーシュは直哉の顔を覗きこむ。


「えぇ、ちょっと……」

「………?」

「……………お腹空きました」


ぐぅぅー、と直哉の腹の虫による悲鳴が響き渡る。揃って転ぶ直哉以外の四人だった。

そして、セラが口を開く。


「分かりました、すぐに準備しますね!」

「あ……肉類は遠慮ね」

「……分かりました」


これにはセラも納得を示した。ついさっきまで"肉"と対峙してたのだ。しばらくトラウマとなっているだろう。


そう言うと、セラは部屋から出て行く。向かうは厨房なのだが、当然の如く直哉には場所が分からない。


「あぁ、そだシエル」

「ほぇ?」


思い出したようにシエルに話し掛ける直哉。シエルはコップを両手で持ち、白い何かをちびちびと飲んでいる。小動物だ…直哉はそう思った。


「明日一緒に服を取りに行かない?預けっぱなしだったような」

「うん!!」


言葉の意味を理解したシエルは、いつもの満天スマイルで微笑み返すのだった。


そんな事をしていると、セラが帰って来たようだ。大きなお盆にお皿を数枚乗せて。


「ナオヤ様ー、サラダなら平気で――わっ!!」


段差も何も無いところでつまずくセラ。ドジっ娘全開だ。


右手でお盆をキャッチし、左手でセラを抱き抱えた。直哉の貴重な食事とドジっ娘は救われた。


「だいじょぶ?セラ」

「はっ…ははははぃいいっ、だっだだだっだいじょぶでごじゃままひゅ!」


赤くなって混乱(または興奮)するセラ。直哉の腕の中で体温だけが急上昇している。


「た…立てる?」

「は、はっははひっ!ももっもうだいじょぶぶぶ」

「ちょっと落ち着けよ」


ふらふらと立ち上がるセラに、コップに入った水を差し出す。それを受け取ると、一気に飲み干すセラ。


「ぷはぁー!まずい、もう一杯!」


某緑汁のCMのような台詞を吐くセラ。おかわりを直哉に要求し、ダンッ!とコップを机に置く。

そして、沈黙が場を満たす。


「「「「………」」」」

「早くもう一杯………や、やだっ、私ったら何を……キャー!」


真っ赤な顔を両手で隠すセラ。耳はおろか、手まで朱に染まっている。

そして耐え切れなくなったのか、部屋を全力疾走で脱け出そうとするセラ。しかし、先程躓いたところでまた躓き、びたーんっと言う豪快な音を立ててコケた。倒れたセラはピクピクしている。


慌てて駆け寄るナオヤ。セラを起き上がらせようと右手を差し伸べる。


「だいじょ――」

「嫌ああああぁぁああ!」


絶叫しながら走り去るセラ。オリンピックの短距離選手もびっくりな速度だ。


今の悲鳴を聞き、そこかしこから人が集まってきた。そして、時間が止まったように動かない、右手を差し伸べた状態の直哉を見た。表情は優しい微笑みを宿している。しかし、生気が無い。


回りがざわざわと騒ぎ出す。なんだあの人は…とか、黒い髪だ…とか、いい男ね…等々。

しかし、それらは直哉に届く事は無い。


不意に直哉が真後ろに倒れる。ポーズや表情はキープしたままだ。野次馬の一人が悲鳴を上げる。サスペンスドラマで冷たくなった人を見つけた人が叫ぶように。


死んでるのか?!とか、さっき悲鳴が聞こえたな…とか、まさか…等々と口々にぼやく野次馬。


すると、部屋の中からシエルが出てきた。引きつった笑みを浮かべている。野次馬は唖然としている。


「こ、こんにちわ~」


引きつった笑みのまま手を振るシエル。直哉の服の肩らへんを掴み、ずるずると部屋に引っ張り込む。


今度はフィーナが出てきた。こちらは満天スマイルを浮かべている。野次馬は唖然としっぱなしだ。


「おやすみなさい~」


手を振りながらドアを閉めるフィーナ。バタンっとドアが閉まる音ではっとした野次馬。見知らぬ男が死んだ…それも国王のいる部屋の前で…先程の悲鳴が事件の鍵を握ってる筈だ…等々、野次馬は独自の推論を展開する。


すると、また部屋のドアが開き、コラーシュ…国王本人が出てきた。

真顔な国王を前に、ざわめきを止める野次馬。

そんな野次馬を前に、コラーシュは言った。


「皆の衆…君達は何も見ていない。そう、きっと疲れてるだけなのだよ。さ、部屋に戻ってゆっくり休みたまえ」


国王に逆らえる訳が無く、しぶしぶ部屋に戻ってく野次馬。コラーシュは溜め息を洩らし、部屋に戻った。


部屋の中では、シエルによる懸命な呼び掛けが続いていた。


「ナオヤぁ…死んじゃやだよぅ…起きて、起きてよぅ…」


ゆさゆさと身体を揺らす。首がかくかくしてる事以外、変わった様子は無い。


「ナオヤ…ぐすっ、ナオヤぁ…ひっく」


とうとうシエルは泣き出してしまった。目にいっぱい涙を浮かべている。


「ナオヤーー!」


思い切り叫んで、思い切り目を瞑る。目の端から涙が滴り、直哉の頬に落ちた。

すると――


「はっ!…あれ?お花畑は?」


ビクッと身体を震わせ、キョロキョロし出す直哉。目覚めたようだ。

周りを見渡すと、涙目なシエルに、ほっとした表情を浮かべるコラーシュ夫妻がいた。


「ナオヤ!!」


抱き着いてくるシエル。なぜ抱き着かれるのかすら分かって無い直哉。困惑の表情を浮かべている。


《ま、シエルに抱き着かれて悪い気はしないけどね~》

『変われ!変わるんだナオヤ!』


にへらーっと笑う直哉に気付く事無く、シエルは直哉を抱き締めるのだった。






セラが持ってきたサラダを平らげ、直哉とシエルは風呂に行く事にする。直哉もシエルも、悪い汗をかきまくったのだ。

直哉もシエルも慣れたらしく、混浴には何の抵抗も無くなったらしい。


風呂場に着いた直哉達は、早速各々の脱衣室に入る。

茶色っぽい布を纏い、浴室に入る。

すると――


「ナ、ナオヤ様……」

「や、やぁ、セラ」


セラがいた。

あの後自分の部屋に駆け込み、自分がしてしまった事を悔やんでいたらしい。そして、気分転換にとお風呂に入りに来たらしい。


いつもなら絡んで来るのだが、先程のこともあり、控え目にしてるようだ。

だが、それが返って気まずさを醸し出す結果となってしまった。


「………」

「………」


二人の間を沈黙が満たした。シエルだけがきょとんとしている。そして、先程の事を思い出したらしく、「あー」とか「ふむふむ」とかぼやいている。


「……ま、まぁ、入るか、シエル」

「そだね!」


直哉に同意して浴槽に向かうシエル。直哉の左腕を右手で掴んで引っ張り、半ば強引に連れていく。


セラは正方形の浴槽の真ん中らへんで座っている。シエルもその辺まで突き進んで行く。直哉も連れてかれた。


セラはシエルを見た。いつぞやの小悪魔スマイルを纏うシエル。何故かいつもより大きく見えた。

そして、セラの隣に来る。さらに頬を吊り上げ、某怪談に出てくる「私、綺麗?」と尋ねてくる女性のような笑顔になり、セラは身の危険を感じた。


そして、身の危険は現実のモノになる。


不意にシエルが右手を引っ張る。右手の先には…直哉がいる。

急に引っ張られ、バランスを崩した直哉は為す術無く倒れる。倒れ込むと予測される場所にはセラがいた。


セラはシエルを見て固まっている。直哉は重力に従っている。シエルには…見えない尻尾と羽根が生えてる…気がする。


直哉とセラがぶつかった。勢いで倒れ込む二人。だが、このままではセラが頭を床にぶつけてしまう。直哉は咄嗟にセラを抱き締め、身体を回転させる。このままだとセラが下だったが、直哉が下になる。


ゴスッ!


「ぐふっ!」

「きゃっ!」


衝撃が二人を駆け巡った。特に、セラの代わりに頭を強打した直哉。とても浅い場所で幸いした。


直哉が下で、セラが上。身体を密着させてるその光景は、セラが浴槽で直哉を押し倒したようにしか見えなかった。

今の危ない状況を理解していない二人は、シエルを睨みながら叫ぶ。


「「シエル(様)ー!!」」

「いやっはぁー!」


天に向けてガッツポーズをとるシエルの雄叫びが響き渡る。


「それよりそれよりお二方、随分とぉ大胆じゃぁありませんか!」

「「え?」」


直哉とセラは同時に聞き返した。シエルは誰かを抱くふりをしながら、ニヤニヤと不気味な笑顔を向ける。


何の事を言ってるのか分からない二人は、お互いの顔を見合わせて――


「あ……」

「う……」


――顔が異様に近い事に気付いた。吐息が届く程だ。直哉とセラの間は5cmと言ったところだ。

そして、身体も密着してる事に気付いたセラは、羞恥に耐えきれず、眠るように意識を失い、そのまま顔を近付けて


「……!!!!!」


直哉に唇を被せ…



なかった。



直哉が咄嗟に首だけを右に捻り、ギリギリのところで回避したのだ。セラは直哉の首に寄り掛かるようにして、安定した呼吸を始めた。


「……チッ」

「シエルぅ!」


残念そうに舌打ちをするシエルに、セラが起きないように静かに抗議した。


「なぁに?ナオヤ」

「何すんだ!」

「ちょっと手が滑っちゃって」

「嘘だぁ!」

「あら、転んだのはナオヤでしょー?」

「悪意ありまくりだろォ!」

「セラを抱き締めたのだってナオヤの悪意でしょー?」

「これは…その、危なかったからっ!」

「ナオヤが転ばなきゃ良かったんじゃない?」

「ぐぬぬ…」

「それとも……ナオヤは、シエルが悪いって、ゆーの?」


シエルの十八番になった涙目上目遣い攻撃。お湯のせいでちょっぴり顔が赤らんでいる…ここまではいつもと一緒だが、服装が違う。湯気で湿った布は身体に密着し、腕で自分の肩を抱き締めている姿に、直哉は


「ごめんなさい、僕が悪かったです、もうしません、許してください」


謝るしか無かった。


「分かればよろしい」

「ははーっ」


シエルはご満悦の様子だ。


そして、踵を返して帰ろうとするシエル。直哉は慌てて呼び止めた。


「待て…いや、待ってください!」

「ん?」

「セラをなんとかしてくれ!」

「なんとかぁ?」

「とっ、とにかく助けてくれ!」

「それが人にモノを頼む態度かなぁ?」

「お願いしますシエル様、どうかこの愚民めに大いなるお慈悲を…」

「ふっふっふっ、そこまで頼むなら仕方あるまい。で?邪魔しないように出てって欲しいの?」

「だぁー!!!」


顔を真っ赤にして喚く直哉を、面白そうに弄るシエル。ちょっぴり様子が変だ。


「風邪ひいちゃう!このままじゃ風邪ひいちゃう!」

「ナオヤが暖めてあげたら?」

「ぶっ!」


直哉を弄りつつも、セラを抱き起こすシエル。脱衣室にセラを連れて行った。

そんなシエルを見て、直哉は呟いた。


「今日のシエル…おかしくね…」






直哉が入り口で待ってると、ガウン姿のシエルとセラが出てきた。セラはシエルにおんぶされている。まだ眠ってるようだ。


「うぅー…ナオヤ、おぶってあげてよ」


よろよろと歩くシエルを見て、そっちの方が安全だと判断した直哉。しゃがんでセラを背負うと、そのまま立ち上がる。心なしか重い気がした。


そして、シエルが居ない事に気が付いた。


「…シエル?」

「いっけぇ、ナオヤ号!」

「?!」


頭上から返事が返って来た。どうやら、おぶったセラの上にシエルが乗ったようだ。

直哉の頭をぺしぺしと叩き


「目的地はセラの部屋!舵は私が取るわよー!」


とかのたまった。


「………」

「ほらほらぁ、進んだ進んだ!」


直哉は溜め息をつき、しぶしぶ歩き始めた。


「あ、そこ左ね!」


ゴキッ


「おふっ」


…舵は直哉の頭だったらしい。左に右にゴキゴキと捻られ、苦しむ直哉を見て笑うシエルだった。






セラの部屋に着き、ベッドにセラを降ろし、横にさせてシーツを被せた。

いつもはコラーシュ夫妻のところに居るのだが、睡眠時などは部屋に戻るのだ。


「うぅ~ん…」


寝返りをうつセラ。寝顔は笑顔で、とても安らかだ。良い夢でも見てるのだろう。


セラは良いのだ、セラは。問題は――


「次の目的地はー、私のお部屋!さっさと行くわよ、ナオヤ号しゅっぱーつ!」


――シエルだ。

様子が明らかにおかしい。おぶっていて気付いたが、少し酒の匂いがした。食堂で酒でも飲んだのだろう。


豹変してしまったシエルに、大人しく従うしか無い直哉。理由は簡単、部屋までの道が分からないからだ。


「おやすみ、セラ」

「私のセラちゃん、おやひゅみなしゃ~い!」


セラに一声掛けて、二人は部屋を後にした。シエルに至っては酒の回りがヤバいらしく、呂律が回ってなかったため、言葉として成立していなかったが。






セラとは違い、意識的にしがみついて来るシエル。女の子特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。しかし、酒の匂いも混じってしまっている。


「ふぅーっ」

「っ?!」


酔ってるのか、行動が大胆になっている。不意に耳に息を吹き掛けられた直哉は、全身に鳥肌が立つのを防げなかった。


「あはははは、ナオヤ鳥肌立ってるー!!」

「うっせ!」

「にゃにおう!ふぅーっ!」

「にょわっ?!」


きゃっきゃっとはしゃぐシエルに、完全に遊ばれてる直哉。しかし、ここで逆らっては……


《いや待てよ…シエルを部屋に寝かせたら、俺はどうやって帰るんだ?》

『気合い?』

《現実は厳しかった》

『……まぁ、ガチで考えたら…その辺の警備兵を捕まえるかだな』

《うぅ…》


酔ってるシエルを歩かせる訳にはいかない。いつ爆発するか分からない時限爆弾を放置するようなモノだ。

…が、今日は一人の警備兵を利用してしまった。罪悪感が凄すぎて、もうあんな真似はしたくない。


《しゃーねぇ、今日は野宿か》

『王宮で野宿かよ…ま、死ぬワケじゃねェしな…我慢すっかぁ』

「ナ・オ・ヤ!」

「うぉ!」


シエルが何かを言ってた事に、ウィズと会話する直哉には気付けなかった。

頬を膨らませてるシエル(直哉の想像)は、ご機嫌斜めになってしまったようだ。


「もぉー、私の話聞いてないなぁー?」

「わ、わりぃ、これには訳が――」

「問答無用!えいっ!」

「ぐっ…!!」


直哉の首に腕を巻き付け、ギリギリと締め上げるシエル。恥ずかしさで赤くなるのとは違う理由で顔を赤くする直哉。シエルは楽しそうに締めている。


「ギ……ギブ、ギブでず……」

「あははははっ!」


不意に力を緩めるシエル。解放された直哉は、勢い良く咳き込んだ。


「げほっ、はぁ…はぁ…」

「つかれへるばあひじゃなひぞ~!」


これ以上このままにしたら、部屋に辿り着く前にただの屍になってしまう。

命の危機を感じた直哉は、歩くスピードを上げるのだった。






「はぁ~い、ここがシエルちゃんのお部屋れ~しゅ…」


首を絞められたり、耳に息を吹き掛けられたり、擽られたり…直哉が受けた拷問(?)は数知れない。

そんな中、ようやくシエルの部屋に到着した直哉は、見るも無惨な程疲弊しきっていた。


ドアを開け、中に入る。ベッドにふらふらと歩いて行き、腰掛ける。そのままシエルをベッドに降ろし、横にしてシーツを掛けてやる。遊び疲れたようだ、とても眠そうな目をしている。


そんなシエルの頭を撫でてやる。すると、シエルは微笑みながら目を閉じて、静かに寝息を立て始めた。


「おやすみ、シエル」


そう言って、直哉はドアに向かうために振り向く。

その時――


「ナオヤぁ…」

「?!」


――シエルが直哉の腕を掴んだ。直哉が驚いて振り向くと、眠ったと思ったシエルが起きていた。


「ちょっと、来て」

「………?」


振りほどく訳にもいかず、直哉は素直にシエルの元へ行く。すると、シエルは直哉の腕を引っ張る。急な事で対応出来なかった直哉は、シエルのいるベッドに仰向けに倒れ込んだ。


「わっ!」

「ナオヤ……」


倒れ込んだ直哉に擦り寄るシエル。顔は紅潮し、目には妖艶な輝きが含まれている。

艶やかな唇は、新たな言葉を紡ぐ。


「シエルね、ナオヤが町に行っちゃった後…ちょっぴり泣いちゃったけど、いい子にしてたんだよ?」


シエルの腕がお腹に乗せられる。


「シエル……」

「淋しくて、不安で、怖くて、ナオヤが心配で…」

「………」

「お母様に言ったらね、シエルはおっきくなったんたんだから、我慢出来るよね、って言われたの」


直哉のお腹に乗せた手に力を入れて、自分の身体を直哉に密着させて起き上がり、そのままお腹の上に座り込んだ。


「でも、やっぱり我慢出来なかったの…だから、ナオヤ…」


シエルが直哉目掛けて倒れ込む。そして、直哉の肩に顔を埋める。直哉は逃げる気になれば逃げれたが、逃げなかった。


町に行ったのは直哉の独断、シエルを泣かせたのも自分に責任がある。そして、シエルは自分に何かを求めている。それが何だろうと、それがシエルへの償いになるのなら…直哉は与えてやろうと決意していた。

心臓が鼓動を早める。それを承知で、シエルの言葉を待つ。


直哉の耳元で、シエルは囁くように告げた。




「今だけ…一緒に居て?」

「あぁ」


シエルを抱き締める直哉。少しシエルの身体が火照ってる気がする。酔ってると言えど恥ずかしかったのだろう。頑張って言ったのだな、と直哉は思った。

シエルも直哉の服を掴み、自分の身体を押し付ける。直哉の早い鼓動が伝わり、くすっと微笑むシエル。


直哉に抱き締められてほっとしたのか、やがてシエルは寝息を立て始める。今度は本当に眠ったようだ。


それを確認した直哉。シエルの頭を撫でてやり、自分の腕をシエルの頭の下に置く。所謂腕枕だ。

そして、シエルをしっかりと抱き締め、夢の世界へと旅立つのだった。

絶賛爆睡中の直哉とシエル。二人とも微笑んでいて、とても幸せそうだ。


どうやら同じ夢を見ているようだ。少し、夢の中にお邪魔してみよう――






――見渡すとお花しか目に入らない世界。空にはお日様が輝いている。頬を微風が撫で、遠くの薫りを残して行く。


いつもの白いローブに、麦わら帽子を被ったシエルと、黒いスウェットの上下を来た直哉が、そんなお花畑に寝転んでいた。


シエルが空を見上げる。直哉もシエルに倣う。

そして、不意にシエルが口を開く。


「ねぇ、知ってる?」

「ん?」

「この花畑で出逢った人とは、ずーっと一緒にいれるんだって」

「そっかぁ…じゃあ、シエルとずーっと一緒にいれるかな?」

「うん!!」


嬉しそうに抱き着くシエルを、しっかりと抱き締める直哉。


そんな二人を、微風が優しく撫でて行くのであった。

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