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連夜と夜一  作者: anemone
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ぬらりひょん 2

後書追加しました。神無月 七日



「ぬらりひょん、貴様さっき地獄見物に行ったと言ったな」

「う、うむ」

嫌な予感がし、ぬらりひょんは汗を垂らしながら答えた。


「地獄へ行って何か閻魔の物を盗んでこい」


「や、やっぱりぃっ!何故そんな物騒な所ばかり言うのじゃ?!」

ぬらりひょんはぎょっとし叫び、立ちあがろうとしたが縛られている為足をばたつかせ抗議した。


「当たり前だ、そんな商家なんて人間でも入れる所じゃつまらん。それに御所や地獄くれぇじゃねぇと誰も流石ぬらりひょんだとは思わねぇじゃねぇか」

「それは‥そうじゃが‥‥」


「閻魔といやぁ‥‥有名なのは浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)人頭杖 (じんとうじょう)、閻魔帳ってとこか」

「む、無理じゃっ!そんなモン持って流石に獄門から出られんわっ!」

「だろうな‥‥じゃあ笏だ、笏持って来い」

「しゃく?」


「閻魔がいつも手に持ってる杓文字みてぇの、あれだ、あれを持って来い」

「いつも手に持ってるものをどうやって持って来るのじゃ?!」

「そんくれぇ手前で考えろ。いつも持ってるっつっても手に貼りついてる訳じゃねぇだろ、それとも頭に被ってる冠にするか?」


「‥‥閻魔大王の物を盗んだらわし、どうなるんじゃ?地獄に落とされるんじゃないか?」

「散々人ん家の飯を盗み食いしておいて今更が過ぎるだろ。それにわしに言われて持って来てわしに渡すんだ、落ちるならわしだろ」

「そ、そうか?!そうじゃな!」


自分に害がないと途端に安心するぬらりひょんの小物っぷりに夜一は内心イラッとしたが、今はコイツをノせてその気にさせる方が大事だ、と更に餌を与える事にした。


「本当に持って来たら大したモンだ、そん時は解放してやるだけじゃなく貴様に酒をやっても良いな」

「な、なに?!本当か?!」 

夜一の撒き餌にぬらりひょんは目を輝かせ見事に食い付いた。


「ああ、それだけじゃねぇ。わしは眷族は持たんからな、わしと契約するなら正式に狢道を使わせてやるぞ。

狢族以外で使えるやつは少ない。あの九尾だって使わせろと五月蝿いのを使わせてねーんだ、貴様の好きな箔がつくぜ」

ぬらりひょんはたちまち目を輝かせた。


「本当じゃなっ!わしを騙そうという腹づもりではないな?!」

「そんなせこい真似するか。但し閻魔の笏を持って来てわしに力示せ、使えん奴に狢道を使わせるつもりはねぇ。これは貴様の試金石だ」


「わかった!行くぞ、行って来る。決して約束を違えるなよ!」

「ああ、貴様も間違っても逃げたり偽物持って来て騙そうとするな、すぐわかるからな。そん時はとっ捕まえて問答無用で川に放り込むぞ。

わしから逃げ切れるなんて思うなよ」

「う、うむ、わかった、わかっておるぞ」

夜一に睨まれたぬらりひょんはこくこくと頷いた。


「話しは決まりだ、大禍時になりゃ死出の山への入口が開く、それまで飯でも食って待ってろ」

夜一はぬらりひょんを縛っていた縄を切りニヤリと笑った。




◆◆◆◆



「この道をまっすぐ行けば死出の山、あの世への入口がある。土産を楽しみに待ってるぜ」

「うむ、流石に緊張するが必ず持ち帰ってやるから酒と美味いつまみを用意して待ってるが良い。では行ってくる」


すっかりやる気になったぬらりひょんは夜一と連夜に見送られ、死出の山を目指し早足に歩いて行った。 


「あのひょひょじじまた来るでち?」

「運が良けりゃぁな。さ、風呂に入ってさっぱりしたら呑むか」

夜一は良い暇潰しが出来上機嫌で屋敷へと入って行った。




「じじ様ちゃんと布団で寝るでち!」

「わかったわかった、昨夜はつい寝ちまった、悪かった」

食事も済み、だらだらと呑み続ける夜一に連夜はどん、と徳利を置きながら言い夜一は謝りながら連夜の頭を撫でた。

「むふー、じじ様おやすみなさいでち」

「ああ、お休み、今日も御苦労さん、ゆっくり寝ろよ」

「はいでち!」


部屋を出る連夜を見送り、連夜が出してくれたつまみの小鉢に箸を伸ばした。

「相変わらずこの山菜とどんぐりを味噌で和えたのは酒にあうな、つい飲み過ぎちまう」

上機嫌で手酌の酒を飲み、ぬらりひょんは今頃どの辺りに居るか、と思う。

出来ればワシを楽しませてくれると最高だが、さて吉とでるか凶とでるか、夜一は1人ほくそ笑んだ。



その頃ぬらりひょんはというと、とっくに獄門の門番、牛頭と馬頭に気付かれる事なく亡者が入る為に開いた獄門につるりと一緒に入り込んでいた。


ぬらりひょんにとって出入りだけなら何の問題もなく人間の民家へ上がり込むのと何ら変わりはないが、問題は笏だ。


確かに常に持っているとはいえ、食事時や寝る時、手から離すだろう時は幾つか考えつく。だがそれを持って獄門を抜けなければならない。


獄門を抜ける前に盗まれたと気づかれてしまえば流石に出入りが厳しくなり結界を張られてしまうと逃げれなくなってしまう。


その為盗んだ後は気付かれる前に、最速で獄門を抜ける必要がありもたもたと道に迷っている暇はない。

理想は閻魔大王が寝入った隙に持ち去る事だ。

ぬらりひょんは道順を頭に叩き込みながら閻魔大王を目指した。


地獄と言っても死出の山からの道のりは暗い洞窟のようだが一本道で迷う事はない。

三途の川を渡るとその先に大きな宮が幾つもあり、罪が確定するまで亡者は順番に各宮で生前の裁きを受ける。


川は鬼の官吏達が使う舟に乗って渡り、亡者が刑罰を受ける本当の地獄は()()()()()()行けず、流石にぬらりひょんは戻れるかどうかもわからないそんな恐ろしい所に態々行く気も度胸もないので、前回も針の山や釜茹でやらがある現世にある地獄絵図のような地獄は見ていなかった。



随分昔に来た筈だが地獄の様子は変わっていないようで、ぬらりひょんは段々と思い出していた。

確かここのはずじゃ____。


閻魔宮と書かれた一際大きな宮へと入り、大広間のような部屋へ足音も立てずに奥へと進んだ。

ギョロリと大きな眼を見開き、睨みをきかせている鬼達にどきりとするが平常心平常心、と念仏を唱えるよう自分に言い聞かせる。びびったら負けだ。


初めて閻魔大王を見た時は驚いた。

本当に現世で見た掛軸、地獄ノ閻魔大王図の通りで大きな身体に真っ赤な顔のせいでいつも怒っているように見えるが、声は穏やかで意外に優しい声色をしていた。


だがある亡者が嘘を吐き、浄玻璃の鏡で証拠を見せられても認めずにいると閻魔は怒り、ここで結審する、貴様のような嘘吐きに舌は要らぬ、舌を抜き800年刑に処す!と一喝するとどん、と木槌を叩いた。


すると亡者の足元に真っ黒な穴が現れた途端、業火に焼かれ苦しむ亡者の叫び声が響き渡りその中へすとんと消えるように落ちて行った。

ぬらりひょんは亡者達の苦しむ叫び声が耳にこびりつき、恐ろしさのあまりに閻魔宮から先へは行かず早々に逃げ帰った程だった。 



それにしても____

ぬらりひょんは大広間にずらりと並ぶ亡者を見た。

凄い数の亡者じゃ。まるで現世の都と変わらん。この世もあの世も人間だらけじゃ。閻魔様は一体いつ休むんじゃ?

ぬらりひょんは暫く様子を眺める事にした。


始めは物珍し気に裁判の様子を眺めていたぬらりひょんだったがすぐに飽きた。

人を騙したとか金を盗んだとか、そもそも人間に興味が無い。

退屈したぬらりひょんは壁際へ寄るとごろりと横になった。


思えば行商狸を見かけて狢道に入ったは良いが狸を見失い、散々迷ってやっと出れた狢庵で飯にありついたと思ったら夜一に捕まってしまった。


そこからは地獄で噛まれるは踏まれるは縛られるは、散々な思いをしてからの本当の()()()()。現在進行形で地獄真っ只中である。

ぬらりひょんは思い出すと、全く洒落にもならん、わし可哀想じゃ、と段々腹が立ってきた。


‥‥‥わし逃げて良くね?

‥‥‥いや、でも少し飲んだだけじゃがあの酒は美味かった。


夜一様の酒は妖の力を強くするとか不老長寿じゃとか噂があるが‥‥眉唾じゃとしてもあの酒は実に美味かった。出来ればまた飲みたい。


喰わせてくれた飯も実に美味かった。

あの出汁の効いた卵焼きやぽりぽりと歯応えの良い漬物をつまみに是非飲みたい‥‥!そして小物の妖共に自慢したい!!


‥‥逃げるのは失敗した時考えれば良いじゃろう。万が一捕まってもわしは夜一様に脅され仕方なく来た哀れな被害者じゃ。うむ、嘘はついとらんしわし悪くない。


そんな事を考えながらも疲れていたぬらりひょんは横になった途端うとうとと微睡みだした。



「今日は大王様湯浴みの日よ、用意は出来ている?」

ひそひそと聞こえた声にぬらりひょんは目を覚ました。


「ああ、いけない、まだお着替えのご用意が出来ていないわ!」

「もうすぐ時間よ、こっちは良いから行って頂戴」

鬼女の1人は頷き、ぬらりひょんは湯浴みじゃと?!こいつはまたとない僥倖!と慌てて飛び起き鬼女の後を追った。


鬼女はパタパタと急ぎ足で部屋へ入ると畳まれた着物を両手に抱えて出てきた。

身体の大きな閻魔大王の着物はまるで敷物のようじゃ、と思いながら後をついてゆく。


「良かった、間に合ったわ。お忙しい大王様のお手を煩わせるところだったわ」

鬼女は浴場に着替えの着物を置きながら1人呟き安堵し出て行った。ぬらりひょんはそのまま浴場の隅に踞るように座り閻魔様を待つ事にした。


小半刻(15分)もせず浴場の扉が開き、大きな閻魔大王と後ろから小姓のような小鬼が入ってきた。


「大王様、今日は亡者の数も少ないですし、お髪も洗ってゆったり湯に浸かって下さい」


ええっ?!あれで少ないの?!あんなにぎっしり居るのに?!ぬらりひょんは思わず言いそうになり手で自分の口を抑えた。


「うむ、しかしあまり皆を待たせるのも‥‥」

「大丈夫です!大王様は働き過ぎです!湯浴み位寛いで頂いても誰も文句等言いません!ゆっくり浸かれるよう、水のようにぬるくぬるくしております!」

「それは嬉しいのう」

「大王様はいつも熱さに耐えていらっしゃいますから」

小鬼は言いながら閻魔様の脱いだ着物を手早く畳み纏めてゆく。

そして冠と笏を着替えの横に置き引き戸を開け浴場へと入って行った。


今じゃ!!!

ぴしゃり、と戸が閉まると同時にぬらりひょんは笏へと手を伸ばした。


おおお?!

大きな笏はぬらりひょんが手にすると、ぬらりひょんの身体のサイズに合わせ小さくなった。

流石閻魔様の笏じゃ、ただの笏とは違うわい。

ぬらりひょんは感心したものの着物の袂に笏をしまうとそっと扉を開け、廊下へ出ると脱兎のごとく走り出した。


急げ、急げ、恐ろし程順調じゃ!このまま獄門を抜け帰るのじゃ!!


ぬらりひょんは迷う事なく順調に現世へ戻る獄門へと走って行く。

あまりに順調過ぎて、罠ではないかと勘繰る程すんなり獄門へと辿り着き、やや緊張しながら牛頭馬頭の足元を通り過ぎると獄門が開き亡者が三人入って来た。

ぬらりひょんは緊張から息をひそめ亡者の三人とすれ違い、無事に獄門を抜けると扉が重々しく閉まった。


ふうう、と深い息を吐きながら歩き、獄門から離れるとへなへなと道端に座りこんだ。

袂をまさぐり笏を取り出し確認するとぬらりひょんは飛び上がった。


「ふひょひょひょひょ!!やったぞ!やった!盗ってきたぞ!あの閻魔大王から盗むなんぞ古今東西の大盗賊でも出来まいて!

わしが初めてじゃ!わし凄いっ!!」


地獄へ行き閻魔大王の笏を盗んでこいなど、夜一の嫌がらせでしかない難題をこうも容易くこなすわし、凄すぎる!


わし、今最高に輝いておる‥‥!


ぬらりひょんは笏を胸に抱きしめ己の才覚に感涙した。


「待っておれ、夜一、今ぬらりひょん様が参るぞ!ふひょひょひょひょひょ!」

ぬらりひょんは小躍りしながら狢庵目指し走った。

 


狢庵に駆け込むと、広間に夜一と連夜がいた。

ぬらりひょんの得意そうな顔を見て夜一がにやりと笑うと、ぬらりひょんは夜一よりも更に得意げな顔で笑い袂から笏を取り出し、『頭が高い、控え控え〜』の印籠のように掲げ叫んだ。


「ふひょひょひょひょ、首を長くしてわしの帰りを待ちわびておったか夜一!貴様所望の」

「じじ様を呼び捨てにするなでちーーっ!!!」


夜一を呼び捨てたぬらりひょんに連夜はあまりの怒りに顔を真っ赤にし、両の耳と鼻の穴からヤカンのようにぴーっと湯気を出すと湯気はそのままぼん!と煙になり、連夜の顔は身体の3倍程も大きくなった。


同時に飛ぶとその大きな顔の半分以上大きく口を開け、トラバサミのような牙を剥き出しぬらりひょんの後頭部へがぶりと噛み付いた。


「あ痛あっ!!!痛いっ!噛むなっ!止めてくれぇっ!」

「ひひひゃまひあやまゆへちっ!」

「痛いっ!牙が食い込むから喋るなっ!頭が割れるっ!!わしが悪かった!許してくれーっ!」


「いいから離してやれ。腹壊すぞ」

「ふーっ、ふーっ!」

「連夜、来い」


怒りから興奮している連夜に夜一はぽんぽん、と胡座をかいてる自分の膝を叩くと、漸く連夜は噛むのを止めて飛び降りた。


夜一の膝にちょこんと座るとシュルシュルと通常に戻った自分の顔を嬉しそうに擦った。


「‥‥調子に乗って‥すまんかった‥‥」

ぬらりひょんは連夜に噛まれた跡からぴゅーっと血を流しながら両手をついて土下座し謝った。


「次は謝っても許さないでち!」

「連夜()ごめんなさい」

妖の世界は力が全てである。ぬらりひょんと連夜の上下関係が呆気なく決まった瞬間だった。


「約束の閻魔大王の笏じゃ」

「ほう‥‥」

ぬらりひょんが差し出した木の笏は随分年季が入っているが、手入れも十分されており艶がある。


夜一は手にしくるり、回し見るとぎゅ、と握り力を込めた。

すると笏は閻魔大王が持っていた時と同じ木刀程の長さになり、夜一は連夜、呼ぶと連夜に笏を渡した。


「むむっ?!」

「どうやら本物のようだな」

連夜が持つと笏は小さくなり、連夜は驚き夜一は満足気に頷いた。


「化ける棒でち、伸びるでち!伸びろでち!」

連夜は小さくなった笏を回して眺めたり振ってみたりするが大きさは変わらない。


「大したもんだ、ぬらりひょん。約束の酒だ」

夜一はどん、と蓋のされた黒の通い徳利を置きぬらりひょんの目は輝いた。


徳利は大きく縦長、丸に煙の中に満月、夜一の着物や連夜の腹掛にあるのと同じ狢庵の家紋と狢庵の文字が入っている。

蓋の上から上等な朱色の紙で封をし金糸で縛り、持ち手の組紐が黒と赤の二色で編まれた、一目で上等な装飾がわかる逸品だった。


「わしの酒の中でもこいつは滅多に出さねぇ特級だ」


ぬらりひょんはこそこそと盗み飲むのではなく、堂々と手に入れた酒の立派さに胸が一杯になった。


「わしと契約するなら狢道を使わせてやるがどうする?」

「もう地獄は御免じゃ!あんなとこ2度と行かんぞ!」

「地獄は貴様の試金石だ、もう用はねぇ。

貴様の力を借りたい時呼ぶが嫌なら断りゃ良い、眷族じゃねぇんだ、強制はねぇよ」

「報酬はなんじゃ?!」

「何が望みだ?」

「ここの酒と美味い飯じゃ!」


ぬらりひょんは待ってたとばかりに即答し、夜一は意外で片眉を上げた。


図々しいぬらりひょんの事だから過ぎる金額の金を要求してくると思っていたが、ああ、勝手に飲み食いできるこいつに金は必要ないのか、思い納得した。


「ああ、そうか。貴様に金は必要ねぇか。良いぜ。

しかも貴様わかってるな、連夜の飯は美味い」

「契約成立じゃ!!」


「これをやるから肌身離さず持っておけ。持っていねぇと狢道がわからんし、失くしたら二度と入れなくなるぞ」

夜一が投げた木札を受け取ったぬらりひょんは木札をまじまじと見た。

札には家紋に通行手形、狢道、と書いてある。


「わかったら血判を押してしまっておけ」

「わちも持ってるでち」

連夜は首から下げてる紐を引っ張ると、腹掛のかくし(ポケット)から出てきた木札を見せた。


連夜の札は紅の組紐で下げられ、札の所が梅結びで止められており可愛かった。

ぬらりひょんは心の中で真似しよう、と決めた。


がり、と親指を噛み指を押し付けると木札はぽうと淡く光り、血判は札に吸い込まれるように消えた。

ぬらりひょんは木札を袂に入れようとしたが止め、あーんと口を開け飲み込んだ。


「これなら失くさんわ」

「呼んだら必ず来いよ」

「すぐに来るでち、じじ様を待たせたら噛むでち」

「う、うむ、心得た」


「それから忠告しといてやるが今後地獄の話しはするな。貴様の首を締める事になるぞ」

「な、何故じゃ?!」

「当たり前だろ、閻魔の笏を盗んで来たんだ。そんな話しをあちこちでしてみろ、間違いなく取り返そうと閻魔の眷族や地獄の官吏どもがやって来て地獄へ引き摺り込まれるぞ?」


「じゃがわしは持っとらん、持っておるのは夜一様じゃし持って来るよう命じたのは夜一様じゃ!」

「ああ、だからわしは決して誰にも話さねぇし見せねぇ。相手が悪過ぎる、地獄に行きたくねぇからな。なんせ閻魔は有名な()()()だ」

「‥‥っ!」

夜一は言いながら自分の耳を指でトントンと軽く叩き、ぬらりひょんは顔を青くしガックリと項垂れた。


「くぅう〜‥‥っ小物共にこの酒を見せびらかし飲みながら、わしの一世一代の晴れ姿、胸踊る素晴らしい白浪活劇(大泥棒ぬらりひょん)を語って聴かせようと思っとったのに‥‥!」


皆が自分の話しを聴き入り、尊敬の眼差しで見つめる様を想像していたぬらりひょんは非常に未練があったが確かに閻魔大王相手では分が悪すぎる。

地獄で嘘の通用しない閻魔様の姿や刑に処される亡者を思い出し、ぶるりと震えると泣く泣くこの事は一生口を閉ざす決意をした。




その頃地獄では_______


「もう一度脱がれたお着物の中にも紛れていないか確認しろ!」


湯浴みの後食事をし、仮眠をとって目覚めた閻魔大王は仕事に戻ろうとし漸く笏が無い事に気づいた。だが笏がどこにも見つからず騒ぎになった。


「これだけ探して見つからないなどおかしい」

「わしがうっかり何処かへ置いてしまっただけで、すぐに出てくると思ったのじゃが‥‥」

「いえ、大王様、湯浴みの際脱がれたお着物と一緒に置きました、間違いありません!」

「‥‥まさか亡者どもの仕業か?!」

「ふむ、わしを恨んでおる亡者は多いだろうからのう」

「だからと言って大王の物を盗むなど!」

「慌てるな、まだ盗まれたとは限らん。第一亡者が盗んでも何の役にもたたないではないか」

閻魔大王は怒る刑吏達を宥めながらも首を傾げた。


「もし亡者の仕業であれば裁きの場で明らかになるのじゃ、慌てずとも良い‥‥とはいえ笏がないと何かしまらんのう」

「大王様、取り急ぎ今はこちらをお持ち下さい」

閻魔大王は用意された新しい大きな笏をひょいと手にし、眺めた。


「‥‥うむ、これ以上裁判を遅らせる訳にはいかん、わしの笏が見つかれば速やかに持って来るように」

閻魔大王は新しい笏は手に馴染まないようで、不満顔で言い地獄の官吏や刑吏達は御意、と頭を下げた。



夜一によるとぬらりひょんは地獄に丸三日いたらしく、何も言わずとも気前良くご飯と酒を振る舞ってくれた。


ご相伴に与れたぬらりひょんはすっかり気を良くし、居心地の良い狢庵にこのまま居座ろう等と考えていたが、あっさり連夜にひょひょじじの布団はないでち、帰るでち、と追い出されてしまった。

 



◆◆◆◆


思わぬ珍客、ぬらりひょんも帰り狢庵はいつもの静かな夜を迎えていた。


「じじ様、ひょひょじじ好きでち?」

縁側に座り、月明かりで書物を読みながら煙管を吸う夜一に、隣へ座った連夜が聞き夜一は片眉を上げた。


「ん?ああ、手形をやったからか?好きじゃねぇが嫌いでもねぇよ。‥‥いや、随分わしを楽しませてくれた、悪くねぇ」

夜一は言いながら満足そうに笑った。


「彼奴は自分で気付いてねぇがちと厄介でな。ああいうのはさっさと鈴をつけるに限る」

「鈴をあげたでち?」

「ああ、これで狢道の外でもわしは彼奴を見失う事はねぇ。誰にも言うな、内緒だぜ」

「わかったでち!」

夜一は悪どい顔で笑い、連夜は頷きながら笑った。





おまけ


「どうじゃ?!大泥棒ぬらりひょん様の活躍は?!胸踊る大冒険活劇であろう!!わしの活躍を称え、いいね!すると良いぞ!」

「折角読んでくれた皆様に生意気でちっ!許さないでちーーーっ!!」


連夜はどろん、と煙と共にトラバサミとなった凶暴な牙をガチガチと鳴らすと飛びつき青褪めるぬらりひょんの後頭部に噛みついた。


「痛いーーーっ!!わしが悪かったのじゃ!謝るのじゃ!!」

「皆様に謝るでちっ!!」

「ごめんなさいっ!許して下さいっ!生意気を言ってすまなかったのじゃ!!是非また遊びに来て欲しいのじゃっ!この通りじゃっ!」

ぬらりひょんは渾身の土下座をしています。


「ごめんなさいでちっ!わちとじじ様にまた会いに来て欲しいでちっ!是非ブクマをして欲しいでちっ!

好きなお話があった時はお星様やいいね!をつけて欲しいでちっ!お願いしますでち!」


連夜は懸命に頭を下げお願いしています。

星をあげますか?→はい  ありがとうございます!下の星をぽちりとお願いします!!


いいえ→ 頑張りますので是非また遊びに来て下さい!ありがとうございました!

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