表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
連夜と夜一  作者: anemone
4/19

分福茶釜 2


「可愛いでちっ!猫にわん‥‥犬でちっ!

‥‥じじ様大変でち!!狸を忘れてるでち!居ないでちっ!‥‥さては化けてるでちかっ?!」


都から狢庵に帰った夜一から渡されたお土産の饅頭を見て連夜はとても喜んだが狸が居ず驚きの声を上げた。


「忘れてねぇよ。狸は難しくてまだ修行中だとよ」

「狸は難しいでち?」

「ああ。まぁしょうがないだろ。わしら狸の粋さや愛らしさは他の奴等とは別格だからな」

「‥‥仕方ないでち」

「ああ、仕方ねぇ。狸が出たらまた買ってきてやる、わしも楽しみだ」

二人は素晴らし過ぎる狸だから仕方無い、と納得し頷きあった。


「飴も好きに喰って良いが必ず歯ぁ磨けよ」

「はいでち!じじ様ありがとうでち!」


連夜は並んだ饅頭を睨むように見つめ散々悩み抜き、狐を手にすると色んな角度から眺めたり置き直したりした後に漸く口にした。


「甘くて美味しいでち‥!ひよこは最後に食べるでち。時告げ鶏(にわとり)になるかもしれないでち」

連夜は真剣な顔で言い、夜一はそうかと笑って連夜の頭を撫でた時、ふと分福茶釜を思い出した。


楽しそうに芸をしていたので放っておいたが本当にそうだろうか?

まだ幼そうな様子から騙されていたり何か事情があるかもしれん、と夜一は今更ながら気になった。


「‥‥じじ様、どうしたでち?お腹痛いでち?!」

自分の頭に手を置いたまま何やら考え込む夜一に連夜は小首を傾げた。


「いや、ちょっと気になる事がだな____

‥‥連夜、今晩わしはもう一度出掛けるから留守番を」

夜一の留守番と言う言葉に連夜はぴし、と石化した。


「‥‥‥はい‥でち‥‥留守番‥できる‥でち‥‥」

そして俯きぷるぷると震え涙を堪えながら呟いた。

そんな連夜に夜一は流石に日に二回も留守番させるのは酷か。都だが夜だしな、と思い直し置いたままの手で軽くぐ、と頭を抑えた


「‥夜中だが一緒に行くか。起きられるか?」

夜一が言うと連夜は行くでち!と顔をあげこくこくと頷いた。


「行くのは都だ。絶対にわしの側から離れねぇと約束できるか?約束できねぇなら連れて行かん」

「約束でち!!」

「約束な。勝手に彷徨くなよ」

「はいでち!約束でち!」

「起こしてやるから今のうちに寝ておけ」

連夜は夜一に抱きつき何度も頷いた。



◆◆◆◆



深夜の子の刻(0時)、夜一は再び大和貝紫の柳通りを訪れた。

連夜は離れないよう肩車にのり、夜一の頭にしっかり抱きついている。

夜一は表の通りから小屋をぐるりと裏へ回り裏口を見つけると中へと入った。


中は真っ暗で明かり一つなく静まり返っており人の気配はない。


後ろにあったもう一つの建物で人間どもは寝ているようだが分福茶釜もそこかもしれん、と思いながら暗闇の中夜目がきく夜一は灯りもつけずすたすたと歩き、舞台裏に積まれた荷物に紛れるように置かれた檻の前で止まった。


しゃがんで少し大きな檻の中を確認し片眉を上げた。


「おい、分福茶釜_____お前、妖狸じゃねぇな、付喪神か___」

「はいー、凄いです〜、私を付喪神と見抜いたのは旦那様が初めてです〜」

分福茶釜の笑顔と随分呑気な声に夜一は少し力が抜けた。見た目も性格も幼く随分無邪気なようだ。


「‥‥お前、お茶沸かすでち?」

連夜は分福茶釜を覗き込み首を傾げた。

「はい〜、お茶を煎れるのは得意です〜!飲みますか?」

「飲むでち!どうやって沸かすでち?熱くないでち?」


「連夜待て、茶は後だ。

お前は好きでこんな所に入って見世物になってるのか?」

夜一の怒りを含んだ声に分福茶釜は俯いた。


「此処に入るのは好きではないですが仕方ないのです」

「何が仕方ないんだ」

分福茶釜は顔を上げると話しだした。


「私は元々爺様の茶釜でした〜。とても大切にして頂き幸せだったのですが、ある日私は盗まれてしまいました〜。

爺様の元へ帰りたい、帰りたいと思っていたら手足が生えて付喪神になりました〜。

それで爺様の所へ帰ろうとしているのですが、爺様の家も居場所も分からないので探しているうちに捕まって売られ、何度も逃げては売られ〜」


「‥‥お前じゃすぐ捕まるだろな」

「そうなのです〜。なのでまた盗まれない為にここ()に入れられるのは仕方がないのです〜」

夜一は呆れて言うが分福茶釜は気づかずうんうん、と頷いた。


「その爺さんとやらの元へ帰るのは諦めたのか?」

「いいえ〜、今の買い主様はとても優しい方で、私の話しを聞いて私の為に興行をして下さっているのです〜」

「‥‥‥お前の為?」


「はい〜、興業しながら各地を回ります、私が頑張れば頑張る程沢山の人が見に来ます〜。爺様も見に来て私を見つけてくれるかもしれません、うふふ〜」

「‥‥お前、それを本気で言ってるのか?」

「ふえっ?!」


「お前の話しからすると、爺さんとやらはお前の今の姿を知らねぇだろ。

お前に手足が生えたのは爺さんの元から盗まれたからだろうが」

「ああっ!!‥‥‥そうでした‥‥!」

分福茶釜は夜一の指摘に酷い衝撃を受けがっかりした。


「本当はお前もわかっていたんだろうが。

ここの奴等はお前のお陰で随分と儲けている。なのに水と握り飯だけ一緒に檻に放り込んで、どこが優しいってんだ」

「‥‥そうなのです‥‥誰も私のお茶を飲んでくれず寂しいのです‥‥」


「お前のお茶は美味しいでち?」

「は、はい〜、薄め濃いめ、教えて頂ければお好みで煎れます〜、お勧めは一杯目はぬるく薄め、二杯目は濃くて熱め、爺様もお好きでした〜」

分福茶釜は思い出し笑顔で頬を赤らめた。


「じじ様とわちに煎れるでち!わちとじじ様は帰ってお饅頭食べるでち!」

「ああ、お饅頭は良いですね〜お茶がとってもあうのです〜」

「‥‥仕方ないでち、お前にもお饅頭一つあげるでち。でもひよこは駄目でち」

「嬉しいです〜!でもひよこはお饅頭じゃないですよ、うふふふ〜、私でもそれくらいは知ってますよ〜」

連夜と分福茶釜は何やらほのぼのと話しており夜一は溜め息を吐いた。


「お前等一旦茶の話から離れろ。分福茶釜、お前はどうしたい。ここにいたいのか?」

「私一人だとすぐ捕まってしまいます〜。それならここに居る方が爺様に会える可能性がありますから〜」

「___そうか」

夜一が立ち上がろうとした時、肩の連夜がグッと檻を握り叫んだ。


「駄目でち!お前はじじの所に帰れでち!」

「でも〜」

「お前のじじは心配してるでち!じじが待ってるでち!じじを一人ぼっちにするのは駄目でち!!

お前もここは暗くて寂しいでち、出るでち!」

連夜が言うと分福茶釜はぽろ、と涙を溢した。


「‥‥盗まれて‥ごめんなさい‥っ、‥爺様ぁ‥‥会いたいですぅ‥‥何処にいらっしゃるのですかぁ‥!」


分福茶釜は堰を切ったように泣き出し、その声を聞いた夜一は檻に付いている大きな錠前を掴むとバキン!!と力任せに錠を壊し扉を開けた。


「出て来い、分福茶釜。わしにお前のじじいを探す方法に考えがある。だがわしは無理強いはせん。帰りてぇなら折角生えたその手足で出て来い。

お前の手足はじじいの所へ帰る為で、芸をする為じゃねぇだろ」


分福茶釜は戸惑いどうすれば良いのかわからず、ぐすぐすと涙をぬぐいながら夜一を見つめた。


動かない分福茶釜に夜一は諦めたように立ち上がり、行ってしまう、思った時連夜は夜一の肩から飛び降り開いた扉から叫んだ。


「帰るでち!!」

「は、はいっ!」

連夜の怒った声に分福茶釜は思わず返事をし、檻から飛び出した。

 

檻から出てきたものの、分福茶釜は少し怯えるように辺りを見回していた。

夜一は今まで人間に追い回されてきたので不安で怖いのだろうと思い少し目を伏せた。


「‥‥連夜、こいつと手ぇ繋いでろ。鈍臭ぇからはぐれねぇよう見ててやれ」

「はいでち!わちは連夜でち」

「分福茶釜です〜」

「長いでち‥‥言いにくいでち‥‥」

「ぶんちゃんと呼ばれます〜」

「ぶんちゃん、呼べるでち!」

「はい〜、連ちゃん宜しくお願いします〜」


何やらちっこい子狸が二人手を繋ぐ姿が可愛く、思わず微笑ましく見ていた夜一だったがぴくり、と暗闇に小さく浮かんだ提灯の灯りに目を向けるとニヤリと笑った。夜一は機嫌が悪かった。



「わはははは、笑いが止まらんっ!ここでの興行はもう成功したも同然、アイツは本当に分福茶釜だ、黄金色の幸せをわんさか運んで来てくれるっ!」

「騙されているとも知らねぇで健気なもんだ!」

「なに、騙してはおらんぞ、あいつに言った通り実際興行して各地を回っているんだからな!」

「そうそう!たんまり稼ぎながらな!」

「精々優しくしてやるさ、この土産の稲荷寿司を放りこんでやってな!」

「優しくな、わははははは!」


呑んで上機嫌で帰ってきた興行主の男達三人は酔いからか大声で笑いながら話し分福茶釜は俯いた。


夜一はふう、と口から妖気を吐き出し、黒い煙は暗闇に紛れ渦巻くと小屋全体に広がり溶け込んだ。


「連夜、花火を見せてやれ、派手に上げろ」

「やるでち!」

連夜はすうと大きく息を吸うと、口からぽんぽんと幾つもの火の玉を吐き出した。


連夜の吐き出した火の玉は勢い良く天井や壁に当たるとどーん!と大きな音をたて、子供が描いた絵のような少し歪な花やどんぐり、狸の顔?等の花火となり、消えずそのまま焼き付きぱちぱちと音をたてて燃えだした。


その花火を見て夜一は上手ぇぞ連夜、随分上手くなったじゃねぇか、と手を叩き喜んだ。

分福茶釜も驚いていたがつられるように連ちゃん凄いです〜と手を叩いた。


二人に褒められた連夜は顔を赤くし頭をかくと、むふー、と鼻息荒くもう一度息を吸い今度は花丸のような花の大きな一発を上げ二人は更に拍手した。


突然の花火と音に男達は驚き辺りを見回したが火が燃え移っているのを見て我に返り一斉に怒鳴り出した。


「?!は、花火っ?!誰だっ!こんな所で!」

「火?!なんだっ?!おいっ!水だ水っ!誰か水持って来いっ!」

「あつっ!おいっ!誰だっ?!何処から‥花火なんかしやがったのはどいつだっ?!」

「それよりあの化け狸を‥‥!」

「そうだ、小判を生むアイツをこんな事で死なせる訳にいくかっ!!」

男達が慌てて檻に駆け寄ると、檻の扉は勝手に勢いよく開いた。


「よくも騙したなーーーっ!」

扉から恐ろしい怒りの形相で大きくなった分福茶釜の顔がぬーっと伸びた首と共に出て来て男達を睨み、男達は驚き尻餅をついた。


「うわっ?!」

「なんだ?!この化け狸め、本性を現しやがったか?!」

「許さないでちーーっ!!」

伸びた分福茶釜の首は叫ぶとぼん、と煙と共に六体に分かれ、わらわらと落ちるように男達に飛びつき一斉に頭や腕に噛みついた。がぶり。


「痛っ!やめ、離せこの野郎っ!」

腕に噛みつかれた男は腕をぶんぶんと振り、噛みついている分福茶釜を柱に思い切り打ちつける。


「い、痛ええぇっ!!」

その瞬間分福茶釜は消え、力一杯自分で自分の腕を打ちつけた男は腕がだらりと折れ叫んだ。


「や、やばいっ!命あっての物種だ、金っ、金を回収して逃げるぞっ!」

興行小屋の壁は木枠とトタン板と筵でしかなく瞬く間に火は燃え広がり、男達は炎に包まれかけている。


「逃すか」

夜一は木の葉を一枚取り出し指で挟んだまま妖力を込め、木の葉は鮮やかな色彩になり投げると大きな茶釜が男達の上に落ちた。


ぐえ、と情け無い声と共に男達は全員大きな茶釜の下敷きになり、重さに動けずもがいた。


「おおいっ!誰かっ!助けてくれっ!誰かおらんのかっ!!火を、消せっ!火を消してくれぇっ!」


どんどん燃え広がり迫る炎と、何故か茶釜は火にくべているように凄い速さで熱くなっていく。

男達の着物はぶすぶすと焦げて煙を出し、身体や顔は焼かれ叫び声は悲鳴へと変わった。


「熱いっ!!悪かった‥、騙してすまなかった!!金は全部返す!だから‥‥助けてくれっ!」

「お、おいっ!!」

「うるさいっ!俺は死にたくないっ!

金は檻の後ろに隠してある鍵のついた道具箱だっ!

全部返すから助けてくれっ!火を、消してくれ‥っ」


興行主の男が泣き叫び、分福茶釜は煙管を吸いながら上機嫌で様子を眺めている夜一の着物をくいくい、と引っ張った。 


「ん?もういいのか?わしはまだやり足らんぞ。

もう少し焼いたら茶釜の中で溺れさせた後じっくりと釜茹でにしてやろうと思ってんだが____お前が良いなら終いにするか。‥‥確かにあの情けねぇ泣き声を聞くのも飽きたな」

「帰るでち!」

「帰って皆で饅頭喰うか」

「お茶煎れます〜!」

「ああ、頼む」


連夜は分福茶釜の手をとると繋いだ。

夜一が踵を返すと狢道が現れ、三人が入ると狢道と男達を苦しめていた大きな茶釜は消えた。


夜一達が消えると同時に周囲は漸く火事に気付き近隣は騒然となった。


「火事だあーーーっ!!」

「何でこんなに燃えるまで気づかなかったんだ?!火事だ!皆を起こせっ!!半鐘鳴らせっ!」

カンカンと激しく鳴る半鐘の音と怒声の喧騒は見世物小屋から水面の波紋のように町中へ広がった。



「父上!____起きていらっしゃいましたか!」

満月堂は寝巻き姿のまま、店舗兼自宅の二階の部屋の窓から離れて見える炎と煙を見ていた。


「あれは柳通りだね」

「はい。離れているとはいえ勢いがあるようです、一旦皆で避難しましょう」

「火事は見世物小屋だろう、小屋以外は焼けないから大丈夫です。じき消えるから皆にも今は外へ出ず家に居るよう言いなさい」


「父上?‥‥もしや、父上が話されていた___」

「ええ、夜一様の仕業でしょう。だから大丈夫です。夜一様は無関係な者を巻き込むような無体はしませんよ」

「わかりました、皆に動かないよう言います」

「私も行こう。皆の顔を見て安心したいからね」

満月堂はもう一度火事の様子を確認すると、きっちり騒ぎを起こす夜一に苦笑いをこぼしながら窓を閉めた。



満月堂の予想通り見世物小屋だけ見事に焼け落ち、延焼する事なく火は鎮火した。

焼け落ちた見世物小屋の中からは興行主ら三人の男達が全身火傷を負いながらも、大きな両銭箱を三人で覆い被さり守っている状態で見つかり皆を呆れさせた。


三人が火傷を負いながらも守ったお陰で両銭箱は無事だったが、開けると中は枯れ葉が詰まっており金は鉄銭一枚なかった。


そして興行主らは大火になりかねない火を出した咎で、死罪は免れたものの火傷で手足がろくに動かないまま無一文で追放刑となる。


この事件は人々の高い関心を集め小さいとはいえ妖狸を騙すからだ、分福茶釜を怒らせ仕返しされた、と暫く瓦版の良いネタになった。



◆◆◆◆




「いらっしゃいませ〜」

「お茶を一杯頼む」

「はい〜」

分福茶釜は狢道で休憩処の茶屋を開いていた。



「確かにお前の茶は美味いな。狢道を使わせてやるから中で休憩処の茶店をやらねぇか?

狢道を使えばたとえ遠方でも行き来が随分楽だ。それに各地を周っている飛脚や行商狸、そういう奴等からお前のジジイの情報を集めれば良い。茶店をやってりゃ奴等の方から来るさ」


分福茶釜は大喜びで頷きこの提案を承諾した。

夜一は店は用意してやる、興行主(やつら)からお前の金は回収した、わしに任せておけ。と小さな茶店を用意しお品書きと尋ね人の貼り紙も書いてくれた。


お茶あつーいの一杯 鉄銭一枚

お茶つめたいの一杯 鉄銭一枚

お水きれいなの一杯 鉄銭一枚

団子おいしいの一串 鉄銭三枚



尋ね人  爺様

名前   お師匠様

特徴   人間 凄く優しい お茶とお酒が好き


報奨金  わしの酒 特級 通い徳利一本

見つけた奴にはわしの酒をやる 夜一



尋ね人の貼り紙には分福茶釜が描いた判別の難しい似顔絵も書いてあった。


「‥‥この尋ね人はなんだ?探す気あるのか?茶と酒が好きな爺さんって殆どの爺さんがそうじゃないか。‥‥‥何っ?!見つけた者には夜一様の酒、しかも特級が貰えるだと?!」

「本当かっ?!夜一様の酒とは夜一様が作ってる酒か?!」


「前に一杯だけ振舞われたのを飲んだがとても美味かったのを覚えてる、確か上級だった筈だ」

「特級なんぞお目にすらかかれない幻の酒だ。一生に一度の好機、しかも一杯ではなく通い一本だ!」

貼り紙を見た狸達は騒ぎ、皆ごくりと喉を鳴らした。


「おい、安心して待ってろ。わしが探し出してやる。夜一様の酒はわしが貰う」

「何を言う、俺も探すぞ!おい、この爺さんの特徴は他にないのか?師匠って何の師匠だったんだ?!」


熱心な狸達に囲まれた分福茶釜は驚きながらも本当に爺様は見つかるかもしれない、と嬉しくて頬を赤らめ涙ぐんだ。


夜一様の特級酒が貰える!との噂はたちまち狢道を駆け巡り、確認に来る者や早速情報を提供する者で茶店は常に狸や穴熊達で賑わった。




おまけ


「ひよこは大きくなって時告げ鶏になるかもしれないでち。だから最後に食べるでち」

「凄いです〜!私も見たいです〜」

「時告げ鶏になったら教えるでち!」

「連ちゃんありがとうです〜。楽しみです〜!」

二人の期待に満ちた饅頭のひよこを見つめる目に、夜一はふと思い付き片眉を上げた。


翌々日、狢庵を伊織が訪れた。

「ちーーーっす、夜一様!」

「伊織、無理を頼んだな、どうだ?」

伊織はキョロキョロと見回し連夜が居ないのを確認すると袂から小さな包を取り出し夜一に渡した。


「事情を話したら快く作ってくれましたよ、にわとり。今度からこいつも店に並べると言ってました」

夜一は包の赤い鶏冠のついたにわとり饅頭を確認すると、重箱に連夜が一つだけ残しているひよこ饅頭を取り出し入れ替えた。


「相変わらず優しいっすね、夜一様」

「わしの術で変えても良かったが、それだと連夜は気づいちまう可能性があるからな。それにこいつは喰うには傷んじまってもう駄目だ」

「連夜様が気付くの楽しみですねー」

「ああ、お前にも骨をおらせた、アイツ等が騒ぐのを呑みながら見物しようぜ」

「あざますっ!」


伊織は部屋へ上がり、二人は呑みながら連夜がやってくるのを楽しみに待った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ