5 朝香華菜
家の中でも視線を感じるようになってから2週間が経った
とりあえず、何かあったわけでもなくただ【視線を感じる】
というだけなので、放っておくことにした
『流石に、行動には気をつけるようになったけど・・・』
家の中では、視線を感じない部屋でのみ着替えを
することにした。
普段であれば、リビングで部屋着から出掛け着に着替えるが
最近はちゃんと洗面所で着替えるようになった。
普通かもしれないが
そして、紫苑には最近頭を抱える問題がもう一つ
「紫苑く〜ん」
「あ、また来たぞ紫苑」
「あぁ、聞こえてる・・」
「すっげえ声」
後ろから、猫撫で声とはまさにこのことだろう
というほど甘ったるい声で紫苑に話しかけてきたのは
ツインテールにピンク色のリボンをつけ
お姫様のようなフリフリの格好をした、朝香華菜という
学生だった。
「・・どうも」
「もぉ〜!冷たいなぁ紫苑くんは!」
漫画くらいでしか見た事ないぞ、こんな典型的なぶりっ子
人の口調や格好を否定するつもりはない
それは人の自由だ。
どんな格好をしていようが、どんな口調だろうが
紫苑は気にしない
だが、朝香は違う
漫画でしか見ないような、典型的すぎるぶりっ子なのだ
流石に女子は全員引いている
男子の前では声が高くなり、上目遣い&萌え袖
女子の前では、普通に足も組むし萌え袖などするわけない
だが、男とは単純なものでこういうあざとい女子が
好きな男子が多いのだ。
それが、ますます彼女を調子に乗らせる
「ねぇ、紫苑くん!今日、一緒にお昼食べない?
わたしぃ、紫苑くんとお話ししたいなぁ〜」
「え、あ、いや」
「いやなのぉ?」
『やばい』
泣かれると、こっちが困る。彼女が好きな男が紫苑を
責めに来る、いや【攻めにくる】の間違いだ
「華菜さん、今日こいつ先約あるんだよ
俺じゃダメ?」
「!!」
「え?拓海くん?」
拓海が気を利かせ、華菜を食事に誘った事で
一瞬、紫苑から気が逸れた
『ナイスだ!拓海!』
後で焼肉奢ってやる!と心の中で歓喜していた
が、華菜はそんな事でめげるような女ではない
「私は紫苑くんがいいの!」
「あ、あぁそっか・・・」
『拓海、大丈夫だ。ありがとう』
拓海の努力も虚しく、華菜はぷくっと頬を膨らませ
フン!と不貞腐れてしまった。
どこの小学生だ、それが似合うのは漫画の世界と
小さい子だけだ。というのが拓海の持論だ
紫苑はどうでも良いと思っている
「あー、本当ごめんね?今日は先約があるんだよ」
「え〜!今日くらいいいじゃん!断ってよぉ!」
「いや〜流石にそれは」
「華菜が言ってるんだよ?」
『いや関係ないし』
話聞こえてんのかこいつ、と拓海は隣でツッコミを
入れていた
この女、自分が中心じゃないと気が済まない
女子から恨みを買いそうな女だ
「ごめんね、流石に先約を断るのはできないよ
明日ならいいけど」
「明日、華菜いないもん!ねぇ、断ってよ〜!」
『もう、いい加減にしてくれ。その耳はなんのために
ついてるんだ』
そんな華菜の我儘にいい加減うんざりしていた
心の中で普段は吐かない暴言を吐くくらいには
口に出さないだけマシだろう
「紫苑さん、困ってるじゃないですかやめてください」
そのとき、まるでアニメの救世主のように颯爽と
現れたのは緋花だった
「あ、緋花さん」
「お待たせしました、紫苑さん。お昼行きましょう?」