2 緋花理子という女
「緋花さんってどういう人か知ってる?」
昼食の時間、紫苑は友人である拓海にそう切り出した
「え、急に何?
は!まさか!好きになっちゃった!?」
「違うわ!純粋にどういう人なのか知りたいだけ」
「ふーん、まぁそういうことにしとくわ」
「あのなぁ!」
ニヤニヤしながら紫苑の話を聞く拓海に内心イラつきながらも聞いているのはこっちだし教えてもらうんだからと
自分を押さえつけた
「うーん、知っていることは文学部2年
俺らと同い年で同じ学部な。サークルには入ってない
聞いた話だと多分彼氏とかはいない」
「ふーん」
まぁそんなもんか、と思いながら昼食に頼んだ
うどんを啜る
「あ!あと・・・」
「ん?」
ちょいちょいと指を曲げられ、耳貸せってことか
と瞬時にわかり、めんどくさいなとため息をつきながら
耳を近づけた
「両親が高校の卒業式の日にどっちも亡くなったらしい」
「え」
「いやなんかさ、俺もよく知らなんだけど
結構ニュースになってたから」
「俺知らないんだけど」
「お前、授業終わってもご飯くらいしか部屋から出てこなかったからな、ニュースとか見てなかったろ」
「グッ・・」
図星だった。
紫苑は通信制の高校に通っており、自室で授業を受けた後も食事の時かトイレの時くらいしか部屋から出てこなかった
「夫婦で心中したんだってさ、家に火放ったらしいよ」
「そっか・・・」
あまりの事実におもわず口を閉じてしまった
そんな事実があったとは
彼女が口がキツいのはそのせいなのだろうか
「あの、ここいいですか?他に空いてなくて」
「あ、はいどうぞー!ってえ?」
「どうした?」
「あ、さっきの」
「え・・・緋花さん?」
「どうも、あ隣いいですか?」
「あ、はいどうぞ!」
突然現れた、いま話をしていた緋花だった。
噂をすればなんとやらだ
「お2人は何年生なんですか?」
「2年です!緋花さんとおんなじ!」
「そうなんですか」
拓海には聞いてなかったのだろうか
全く興味がないように紫苑の方を向いた
「あの、お名前は?」
「あ、花苑紫苑です。」
「紫苑さん、私は緋花理子です。
よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ」
握手を求めているのだろうか、差し出された手を握ると
嬉しそうに頬を染めて、口角を上げた。
「あ、俺先行っとくわ・・・」
「え?なんで・・」
「わかりました!」
(なんか、あの人俺のこと嫌いなのか?
めっちゃ睨んでくるんだけど)
拓海のことは嫌いというよりは気に食わないのだろう
緋花が今興味があるのは紫苑だけだ。
他は、オブラートに包めば興味なし
だが、包まなければ
(この人、要らないんだよね)
「紫苑さん、よければ連絡先交換しませんか?」
「え!?あぁはい!俺でよければ」
「ありがとうございます!」
いそいそと服のポケットからスマホを取り出し
メッセージアプリのQRコードを差し出した。
紫苑はそれを読み取り彼女のアカウントを追加した
「紫苑さん、アカウントの名前"フリージア"なんですね」
「あ、はい花言葉が好きで」
「憧れ、でしたっけ?いい花言葉ですよね」
「緋花さんも知ってるんですね!」
「はい、私も花好きなので」
同じ趣味、同じ花好き、花言葉まで知っている
同じような人間がいたことが紫苑は嬉しかった
(やっぱり好きだな〜、紫苑くん
もっと早くに出会ってればよかったー!)
彼女の心のうちのドロドロとした甘ったるく
それでいて苦い感情など知る由もなかった