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妙メモリー

ウォーリーを見つけたときの話

作者: みょめも

あれは僕が小学生低学年の頃の話だ。

当時、僕は「ウォーリーを探せ!」という絵本が好きでよく見ていた。

「ウォーリーを探せ!」とは、人や物が入り乱れる景色の中からウォーリーという人物を探すゲーム形式の絵本だ。

ウォーリーは、赤と白の縞模様の服と帽子を来てリュックやステッキを持ちながら世界中を旅している、メガネをかけた細身の男の人である。

一見目立ちそうな格好にも思えるが、ひとたび景色に溶け込んでしまうと簡単には見つからないもので、小学生時分にはよく必死になって探していたものだった。


ウォーリーを見つけたのはそんなある日の午後だった。

何気なく近所を散歩していたときに、路地裏に気配を感じたので視線をやると、あの見慣れた赤と白の縞模様の男の人が立っていた。


「あの、もしかしてウォーリー?それともそっくりな人?」


あれだけ探してもなかなか見つからなかったウォーリーがまさか近所にいるとは思ってもいなかった。

だから幼心に半信半疑で尋ねてみた。


「そうだよ。見つけてくれてありがとう。」


そう言われたときは、嬉しかった。

本当にウォーリーだ!と目を輝かせていたことと思う。


そして、ウォーリーはフフッと笑うと、僕に持っていたマグカップを差し出してくれた。

見つけてくれたお礼に、ということだった。


「今度会うときはステッキをプレゼントしよう。」


マグカップをまじまじと見つめる僕にそう言い残すと、ウォーリーは路地裏に消えていった。




次に会ったのは、それからしばらくしてからだった。

家族旅行に行った先の、横浜中華街だった。

両親が食後の会計をしている間、何となく中華街の景色に見とれていたときのこと。

小籠包の露店の列の中、あの赤と白の縞模様が目に飛び込んできた。


「あっ」


思わず声が出た。

ウォーリー!と声をかけ歩みを進めていくと、ウォーリーはバツが悪そうな苦い顔をしながら照れ笑いを返してくれた。


「また会ったね。」


「うん。」


「ウォーリーでも小籠包なんて食べるんだ、なーんて思っただろ?」


心の中を見透かされ返答につまっていると


「いいよ、いいよ。世界中旅してるのに横浜の小籠包食べちゃうんだよ。変だろ?中国の小籠包じゃなくて、ここのが大好きでね、立ち寄るとついつい買ってしまうのさ。」


そう言ってウォーリーはステッキを手渡してくれた。

いつも見ていたカッコいいステッキを受け取り、遠慮なんてまだ学んでいなかった僕は心底喜んだ。


「これでマグカップとステッキが君のものだ。なかなか似合ってるじゃないか?」


いつでもウォーリーに会えるように日頃から持ち歩いていたマグカップと新しく貰ったステッキに喜ぶ僕を見て、優しい微笑みで「では、今度はもっと素敵なものをあげよう。」と言い残し、彼は去っていった。




3度目に会ったのはそれから3年後くらいだった。

父親の転勤で引っ越すことになり、神戸で生活していたある日。

ウォーリーをさがすことも少なくなり、本棚の隅に忘れられていた。

そんなときだった。

港沿いを散歩していると、久しぶりに見るあの赤と白の縞模様。

いくら時が経とうが間違うはずがなかった。

ウォーリー、その人だった。

あちらも気づいたようで「やぁ」と手を上げて挨拶してくれた。


「君は本当にすごい。3度も僕を見つけてくれるなんて。」


もちろん嬉しさはあったものの、「ウォーリーをさがす」という行為自体に楽しみを見いだせなくなっていたし、その事を後ろめたく感じていたので、自然と苦笑いになっていたと思う。


ーーー今度はもっと素敵なものをあげよう。ーーー


いつしかそう言われていたことも忘れていた。


「いつまでもあのときの約束は忘れていないよ。」


ウォーリーはニコリと笑うと、彼の大事な大事な帽子を僕に被せた。

そして次に服を脱ぎ、僕にあてがってくれた。


「うん、よく似合う。」


彼はこれまでの旅のあれこれを話しながら、汗と思い出の染みついた服を着せてくれた。

そうして彼のなすがままにしていると、あっという間に彼は普通の人になった。

どこにも縞模様のない、ありふれた1人の青年になった。

そして僕はウォーリーになった。

あの頃、必死で探して、マルをつけて喜んでいたウォーリーになった。

赤と白の縞模様が眩しい。


「さぁ!今日から君がウォーリーだ!」


そう告げると、もうウォーリーではなくなった彼は走り去っていった。





それからどうなったかと言えば、僕は今日も世界中を旅している。

ウォーリーがウォーリーであるために。

そして見つけてくれる日を待っている。

あの時貰ったマグカップにコーヒーを入れながら。


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