少女未遂
初めは些細なことだった。あの子の手が綺麗だな、と思った。それから後ろ姿が、風になびく髪が、いつしか彼女そのものが綺麗だな、と。
けれどそれは儚げで、いつしか目の前から消えていくものだと感じた。そう思うと気づけば彼女を手に入れたくなった。
放課後、俺は禁忌を犯す。まるで蝶のように何処かへ羽ばたいていきそうな彼女は教室に入ってきた瞬間、艶美に微笑んだ。
俺が今から何をしようとしているのか、まるで全て理解しているような微笑みだった。
「先生、どうかされたんですか?」
彼女は綺麗な声で俺に微笑みかけると、自分の席に座った。教卓前に立っていた俺は、驚いた顔をしていただろう。
「未遂、とはどこまでだと思う?」
意味のない質問に彼女はクスリと微笑んで、首を傾ける。
「最後までしなければ、じゃないんですか?」
やはり彼女はこの呼び出しの意味を理解して、ここにきているんだ。
俺は彼女の元へと近づいた。近くなる程に彼女は首を上げて、瞳の中に俺を映す。
「じゃあこれは未遂?」
彼女の頬を触れてキスをした。まだ17歳の高校生の制服を着た女の子に、自分は一体何をしているんだと、脳の片隅で吠えていたが力でねじ伏せた。
「先生はキスがお上手ですね」
黒髪を揺らして笑みを浮かべる彼女を見つめる。あどけなさがない彼女はまるで、成人した1人の女のようで妖艶だ。
「俺は一応、オトナだからな」
彼女は声をあげて少し笑うと、今度は挑発するような目をして俺にキスをする。今度はねっとりとした絡むような官能的なキス。
「先生、これも未遂ですね。」
唇と唇をつなぐ透明の糸を眺めながら、彼女は微笑んだ。そこに視線を合わせて彼女を見れば、あどけない少女の笑顔を浮かべていた。
「これで共犯、だな」
「いいえ。私は無実ですよ、先生」
「どうして?」
「それは先生がオトナで、センセイだからですよ」
彼女は妖艶に微笑み長いロングヘアーを揺らして教室から出て行った。彼女がいなくなった教室で1人、取り残された俺はもうすでに彼女の虜になってしまっていた。
「……残り香、」
俺の前を通っていなくなった彼女の残り香は、甘くてキケンな香りがした。本能で彼女を喰らいたいと思った時点で、既に彼女に喰われていたのかも知れない。