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リーンカーネーション 輪廻の扉  作者: あさのてんきち
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第四話「変化する因果」

ああ

美しき水平線よ

ボクの名前は「一人ぼっち」

見果てぬ彼方

遠き世界より此処に来し

あなたを両手で抱きしめる存在

この星の落し子となるために


ああ

ボクとあなたが一つに

一つに混ざり合い

溶け合い一つに

明日を紡げたら

づっとづっとづっと


ああ

夜が来る

帳が降りる

せっかく貴方が見えたのに

そこまで手を伸ばせたのに


また明日

また明日


リーンカーネーション 輪廻の扉

第四話「変化する因果」


「勝者、サーシア・ユーテフィミア!!」

ウォオオオオ!!!!!

審判員ジャッジの声が終わるや否や、唸り上がる観衆達の驚嘆。

文字通り、天地を揺るがすそれは、ここ、リーザスフォレスト王国の闘技場より起きる。


「番狂わせだ」

「すげーや、あの人! リディアのデカ姐ねーちゃん、倒しちまったぜ」


 武闘会本戦。

 リーザスの華「徒手部門」の準決勝戦は、ほぼ全ての観衆を裏切る意外な結果となった。


「俺は、負けたのか」

 ゆっくりと。

 頭を振りながら、自身の状態を確認する様に起き上がる。

 大女。

「この、マイ・ウェネバー、久しく敗北の味を忘れていたぜ、へへ」

 ぺっと、口の中に溜まっていた血反吐を斜に吐き、きちんと焦点を合わせた眼まなこで見る。

 自分に、土を付けさせた相手……

「…………」

 外国から来た招待選手。

 まだ、17才だと聞く。

 無邪気な女学生か、精々、放課後の部活動で汗を流す程度の子供にしか見えない。

 少なくともマイはそう思っていた。

 ……油断ではない。

 確かに、徒手部門の準決勝に素人が上がってくる事など考えにくい。

 それでも。

 目の前の少女の姿を見て。

 倒された自分自身の姿を見ても。

 尚、それでもマイは俄に、信じる事が出来なかった。

「あははははは」

「あははははは」

 マイは、突然込み上げて来た笑いが、止まらなくなってしまった。


 力、速度、技のどれもが通じない。

 最後は、子供が取る相撲の様に、軽くいなされ倒された。

 

「すげーや、サーシアだっけ」

 自分を倒した相手に握手を求め、利き手を前に。

 最大の敬意を……

 こんなにも簡単に、自分を「のして」しまう戦士に感謝をと。

「……あれ」

 ドスンっと、膝から床にマイ。


 空が見えた。

 彼女の故郷と風土が違う、リーザスの夏空は……

 とても大きく見えた。


「リデアに帰らなきゃ」

「聖国の第二魔導師、討ち取ったり」

 マイが発した最期の言葉は、相手の無慈悲な宣告によって遮られた。

 サーシアの手刀が深々と、マイの胸に突き刺さる。


 会場は、声援は。

 マイを倒した戦士に寄せらていた歓声は一変し、悲劇を恐れる悲鳴が渦巻く結果となった。


…………………


「親父、俺は行くぜ」

 航宙機能を持つオートバイ「レグルス」に跨り、吐き捨てる様に船内カメラに啖呵を切る。

「行くな舞、地上はまだ不安要素が多い、先遣隊の報告を待て」

 親父と呼ばれた男の声だろうか、宇宙移民船の格納庫の隅々に届く程、大きな声で少女の愚行を止めようとする。

 悲痛な叫び。

 我が子を行かせまいとする声。


「あばよ、親父、長生きしろよ」

 神埼舞かんざきまいは、レグルスに取り付けられているミニ制御盤を操作すると、船外、宇宙空間と接している隔壁。本来は、資材などを搬入する大扉にアクセスし、開放した。

「あんがとよ、じっちゃん。ふん、親父なんざ形なしだな」


 ふらりと、宇宙空間に躍り出るバイク。

 まるで、自由になった事を喜ぶ様にアクセルを捻る少女。

 その、気持に応える様に、バイクの航宙用スラスターが「バシュ、バシュ」っと、青色の炎を吐き出す。


「礼には及ばんよ、舞」

 レグルスの声帯機能から、少女が一番信頼する人物……

 宇宙移民船団、初代艦長の神埼氏。

 少女の曾祖父の肉声が応じる。


「あいつらは、舞の身体をなんだと思っているのじゃ」

 舞は、目下、移民用の惑星としてテラフォーミングを行なっている惑星「アイル」。

 緑色の大気を持つ、この「原始地球」に対応する為、段階的な肉体強化手術を行なっていた。

 寿命を迎え、レグルスのホストコンピュータとして「リペア」された神埼氏。

 彼が生前、提唱していたリペア計画の一環ではあったが、やや「実験色」の強い、曾孫への人体改造にこの上なく不満を持っていた氏は、何とか舞を助けたかった。

 そして。

 ようやく隙を見て、舞を連れ出す事に成功した。


「ワシの舞に、何度もあの醜いメスを、ブツブツ……」

 神埼翁のグチは終わるところを知らない。


…………


 マイは。

 神埼舞はどこにでもいるような、普通の女の子であった。

 歌と、ダンスが好きな大学生だった。


…………


 移民船プロメテウスは、遂に、居住可能な惑星に辿り着いた。

 船内に眠る「同胞達」の為に、星を住める環境に修整しなくてはならない。

 すでに、リペア計画の成功例として名高い、二人のアンドロイドが地上に降り立っている。


 はずなのであるが……


「時間の流れに閉ざされている」

 現艦長の神埼守氏の結論は、何らかの要因により、先遣の二名は正常に機能していない。

 まるで、ひたすらに迷路の中をウロウロしている。その様子に皮肉を込めて「自動掃除機」と呼んでいるが、自己回復不可能な状態トラブルを起こしているのだという結論に至った。


「両名から、何度も同じ報告が来るのだ」

「恐らく、人工知能に深刻なエラーが出ているのでは?」


「いや、二人を信じてもう少し様子を見るべきだ」

 クルーたちのやり取りを聞きながらも、プロメテウス号のマスターコンピュータは、性急な対応を避け、慎重な方針を立案するべきだと唱える。

 

「俺が見てくるよ」

 若く、やや性急な性格の舞は、そんなAI任せな幹部たちの様子に嫌気を覚え、父である守氏に提案する。

「その為のリペアだろ、俺の身体は?!」

 身体に刻まれた手術痕をさすりながら迫る。

 父の理解ある承認を求めたが……


「結局、家出だったね、じっちゃん」

 目の前に広がる美しい緑の惑星アイル。

 これで良かったのかな……

 一瞬だけ後悔に似た、考える時間があった。


「降下準備じゃ、変形するぞい」

 今まで、バイクの姿であったレグルスは形を形を変え……

 舞を護る、金属製の鎧に姿を変化させた。

 もう、後に戻る事は出来そうにない。


「さよならだ、親父」

 レグルスと一体となった舞は、静かに。

 緑の大気に飲まれて行った。


………………


時間はかえらない

時間はかえらない

一度過ごした思い出は

二度とあなたに戻らない


こうして

繋がった思い

手と手の温もりは

離したら最期

もう二度とかえらない

だから

この瞬間

この季節を

しっかり愛して

しっかりと踏み締めて


……………


 エラーを糺さなければならない。


……………


 メリア皇国。

 リディア聖国、リーザス王国のあるカンザス大陸に対為す位置にある、アルメリア大陸。

 人の住処だけでなく。

 獣人。亜人。そして、怪異の住まう地域も存在する。

 

 戦士サーシアは、メリア皇国の実戦部隊。

 白銀騎士団プラチナナイツの一員であった。

 ただ、騎兵でありながら。

 拳闘が最も得意であり。

 ウルフの亜人も、ベアーの獣人も、軽く捻り上げる事が出来る。

 本来は、内政干渉にも発展しかねない案件ではあったが。

 サーシアが探している人物が、アレイシア王女の招きを受けて武闘会に参加すると言う噂を耳に入れ、居ても立っても居られず。

 彼女らを統括する、司祭長シンシアに願い出た。


 意外にも。

 サーシアの出国許可はあっさりと認められた。

 そして。

 ナイツの称号を返納する代わりに、戦士として。

 名誉ある任務を授かる。

 それが。

 決勝戦。


 長くサーシアが求めていた、地上に降りた最期の好敵手。

 メリアのお尋ね者の始末。

 

 因果のエラーを糺す事。


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