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リーンカーネーション 輪廻の扉  作者: あさのてんきち
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雨の歌

あの人の帰りを待った

カフェの軒先


デートの約束

どうか破らないで


願う私を裏切る様に

小雨はやがて土砂降りに変わり

雨のカーテンが思考を遮る


私は駆け出していた

あの人の為に買ったプレゼント


初めて恋を知った

あなたの為のプレゼント


置き去りにした

降り続く雨の中に



リーンカーネーション 輪廻の扉

「雨の歌」



 緑の大気の星「アイル」。

 不快ではないが、あまり慣れない、鼻の奥に染み付く薄く焦がした空気の匂い……


「風のみんな、遊びに来てくれてありがとうね…… うん、頑張ってみる」


 ミルクティー色だと無理やり思い込んでいる、それ……

 テラフォーミング用の「資材」を文字通り「お腹いっぱい」受けた原始海。

 汚泥の様な臭いを放つ水の流れ、発生した僅かながらの弱い海流を育てるべく、「彼女」は、その能力を使い「中和」と「形成」を試みる。


「…………」


 なんとなく、気分が優れない。

 けれども、「えいっ!」と、自分を奮い立たせ、南風に乗ってやって来た風の塊に祝福を贈る。

 ふうっと、一筋、手のひらに這わせた黒髪を放つ。


……風を手のひらに集めて

……グルグルっと空に返して

「そう、貴女は私のお友達。空を統べる新しい誇りの形」


 魔導と言うには、子供の独り言。

 一人遊びの小歌と聴き間違えそうな、幼稚な言の葉の数々。


「海の流れは命を運びます。永久に永久に…… って、とこしえって何だっけ」


 けれども、目がある生き物なら、誰しもがそれと理解できる。

 その一人の少女を中心に発生している、膨大な力の事象。

 巨大な台風の目、幾重にも集う魔力の渦。


……お空まで届こうね

……お星様にもご挨拶だよ

「ほら、綺麗な星空さまが出来ました」

 集めた風で大気を作る。

 空が、皆が知っている夜空に生まれ変わった。


「ありがと」


 少女は空を見上げる。

 そして、自分が行なった「行為」に満足した。


「…………!」


 その見上げた空の向こう。

 ぷっかりと、銀色の天の川に浮かぶ、白く大きな星達のその奥に見える。

 ゆったりと衛星軌道を描く、銀色の固形物。


──私たちのお船、プロメテウス


 ミイは、移民船のクルー達に先んじ、この惑星に降り立った。


「ずるいな、ミイ達だけにやらせて、マスターのケチんぼ」


 恨み言は……

 小石ほどに見える、銀色のその固まりには聞こえない。


「…………」 


 そして、そのまま、星々に同化して見えなくなった。



…………


「もうやだなぁ、雨ばっかりで」

 集中なんとかだか、良く分かんないけど、私のお仕事と雨は相性が悪い。


 ……こう言う日に街を歩く人とくれば


「悪いな姉ちゃん、また誘ってくれよ」

「金欠でな」


 しけたオジさんばっかり。

 んん? しけたってどう言う意味なのかな、ミイ、分かんないや。


…………


「客取るまで帰って来んな、アバズレ」


……私の身体はアザだらけ

 顔は商品だからって、叩かれないけど。


 新しいお父さんは、いつもミイを虐めるんだ。


「ガキが出来た? 下ろして来いよサッサと 稼げねーじゃねーかよ」

……また傷が増えた。


…………


「こうちゅうきょく?」


 とーよこで私と目が合ったオジさんと、お布団の中。

 あったかい。

 寒くないよ。


「そう、航宙局」


 オジさんは頭がいい人みたい。

 ミイと反たいだね。


「またミイと遊んでほしーな」


 オジサンは「かんざき」さんって言うんだって。

 ミイ?

 ミイはミイだよ、誰でもない。

 ミイだよ。


 だからまた、遊ぼうね

…………


 いやだよ、下さない

 赤ちゃん、生みたいよ

 いやだ

 殺さないで

 殺さないで

 殺さないで

 殺さないで

 殺さないで


…………



「ミイは雨降り、好きじゃないんだな」


……だってあの日も雨だったから




「姐さんの独り言が始まったなああ」

「なんか、今日も雨降りみたいだよ、どー見ても晴れにっきゃ見えんけどよ」


 ミイの姐さんは、オレ達先遣隊のリーダー。

 文字で表現すると今時は色々と引っかかるらしいけどよ、ウチらはこの惑星の大気に合わせる為に「デーエヌエー」とか言う奴をイジってもらった、言わばクリーチャーさ。

 因みに俺っちらは、この原始海に合わせる為に、サハギンとか言う生き物に似せて加工されたらしい。

 姐さんは? って?


 姐さんは何にでもなれる。

 三番目のなんとかって奴らしい。

 そうさ、望めば何にでもなれる!!

 ……って、話らしいぜ。



…………


 雨が痛い

 身体を刺すの


 冷たい

 冷たいよ


 ごめんね

 ごめんね

 ごめんね

 ごめんね


…………



「ミイも、俺と船に乗ろう」


 オジサンは、私に

 翼をくれた


「生まれ変わった姿はどうかい?」

 こうつうじこで、ぐちゃぐちゃになったミイをオジサンは直してくれた。


「ミイはどこにでも行くよ」

「良し! 決定だな!」


 退院したミイは、オジサンと移民船の船員クルーになりました。

 旅人になったんだよ。


 でも……


 雨はまだ降っているんだね。

 いつになったら止むのかな。


「苦しいよ」

「苦しいよマスター」


 忘れられない

 忘れられない

 身体が覚えているもん

 だって覚えているんだから

 忘れられないよ

 会いたかった


 あなたに会いたかった

 この星で

 たくさんの命を産み落としても

 たくさんの思い出を作りだしても


 あなたが私のお腹にいた

 あの幸せだった時間

 取り去られてしまった

 あなたとの日々が

 何よりも愛しくて

 何よりも欠け替えが無くて


「苦しいよ、ああああああ」

「あああああああああああ」

 

…………


「手間取らせやがって」

「…………」


「こんなに腹をデカくして、どうやって客を取るんだよ」

「たすけて」


「ああん?!」

「この子だけは許して」


「お願い!!!」

「お願いします。どうか」

──どうか、この子だけは殺さないで下さい


──どうか


…………


「ミイ姐さんはよ、会いたい人がいるんだってよ」


──だから


 魔法使いになったんだってよ




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