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リーンカーネーション 輪廻の扉  作者: あさのてんきち


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厳冬の歌

年内最後に何とか一本アップ出来ました。お待たせ致しました。

「どなたでも大丈夫です」

「どなた様でも大丈夫です」

 

 もうすぐ冬がやって来る。

 身じろぎも儘ならない、厳しい季節。


 ここは、カンザス大陸の北限の地域にあり……

 遠くに見える西方の連山、アウロール山脈から吹き下ろす空風が、幾ばくもなく訪れる「死」の時節をヒュウヒュウと奏でている。


「どなたでも大丈夫です」

「ど、どなた様でも……うう、お姉ちゃん」


──北の国に訪れる晩秋

 あなた様は……

 涼しげな、高原の秋を思いお浮かべか?

それとも、まだ暖かさの残る、平野部でのイメージでも?

 この地方は、そんなあなた様の想像を軽く上回るだろう。

 どんなに日の差す夏日でも、温度計は二十度に届かず

 冬は文字通り、生命活動に深刻な障害をもたらす氷雪の世界に変わり、その気温はマイナス四十度を更に下回る日が幾日も続く。


──見捨てられた「隔壁向こうの地域」ルジェ──

 二人はそんな、冷涼な大地に生きている。


「寒いよぉおおお」

「ああ、寒いね……でも」


──今日はまだ、“売れていない”から──


 広場とも、ただの空き地ともつかない、路地と路地とが重なる小さな窪地で「姉妹」は、余り多くもない通行人に懸命に声をかけている。


「旦那様、どうか僕たちを……」 

 偶然にも、纏っている外套に品があり、口髭も整った“身なりの良い”通りがかりに懸命にすがり付く姉妹。

そう、なんとかして!!

なんとかしても、どうか……

「おじさま、どうかお姉ちゃんと、ヒルデを」


── お買い求め 下さい ──




あなたの悲しみは

あなたの哀しみは


凍てつく凍土のように

何年も

何世代も

崩れる事のない姿で

少しも変わらぬ姿で


人が此の世の果てにある

黄土の向こう側

アムールの河の先

その更に

更に向こう側に広がる

黒き世界


たった少しの喜びもなく

たった少しの歓びもない

全てが冷気に封じられた闇の中


永遠に抜け出せない

後悔の連鎖

苦渋の連鎖



リーンカーネーション 輪廻の扉

厳冬の歌



 口腔内くちのなかで、おぞましい「味」を感じている。その、形容し難い苦しい味覚に、少女は「ううう」と唸り、身悶える。


「くくく、ガキめ、観念しろよ」

 男は無情にも、薄気味の悪いニヤニヤ顔で……

先ほど路上で目にした好紳士の面影はなく、残忍な表情を時より交えながら「縛り上げた姉」をいよいよ処するべく、身体を捻りながら腰まで下がった履き物を脱ぎ、不埒な姿になった。


「お願いだ、こんなのは……」

 カテリーナという自分の名前と、最愛の妹、ヒルデ以外は何も持ち合わせていない。

 その最愛の妹を養う為にだったらカテリーナは何にだってなれるし、どんな事にだって耐えられると思っていた。

 けれども、そんな彼女でさえも、この「イクイナ」と名乗る修道士からされる「仕打ち」に対して、この上もない嫌悪感を感じ、嫌がっていた。


「黙れよ! お前らは俺に買われたんだろ? 当然、俺が何をしたって許されるんじゃねぇか」

 だったら外でまた物乞いでもするのかと、二重になっている部屋の窓の外を指差す。今にも吹雪いて来そうな、冷たげな鉛色の空が見えた。


「さあさ、これからだ、お楽しみだぞ」

 男は、ニヤニヤしながら、奇妙な「青い物体」を部屋の隅にある棚から取り出し、麻縄で縛り上げたカテリーナの露出した肌の部分や、内ももの間にトロリトロリと落とし込んで行く。


「ああああ!! いやああ!!!」

 恐ろしくもどうやら、その物体は意思を持っている。

 ズルズル、プルプルと痙攣しながらゆっくりと、カテリーナの内側。彼女の身体の中に捻り入ろうと、おぞましくも画策しているのだ。


「まさか、探しもんがこんな身近にあるなんてな、へへへ」

 男は、ここだここだと呟きながら、カテリーナの秘部がある小さな丘を指でトントンと叩く。


「お、お姉ちゃんに酷い事するなぁあ!!」

 猿轡さるぐつわが緩んだのだろうか、部屋の隅で椅子に拘束された妹が、くぐもった声で精一杯に非難を叫ぶ、その小さな身体で一生懸命に、姉から少しでも注意を逸らそうと抵抗している。


「ひ、ひいいい!!」

「お姉ちゃん!!!」

 入口をどうやら見つけ出した軟体生物は、形状を細く整え、ゆっくりとゆっくりと中に進めて行く。

 まるで冷やしたゼリーに様にひんやりとした、然しながら容易に断ち切れない力を携えたその生物は、まるで歓びに震えるように、身体を痙攣させながらゆっくりと、カテリーナの中に収まって行く。


「慌てなくても次はお前だ、妹の方。ふふふ、お前の姉がどうなるのかしっかりと見ているのだぞ?」

 ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべつつ、仕上げだとぞとブツブツ言いながら、身体から下った「長物」を震えるカテリーナの下腹部に宛てがう。


「お前らが何であろうと、関係ない。ちゃんと可愛がってやるからな、おおお!」

 唸りながらイクイナは、腰を落とし込み、非道な行為を開始する。

 引き裂くような悲鳴を上げるカテリーナの頬に、自分の頬を「ほうずり」するように張り付かせながら、強烈に身体を前後に動かす。


「さすがリディアの叡智だな、俺が持っていかれそうだ、ううう」

 男は、魔除けの念仏のような言葉を口にしながら、カテリーナの未発達な小さな身体に自身をバチンバチンぶつけて行く。

 不思議と、男の顔は、愉悦に溺れる様子には見えず。

 苦しみとも、辛みとも言える、ひくひくと脂汗をかきながら。その行為を継続して行くのだが……


……………


貧しい世界に生まれ

貧しい世界から逃れる術を知らず


ただ流されて行き

流されるように死んで行く


僕だけならそれでいい

死ぬのが僕だけなら別に構わない


けれど

どうか妹には

妹にはせめて一握りの幸せを


その為だったら僕は

どんな物にだってなるし

何だってやってやるんだって

そう

決めたんだ


……………



「二人とも、なんか貧弱な身体だな」


「…………えっち」

「…………」


 身体検査。

 ちょっと怖そうな感じの男性が、眼鏡をずらしながら私達の身体を診ています。


 町角に張り出してあった「お仕事」の募集要項をもとに、お姉ちゃんとヒルデは、ルジェから乗合馬車に乗せられて、リディア市内とその他の地域を隔てる「隔壁」の前に集められました。


──お姉ちゃんと一緒だから怖くない

 雪が、水分を含んだ初雪が、私達の頭にポタリポタリと、冬の始まりを教えてくれました。

 何の仕事だか、ヒルデの頭だとちょっと分かんないんだけど、お姉ちゃんが大丈夫だと言っていたからきっと大丈夫。それに、雪が本降りになる前に何とか仕事にありつかないと……もう、残飯にだって簡単にありつけない。


──あの、空を突き裂くように流れた黒い流星群……

 もともと耕作地に恵まれていないリディア聖国は、あの日、あの年から幾度となく発生する飢饉に苦しむ事になる。

 冷害、日照り、洪水に虫害、そして土の病気。

 魔導師たちが、この国を拓く時に退けた「土竜」らの怨念だと、人はまことしやかに噂する。


──そう、この国は長くないんだ

 よく当たると評判の、辻占いのお婆ちゃんも言っていた。

 だから、せめてお前たちのような子供達ガキンチョは、早く良い仕事を見つけて「ここ」から出ていかないと、とも。

 お姉ちゃんとヒルデを案じて…

 いつも気にかけてくれていたお婆ちゃんも、今年の暑い夏日に、天国に旅立ってしまいました。


 

「仕方ねーか、お前と、そこのお前と……」


 本当はお前らなんか合格じゃねーんだ、なんてブツブツ言いながら……

 お姉ちゃんとヒルデに「番号札」を渡してくれる「審査官」さん。

 暖かそうな黒いローブに包んだ身体から「ニョキッ」と左右の腕を出して、優しくヒルデ達の手を曳いてくれた。


「宜しくお願い致します。僕たちは……」

 お姉ちゃんは、笑顔でお兄さんに話しかけています。

 ヒルデは知らない人に話す勇気がないので、いわゆる「交渉事」は全てお姉ちゃん任せです。

 手は温かくて、優しそうな感じはありましたが、お顔の真ん中に大きな痣があり、ちょっと怖い感じの人です。

 おそらく誰かと争って出来た物なんだろうと、容易に想像ができました。


「ああ、ここで少し待てな」

 通された、石造りのしっかりした建物に入ると、座り心地の良いソファーに座るように指示をされました。


「ふかふかだね、お姉ちゃん」

「ふふふ、そうだね」

 これからいったい何が始まるのか、何も知らず考えず、お姉ちゃんとヒルデは、ポヨンポヨンとソファーの心地を楽しむ事にしました。


「あはははは!」

「あははは、お姉ちゃ~ん」

 ヒルデたちの無邪気な様子を見ながら、破顔する審査官のお兄さん。

 きっと、育ちが良い人なんだろうと思いました。

 楽しんでいる「フリ」をしながら、この部屋を物色している視線に気づかない。

 そう、ルジェの子供は「何だって」するのだから。


──そう、何だって

──そうやって、お姉ちゃんとヒルデは今日まで生きてきたんだ



…………


「ほうらほうら、ほうぅら、もう一回だ、あはは!!!」

 イクイナは、全身にびっしょりと汗を流しながら、お姉ちゃんに男精を注ぎ込んでいます。

 苦しそうに、ふふふ、とっても辛そうに。

 でも、それらを隠そうと必死に怖い顔を作って……


「もう一回!もう一回だあぁあああ!!!」

「どうだぁああ小娘?! あはははは!!」

 懸命に。

 そう、文字通り命懸いのちがけでお姉ちゃんを犯しています。


「…………」

 あの日、リディアの魔法院から()()「盗み出せた」秘宝。

 ”双子ふたつぶ黒曜石ブラックダイヤ”が仕舞ってある、お姉ちゃんとヒルデの「身体の真ん中」。


──だから、あなた程度の術者では


「もうぅ、一回だあああああああああああ!!!」

「ひいい、もういッかい、イッカい……いいっか……」


 お姉ちゃんの魔導の力を封じ込める為にあつらえた粘液状の怪異モンスターも、いつのまにか絶命し、お姉ちゃんの身体から「排出」されている。

 ……魔導生物の助けの無い「ただの人間」が、お姉ちゃんを制する事なんて出来やしない。


──そう、後は。


「ひいいい、ひいいいいいい!!!!」

「苦しいい!! ぐるしいいいい!!!!!」


 搾り取られるだけなんだから……


……………


「リーゼロット様、今日は僕たちをお招き下さり、本当にありがとうございました」

「サーシアお姉ちゃんも、ありがとうです」



 カテリーナたちは、リーザス王国の護りの要。

 通称「丘の古砦」と呼ばれた、南方守護職の庁舎に招かれていた。


 リーザス王国は、他国との国境である北限を二千~三千メートル級の山々が連なるエトナ山脈に守られており、その南方のリーザス盆地(旧称・南エトナ地方)に開国した新興国である。


 開国の祖であり、上級魔導師であったリーン・アウグストゥス、後のリーザス一世はその想い人であり、リディア聖国の参軍として南下政策に参加していたレシティア・フラウテフラと共にリディア聖国よりの独立を宣言。

 宣言後直ちに、南エトナ各地に展開していたリディアの将軍たちを強行的に軍事力で接収。


 今、姉妹が招かれている砦は、リーザス開国の際に、最後まで抵抗を続けた将兵たちの「最後の砦」になった場所である。

 リーザス統治の代名詞である「武力」を内外に示す意味で行われている「リーザスの武闘会」のフィナーレは、ここの大広間で行われる「舞踏会」で締められる。

 多勢に無勢で、踊るように蹂躙され死に至った「元友軍の将」たちに対し、余りにも不謹慎だと言う者も実際、少なくはない。



 裏切りの返り血で染まった古砦

 その丘の道は

 真紅のカーペットで今日も客をもてなすのだ


 ああ

 かつては友だった

 かつては恋仲であった者たちも全て


 切り捨て

 踏みにじり

 そして一箇所に集め

 紅蓮ぐれんの炎で処す


 その身が炭になっても

 彼らの恨みは消える事はない

 怨嗟の声は

 冬の吹雪が運んでくるのだ



「本当にきてくれてぇ、ありがとぉね」

 普段から動きやすい服しか着ないと思われていた拳士サーシアも、本日はドレス、純白の美しい刺繍の入った服装にその身を囚われている。


「どうかな。私のサーシアは美しいだろ?」

 砦の主人であるリーゼロット・リーザスは上機嫌である。

 それもそのはず、リーザスの格闘の華と呼ばれた「徒手部門」。

 その準決勝において、「聖国の巨人」こと、マイ・ウェネヴァー卿に土を付けたのだ。

 

 決勝で当たる相手は、「くじ運」が良かっただけの無名の選手らしい。

 自身も真紅のドレスに袖を通して、カテリーナたちを呼びつけた。

 ……どうやら「舞踏会」のリハーサルをするつもりらしい。

 本来であれば、前祝いの様な迂闊な真似をするリーゼロッテたちではなかったが、宿敵ライバルであるマイを病院送りにした嬉しさに、少々舞い上がっていた。

「是非、二人も一曲披露してもらいたい」

 リーザスの貴族らが集まる舞踏会なら、きっと事後の芸能活動に励みになるだろうと、リーゼロッテ。

「生活もぉ、安泰だと思うよぉ」

 ニコニコしながらカテリーナたちの表情を覗き込むサーシア。少しお酒が入っているのか、いつもの様な隙のない視線ではない。


「ありがとうございます。やらせて下さい」

「お姉ちゃんと一緒に演奏します」

 それなら、ここでリハーサルのお手伝いをと、姉妹は背中に背負っていた楽器鞄から、それぞれの楽器を取り出した。


「ヴァイオリンとチェロの二重奏曲」

「厳冬の歌です。宜しくお願い致します」

 

 ペコリと頭を下げ、楽器を構えるカテリーナ、ヒルデ姉妹。

 ヴァイオリンの奏者がカテリーナ。

 チェロの奏者がヒルデ。


 思いもよらぬ立派な催し物の予感に、リーゼロッテたちはソファーに腰掛け、目をキラキラさせて小さな姉妹を見ている。


「では……」

「…………」

 目配せを絡ませ、互いに合図を取るようにし、弓を弦に宛てがう。

 ゴクリと喉を鳴らしてしまったのはリーゼロッテか、それともサーシアか。

 いずれにしても、やや緊張気味であった「小さな姉妹」は笑顔になり、弓を滑らせる。


──物憂げな秋が去り

──全てを覆う冬がやって来る

──空はいつまでも鉛色で

──吐く溜め息も同じ色に染まる

──そう

──だから

──貴女が空から降りてくる

──世界を「白」に還す為に


 二重奏は、柔らかなメロディで居合わせる者を優しく包み込んで行く。

 いつの間にか、曲の誘われて砦内の人が集まっていた。


──世界を白く戻す為に

──季節はまた

──終わりを迎える


 かつて、星々の海を渡る星船スターシップの船員たちが、その途方もない悠久の時間を過ごす為に……

 その、終わりの見えない時間を消費する為に創り出した「戯器(ぎき)」と呼ばれたテクノロジー。


 何代も、何代も人の手から人の手へ……

 時間を……

 時空を越えてきたその存在。


「ご清聴、ありがとうございました」

「皆様、ありがとうございました」


 演奏は終わった。


 かつて、多くの戦士の死を目の当たりにした砦の応接間は、また。

 魔導戯器(アーティファクト)が奏でる「完全演奏」により、砦内の全ての人員の暗殺を完了した二人の少女を凝視するのであった。



厳冬の歌

おわり

カテリーナとヒルデとは、リディア聖国の魔導師、ユウとユア本人か、それともそれを模したクローンかと、設定上で悩んでおりますが…… 今回は「再生計画」の一端である「魔石使用」による人体強化を行われた「本来の姉妹」の姿であり、リディアの人形ひとがたと称された魔導生物である純粋なカテリーナとヒルデの二人に他なりません。

本国は未だ飢饉から立ち直っていないのに、腹一杯ご飯を食べているリーザス人に腹を立て、街中で大量殺人を企ててリーゼロッテとサーシアに捕らえられる。そんな並行世界も存在します。

気が向いたら書くと思いますので、興味がありましたらそちらもお楽しみに。

それでは皆様、よいお年を!!! あさのてんきち

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