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リーンカーネーション 輪廻の扉  作者: あさのてんきち


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外伝「メリアの歌姫③」

やっと続きをアップ出来ます。お待たせ(?)致しました。

 アメリア大陸の西に立つ、巨大な白亜の塔。

地上三十二階建て、地下四層。

一つの大陸の雄、メリア皇国の首都機能を有していた。

塔は、海峡を挟んで対立する、もう一つの強国であり……

かつては同じ母体であったリディア聖国との争いの最前線であり、

鍛え上げたメリアの騎兵を海路から送り込む本来の戦略に合わせ、

「空からの支援」を可能にしていた重要拠点であった。


その名を蜃気楼塔ミラージュキャッスルと呼び、

相継ぐ聖国からの侵攻を防ぎ……

近代まで、その防衛機能を維持していたが、

新都メサイアの整備が完了し、

また、

カンザス大陸の南側の大部分を占めるリーザス地方が聖国より独立し、メリアの友好国となった為に、

蜃気楼塔の目先から敵性国家が消滅した形になった。


故に、長らく老朽化を懸念されていた蜃気楼塔は、

その英雄然とした生活を終え、

廃棄される事が決定したのだった。


尚、残された塔は、ゲリラ等の敵対勢力の拠点になり得ると判断された為、政府は建物の放置ではなく爆砕を決定。

基礎を念入りに破壊した後、塔は倒壊。爆散して、失われたはずであった。


……にも関わらず、

「蜃気楼塔がまだ立っている」との多くの不可思議な目撃証言を元に、調査団が急遽、形成されるに至ったのだ。



リーンカーネーション 輪廻の扉

外伝「メリアの歌姫③」



「はい、カーミラさん、あと腹筋もう百回!!」

 威勢の良いバリトンボイスの一際高い声が、薔薇園狭しと響き渡った。

シルヴァイヤ前白銀騎士長の所有する、通称「穏やかでない薔薇園」は、

本日も並々ならぬ様子であった。


「この程度も軽くこなせないなら、お話になりません!」

 バリトンボイスの主は、厳しく続ける。

先日、カーミラの専任の教官トレーナーとして、

また、ヴァゼリアの補習相手として招かれたユリア師範の声が響く。


「うにゃぁ!もう動けない。百なんてううう……」

 庭師によって、綺麗に刈り込まれた芝絨毯の上に吸いきれないほどの汗を流し、身体を捻ろうとしても少しも動きの取れない少女カーミラ。

その、まだ成長途中の身体あちこちに、赤いあざが浮き出ている。

ピシャリ!!

そこに……

大きめに胸の開いた、運動用の桃色のタンクトップの生地のない所を目がけ、文字通りの「強め」の鞭が入る。


「痛い!痛ぁああい!!」

 ユリア師範ほどではないが、ふくよかな胸の持ち主であるヴァゼリアのお下がりが「災い」して、その「セミビキニ」な布切れは、ユリアの攻撃に対し、少しの抵抗も出来はしない。


「あらあらカーミラさん、まだまだ動けるじゃありませんこと」

 痛みに転がるカーミラを見ながら、口もとを押さえながら「ほほほ」と気味の良さそうな笑い声を上げるユリア教師。

さらにピシャリと鞭の追撃をもらい、「ううう!」とくぐもった声をあげるカーミラ。

にいっと口元を上げているユリアと苦痛に顔を歪めているカーミラと、二人の表情の対比が余りに痛々しい。


「……どうか、先生、もう! 私の妹が……」

 はらはらと、先ほどから様子をみていたヴァゼリアだったが、ユリア師範の厳しい調子に居ても立ってもいられない。

休憩時間を過ぎも戻らない二人の為に飲み物を差し入れに来た彼女だが、余りの様子に驚いている。

汗が出るほど慌てていて、危うくトレイごとティーセットをひっくり返すところであった。


ピシャリ!!

「動きを止めて良いなんて誰が言いましたの?!」

 そんな、ヴァゼリアの懇願に満ちた言葉も、ユリアの折檻を止めるに至らず。


「ぐうぅうう」

「どうか!!先生」

 捻れるかのように、身体をくねらせて痛みを堪えるカーミラの間に割って入る。

「責めなら私が……」

真摯な姉の表情に、一変、やれやれと破顔するユリア。


「お姉ちゃん」

 うずくまっている妹から、自分の足首をその小さな手で「ちょんちょん」とされる。

はっとして振り向くヴァゼリアは、妹の掠れる声を伴った「提言」に驚かされる事となる。


──歌姫はいつ何時も、輿から自らを降ろしてはならない。それは例え、親兄弟、姉妹が人質に取られようとも、同様である──


「お姉ちゃん、ダメだよ。カーミラはお姉ちゃんの脇を守る“コーラス”なんだから。お姉ちゃんが一番なんだから」

グググと、身体を持ち上げて「続き」を始める妹。

その様子をヴァゼリアは、また、はらはらと見守る事しか出来なかった。


「ひ、百です。先生」

 吸いきれない汗の水溜りに「正座」し、師範に「次」を求めるカーミラ。

はぁはぁ、せいぜいと背中で息をする。

明らかに限界を超える、オーバーワークであった。

「結構です。お疲れ様、カーミラ」

ユリア師範がこの「庭園」の敷居を跨いでまだ幾日も過ぎていなかった。精々が軽いメンタル教育の類いであろうと、高を括っていたヴァゼリアであったのだが……

「先生、これではまるで!」

──まるで“歌姫”の養成カリキュラムではないか!!

ユリアを非難せねばならないと……

自分をかつて苦しめた日々。

それと同じ苦しみをなぜ、この生い立ち不幸な義妹が背負わねばならぬのか。


「お姉ちゃん、カーミラにお歌を聞かせて」


殺意に似た感情をユリアに抱いていた。

耳に入る言葉が最愛の妹の声でなければ、危うく……


──そう、そうなんだね


「よ、よし、お姉ちゃん特製の元気が戻る歌を!!」

 気が付けば、ユリア師範もまるで母親のような笑顔で、優しくカーミラの汗をタオルで拭きながら、一緒に「歌」を待っていた。


──私は、歌姫だったんだ


ふふ、二人に、試されていたみたい。

恥ずかしそうに、顔をやや赤らめながら、先ほど政府から正式に叙任の文を受けった「新米歌姫」は、後に神の声とまで謳われたその声量ソプラノで、思いっきり歌い上げる。


…………

空があるからあなたがいる

陽の光と共にあなたがいる

愛するあなたが

この世界にいてくれるから

私は

愛を知る事が出来ました

私は

人を愛でる意味を知りました

そして

一人であなたの帰りを待つ

苦しみを知りました


おおお

運命の

運命を司る全てのお方よ

私はあなたに感謝し

祈りを捧げ

全ての時間

一秒一秒にも

愛を歌います


この奇跡のような出会いを

素晴らしき毎日の中で

毎日の中で

…………


 ははははははは!!

 あはははははは!!

 

乾燥地帯ステップの乾いた空気に、乙女たちの「やや嘲笑めいた」笑い声が木霊した。


「僕も聖歌隊に入りたいです!!!」


 サーバルキャットの獣人、サヴァンのレヴィが、勇ましくも、関係者を脱力させる提言を力強く述べた。


「おい、獣人けものっこ! 舐めてんかうちらの事」

「助けたのなんてついでだよ、のぼせんな小娘」


 あははははははは〜

 あははははははは〜


 聖歌隊のメンバーとは、一騎当千と謳われたリディアの魔道士にさえ匹敵する、「楽曲魔道」の達人たちである。

 幼少の頃より姉妹親戚から選別され、英才教育を束で叩き込まれた彼女らは、白銀騎兵プラチナナイツでこそないけれども文字通り、メリア皇国を構成する貴重な戦力に他ならない。

 当然、自尊心は高い。

 自分の身も守れない、増してどこの誰とも分からない獣人風情に「なりたい」等と簡単に言われる事自体が心外である。


「面倒臭ぇから、こいつらも処分しちゃおうよ」

「そうさそうさ、塔の事なんて、別の奴に聞きゃいいのよ」

 ヴァゼリアの第三聖歌大隊(通称、コーラス三隊)は、先の聖国との会戦で壊滅した第二、第三部隊を中心に再編成した部隊であり、キャリアの長い人員が半数以上を占める言わば「古兵ふるつわもの」の集団である。

「歌姫さ〜ん?コイツラも殺しちゃっていいですか?」

「まったくホント、動物臭くってしょうがねーんすよ」

無論、隊員たちのスキルは高く、新参の歌姫であるヴァゼリアと、その妹のコーラス長であるカーミラの二人に心から臣従している訳ではない。


「お黙りなさい貴女たち、私たちの歌姫の前でイジメなんて存外です」

 然しながら、お目付け役として従事する……


「け、戦巫女ヴァルキリーの姐様にはかなわね〜よ」

「ふん、生命拾いしたな獣人ケダモノども」

 ……ヴァゼリアとカーミラの師である、ユリア講師には逆らわない。


「はい、貴女もショボくれてないで、シャンと胸を張りなさい」

こうよ、と、カーミラが「お布団」と揶揄する、豊満な山脈を両肩で吊り上げる。


「にゃ、ニャハハ……」

流石にこれには、レヴィも苦笑いせずにはいられない。

自分のまだ未発達な「それ」と見比べて、頬を紅く染める。


「お歌は歌える?」

野党らの後始末を終えて、トコトコとそばに寄ってきたレヴィよりも頭一つ小さい少女。

「良ければカーミラが教えてあげるよ」

グリグリとレヴィの頭を捏ねくり回しながら、メリア皇国の最年少記録を塗り変えた才女は、興味津々に獣人の表情を覗き込む。


「でも僕、獣人だから」

「ふふふ、だいじょーぶだいじょーぶ。カーミラも、いわゆる、“いみんぞく”だし」

透き通るような白い肌のヴァゼリアとは正反対な、アメリア南方諸国の出自であるカーミラ。

自身の艶のある褐色肌を得意げに指差しながら、もう一度レヴィを撫でる。


「実は僕、楽器が出来ます」

 先ほど、自分を虐めていた聖歌隊のメンバーが、カーミラの後ろの方でニヤニヤ笑いをしているのがレヴィの瞳に映った。

歓迎されるような雰囲気でないのが分かり、言うのを躊躇っていたが、カーミラが撫でるのを止めないので、肺から息を出すように渋々答えた。


「素敵じゃない」

キャンプの指示を出し終え、本国に宛てる日報を片手に会話に参加したヴァゼリアも、レヴィの話に興味を示した。

楽器が出来る。

それは即ち、魔導の素質を有している事を宣言するに等しい。少なくともヴァゼリアは、そう認識している。


「レヴィ、その話は」

 ヴァゼリアと一緒に、野党の「処理」をしていたレヴィの姉クレアが、やや青い顔で妹をたしなめる。

楽器の事は内緒でしょ。と、しかめっ面で妹に迫る。

「でもお姉ちゃん、ヴァゼリアさんたちは命の恩人だよ、きっと許してもらえるよ」

更に青くなる姉と対比して、いよいよと、大きく大きく息巻くレヴィ。

……興奮すると、この獣人姉妹は耳がピコピコするらしい。

耳を触りたそうに、うずうずと両手を握っているカーミラを横目に、シュッと金色の髪留めを外すレヴィ。

髪留めはレヴィの手の中で光輝く。

髪留めはゆっくりと本来の大きさ、姿を取り戻した。


「そ、それはちょっと、あれだ」

「そうだ、おい、それはヤバイ奴だぜ」

いつの間にか周囲の取り巻きになっている「苛めっ子」たちまでも、皆、「青く」なっている。


模造品レプリカじゃないわね」

判断を仰ぐように注目を集めた視線に、ユリア師範はゆっくりと答える。

「魔導フルート。世界を創ったと言われる創始者たちの所有物が一つ」

忌み子を見つめる様に、目を細めてユリアは続ける。

「蜃気楼塔の発見に等しい、いえ、それ以上の優先事項。歌姫よ、この者達は皇国の保護対象です」

やや無理に笑顔を作り、ユリアはヴァゼリアにそう告げた。

「ええ」

そんなユリアの言葉に、にっこりと余裕の笑みを浮かべ、ヴァゼリアは続ける。

「私たちの聖歌隊にようこそ」

「ようこそ、だよ!!」

嬉しそうにカーミラも、その言葉に続いた。


リディアのアイちゃんが持っている「タンバリン」。

サヴァンのレヴィが“預かって”いる「フルート」。

これらは魔導戯器と呼ばれている聖遺物であり、遠くなるほどの過去と現在を結び付ける事が出来る、貴重な存在である。らしい……

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