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リーンカーネーション 輪廻の扉  作者: あさのてんきち
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第三話「守り神の物干し竿」

第三話です。

宜しくお願いします。

スズカ君への応援(点数)も宜しくデス。あさの

人と竜は争い続ける


船の往来を妨げる十三の海原の支配者

この星と同じ年月を生きたと語られている古竜、“大海竜ベルベデール”。

数多の強力な刺客を退け、逆に人族、海人族、獣人族の版図を彼の色に塗り上げて行く。

支配者の二つ名に恥じぬ実力者であった。


究極の攻撃魔導により海深く沈めたるラーツェル公

後のリディア聖国の頭目

七つの公家の首魁となる伝説の大魔導士


毒を吐き空気を瘴気に変え

その歩みは大地を腐らせ疫病えやみを流行らせる

人類共通の敵、魔土竜カーグラー

多くの人的被害を出すも

辛うじて彼等を地底に追いやったリーザス左将軍

後のリーザス一世となる稀代の重剣士


そして

竜族で最も賢く

最も美しく最も強い火焔竜

常勝のリュミスを封じた大魔道

「白の霧」の生成に成功した賢人

メリアの科学が産み落とした聖女シンシア


世界は今なお

シーソーの様に支配者を変えながら

生きる事を続けているのだ



リーンカーネーション 輪廻の扉

第三話「守り神の物干し竿」



「あれは、なによ……」


 一刻ほど前は、雲ひとつない快晴であった。

 古城の城壁の上で、好天を楽しんでいた筈の二つの人影。

 その一つがそう呟く。


「変よね、ティア、そうは思わなくて?」


 竜人族の王。

 極度まで熱した、熱く燃え上がる鉄の如き赤。

 王者の証の赤き髪。

 そして、紅耀石ルビーの如き透明度のある。

 貴人である証の、美しい深紅の瞳。


「さっきまで、何もなかったじゃない」 


 見た姿は十五、六。

 花を愛でること以外に何も知らぬ、愛らしい少女に見える。


「あれが何なのか、僕には分かりません、我が主、ルュミス」

 聞き手に徹していた、もう一つの人影が口を開く。


 ティアと呼ばれた、赤い瞳の少女よりは幾ばくか背丈のある亜麻色の髪の少年は、真西の空に広がりを続ける「それ」……

 まるで、天から垂れ下がるように見える、レースのカーテンの様な現象を眺めていた。

 

「でも……」

 分かりませんと言いながらも、聡明な竜王リュミスの腹心、千竜将ティア・ワグナスには理解していることがあった。


「あれは恐らく、“世界を無かった事”に出来る、その様な存在です」

 無音で広がりを続ける白いカーテンは、今や幾重にも織りなす様に空を支配して行く。


「ふーん……」

 ティアの話を耳に当てがいながら、リュミスと呼ばれた竜族の少女は、まるでオーロラの様に空に存在する「それ」を詰まらなさそうに見上げている。


「でもさ」

 そして、興味がなくなった様に、彼女に充てがわれた椅子に座り直す。


「それじゃあ、みんなやり直しじゃない」

 今や、眼前に広がる「それ」に接しても、リュミスはいつものリュミスらしく、そして堂々と、マイペースであった。


…………………


「下賤」

「乞食」

「糞虫」


 生きた心地がしなかった。

 人の目に付けば蔑まされ、石を投げられる。自然に、日の当たらない隅に追いやられて行く。


「あっちへ行け、亜人」

「出ていけ疫病神」


 日陰にも「日陰者」が住まう。そして、迎合は決してされない。

 どこにも、気持ちの安まる場所は無かった。


──ほら、飲み込めよ竜人

──次はこっちだ、休ませるか


 慈悲のかけらもない海賊達の「可愛がり」は続いて行く。

 いつまでも、いつまでも……


「歯を当てるんじゃねぇ!」

 抵抗を試みたスズカだったが、男の一人に頬を張られた。大振りで振られた掌に、部屋の隅まで文字殴り殴り飛ばされたのだ。


「も、もう、勘弁して下さい」

 スズカの脳は、この様な忌まわしい状況においても、まだ他者に慈悲があるとでも思っているようだ。


「痛いです。苦しいです」

 許しを乞えば、救われるのではないか……

 餓狼にも、良心があるのではないか……

 必死に、必死に、車に轢かれたヒキガエルよりも惨めに、低姿勢に慈悲を請う……



「お前等、もうその辺にしとけよ」

 スズカの耳に声が聞こえた。


 無限に続くかと思われた凌辱行為いじめの果てに、スズカは辛うじて自我を失わずにいたが、男達からの執拗なそれに耐えきれず、自死を選ぼうと舌を歯に這わせていた。


われを取れ」


 元々が素直で、健気な性格が災いした。

 竜族としての誇りを持って生きる事が大事なのだと、大好きだった母が言っていたのを忘れなかった。

 けれどももう、限界だった。

 何もかもがもう全て、嫌で仕方がなかった。


「吾を取れ竜の子よ」


 だからスズカは遂に、自分が狂ってしまったのだと思った。

 自分が張り飛ばされた壁際に、物干し竿として立て掛けていたそれを手に取り。


──構えた


…………………


 僕の守り神

 あの日、僕を救ってくれた君

 あれ以来、話しかけてはくれないけれども

 僕は毎日、君に感謝しています

 こうして、自由を求めて生きられるのも

 こうして、尊厳を取り戻せたのも

 全て君のおかげだから


…………


 スズカとグゼが、鉱夫組合が異界化発生の報告を受けた坑道に潜ってから二日目。

 ここまでは、割と、どの地方でも見る事の出来る甲虫などの節足動物。砂虫などの軟体生物の類等たぐいなど、攻略法の知られている、所謂いわゆる「雑魚狩り」が主体の様相ようそうであったが……


「なんじゃ、コイツら?!」

「うぇっ、気持ちが悪くなる。スライム?」


 大凡おおよそ、生き物等とは呼べない異形。

 グチャグチャ、ネバネバと耳障りな音を立て、坑道の上部、下部を問わず、そこらじゅうを腐食させながら移動を試みる汚物。

 時折、こちらに気づいているか否か、触手のような棒状の物をブニャンブニャンと振り回しているが、知性は感じられない。

 恐らくは盲滅法めくらめっぽうなのだろうが、触手から汚臭をかき混ぜられている様で、物凄く不快だ。


「おじさん、下がって」

 坑道の上下左右に、音を立てて広がる粘体の化け物に対峙していたグゼに、声を掛けるスズカ。

「僕、試したい事があるんだ」


 物干し竿

 あのとき、僕の手の中にあった君は

 僕を救ってくれた

 一度たりとも忘れはしない


 スズカは魔導の心得はない。

 けれども、知っている事がある。


 僕を暗闇から

 解き放ってくれた君は

 僕の生涯の友人

 これからもずっと一緒さ

 ラララ


 歌は魔導の一つに数えられ、そして、歌い手は魔性を帯びる。

 かつて、スズカの母がそうであったように、そして、スズカ自身もまた、それを口移しに受け継いでいる。


「おおお!!」

 下がれと言われて、躊躇ちゅうちょしたグゼだったが、スズカの歌声に坑道が共鳴する様子に驚き、感心しながら、スズカと化け物が正対出来るように道を譲った。


蛇頭七節棍サーペント・ウイップ!」

 道を譲られたスズカは、物干し竿をねじり、竿の両脇を横に引く。

──ガシィーーン!!

 今まで、竹竿以外に思う事が出来なかったそれが、本来の姿を取り戻す。


 あの、ウルザの海賊

 いやらしい餓狼達から守ってくれた


 僕の在り方

 たった一つの大切な心を守ってくれた、護身具

 片時も、傍から離さなかった


「七節棍、風車ぁあああ!!」


 まるで、銀色の花が咲いた様に、七節棍の両縁に生やしたしろがねの刃。

 節の繋ぎ目を支点に、それをヒュンヒュンと回転させる、回す。


「やあぁああああああ」


 吠えるスズカ。

 坑道を立体的に占拠している軟体生物。

 後に、鉱区の名前を取り、ラテナ・スライムと呼ばれることになった魔導生物に対し、スズカは物理の刃に、「歌」による追加効果を乗せて……


 攻撃する!!!


──ゾブゾブゾブゾブ


 鼻をもぎ取り去るような腐臭と、耳を覆いたくなる炸裂音が、狭い坑道の上や下に構わず響き渡る。


ギュギョアアアァアアアアアアア


 そして、後から迫る、この世の物と思えない断末魔。

 「風車かざぐるま」。

 風の魔導を帯びた刃が、確実に化け物を圧倒している証拠である。


「どうだぁあああ化け物!!」

 あの日から、弱虫は止めるんだ自身に言い聞かせて生きて来た。


 餓狼達を片付けた、あの時と全く同じ瞳の色。

 希望を讃えた真紅の色。

凌辱行為とは

千葉県産のピーナッツを鼻に詰められたり

茨城県産の納豆を耳許で捏ねらりたりする

乙女には「耐え難い」行為の事です

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