猛暑の歌
お日様
お日様
私たちのお日様
朝起きればそこにいて
一緒に目を覚ます
夜になるとさようなら
一緒に
おやすみなさい
お日様は
守り神さま
とっても働き者さんです
でも
今年は少し頑張り過ぎですね
村のみんなが植えた苗が
全部
枯れてしまいました
だから
私は
明日から違うお布団で
暮らさないと
いけません
リーンカーネーション 輪廻の扉
「猛暑の歌」
とある平凡な
とっても平凡な私たちの集落
ライ麦畑と
少しばっかりのトウモロコシ畑とが
暮らしのほとんど
うちには
痩せた二匹のヤギさんと
足の悪い老犬がいて
私の仕事といえば
その子らと遊んであげたり
洗濯物を取り込みに行くついでに
鶏舎の鶏さんが
卵を産んでいるかを見に行くくらい
お金持ちさんになれば
来年から学校に行けます
もちろん私は
行けることすら
考えたこともありません
とっても楽しいって
聞いているから
羨ましいなって
一回だけ思いました
そんな
旅人も訪れることのない
田舎の田舎の集落に
なんと今年は
事件がありました
「とていせいど??」
聞き慣れない、と言うよりか
初めて聞く言葉です
「カーミラは数が数えられるね」
母さまが当たり前のことを聞いてきます
それと、カーミラって私の名前です。いちおう。
「今度ね、村長さんの口利きで、街の商家さんで働けることになったんだよ」
母さまは、早口に次第を説明します。
「日照りでね」
私の分のご飯が買えないんだって。
だからごめんね。
って、母さまが私に頭を下げます。
若い頃は綺麗な赤髪だって、集落中の若い人達が挙って恋をした。
今は、白髪だらけの母さまの頭。
深く頭を下げようとする母さまを
私は抱いてあげることにしました。
「ごめんね」
「本当にごめんね」
私の肩は、母さまの涙で水浸しになりました。
「大丈夫だよ母さま」
きっと
いろんなことが勉強出来る
そんなふうに思うことにしました。
「アウルはついてきちゃダメ」
なんか胡散臭げな風態の案内人が
約束の日の二日後に集落にやってきました。
「荷物はそれだけかい、お嬢ちゃん」
すきっ歯をカタカタさせながら話す人。
昔話の骸骨みたいに…
「犬は連れて行けないよ」
「アウル、帰りなさい」
村外れまで、アウルは見送りをしてくれた。
千切れるほど手を振ってくれた母さまの姿は、やっと見えなくなった。
「さてと」
「………」
村外れから一刻ほど歩いたところに、小さな泉がある。
日照りで、ほとんど水はなくなっていたが……
母さまと、亡くなった父さまが初めて出会った場所だと聞いていた。
「男を知っているかな?お嬢ちゃん」
周囲を見回していたおじさんが振り返り、唐突に訳の分からない事をいうので……
「カーミラです。おじさんは男の人。私は女の子」
私の名前と、今、分かっている事、これが全てで。
「くく、そうだとも、そうだとも」
おじさん、私の答えに満足している?様子で……
「ここにいるのは、カーミラちゃんとおじちゃんだけだ。これは、分かるかい?」
気味の悪い、下卑た笑い顔。
ソワソワと、何やらとても嬉しそうに。
そして……
「おじちゃんとカーミラも、君のご両親のようにならないとね、くくく」
私の腕を掴み。
「痛い!!」
捻り上げた。
「カーミラちゃんはココノツぅうう!! 男を知るにはちょうぉおおど良い、お年頃さなぁああ!」
口から漏れる息が臭う。
そう、血の気が下がるほどの悪臭。
気持ちが悪い。
「先ずは、ちゅーしようね、ちゅー」
おぞましい!
私は口を吸われないように、全力で顔を背ける。
「ほっぺにちゅー」
「嫌だ!!!」
ジュウーーーっと音を立てて、自分の左頬が吸われる。
汚い!汚い!汚い!!!
「ククク、カーミラは恥ずかしがり屋さんじゃな。どうせ、抵抗は無駄になるのに」
「誰か!!!」
助けてと言おうとした口を無理やり、汚物臭い「口」で塞がれてしまった。
……………
本日、都からの要請にて「とある人物」の保護に出張ったのだが、どうやら情報に誤りがあったようだ。
「う、うちのカーミラは、じゃあ一体何者に!?」
気が狂わんばかりに頭を掻きむしる母親を何とか落ち着かせ、次第を確認する。
聞けば、「イクイナ」と名乗る、僧侶風の男に伴われ村を出たそうだ。
「アウルよ、どうか」
飼い犬はどうやら、村外れまで、保護対象について回っていたようだ。
「どうか、このお方をあの子の所へ……」
力なく犬を撫で、娘の無事を懇願する母親。
「全力を尽くします」
今にも狂い死にそうな母親に応える、愛娘の救出を確かなものにと。
「どうか騎士様。あの子は私のたった一つの宝物なんです」
そしてついに、泣き濡れ、気を失い卒倒する。
「…………」
間一髪、倒れる事は防いだが、母親の身体には少しも肉がついていない。この地域の貧困は、報告された通りであった。
……………
「抵抗しやがって、この、ざけんなガキ!!」
暴力を受けた。
口を吸うだけに飽き足らず、舌を私の口腔内に押し込んで来たので、思いっきり噛み付いてやったのだが……
「舐めやがって!」
真っ赤に顔を紅潮させた「イクイナ」の平手が再度、私の頬を強く叩いた。
「痛ぃ……」
弾みで、口の中を切ったようだ。
血の味がする。
「大人しくしてればよ、痛い思いはちょっとだけで済んだのに、ヒヒ」
何度も叩かれた私は、立つ事が出来なくなり、組み敷かれる事となった。
相変わらずの腐臭を放つ口臭で、息が出来なくなる。
「むううぅう、ううう」
苦しくなって開けた口に差し込まれる、汚物のような舌に、文字通り「犯される」私の口腔の全て。
「…………ううぅ」
「おいちいなぁ、カーミラのお口は。ふふ、全部おじさんの物にしてやるからな」
ニイっと笑う、醜い骸骨顔。
……死のう
私はそう思った。
確か、荷物の中にナイフがあった。
母さまが、私の「とていせいど」の為に研いでくれた……
父さまが、母さまに送ったプレゼント。
あれなら死ねる。
でも……
「ヒヒヒ、神妙になったなぁあ。一気に清純を奪ってやらぁあ」
下半身の履物を剥ぎ捨て、私の両足を力任せに開く。
正直、意味する事は分からないが、イクイナが嬉しそうにする行為は、受け入れては行けない。
それだけは分かった。
「フヒヒ、感じてくるかなあ?!」
「………………」
イクイナが、ぶら下げている自身の肉片を私の股に擦り付けている。
余りの熱心に行う「それ」のお陰で、私が、私の荷物に手が届いた事に、気付いてはいないようだった。
「おじさん、私、街で働きたいの」
だからせめて、最後に元通りになる機会を出してあげたつもりだった。
「ダメだ。カーミラはおじさんの性奴になるんだから」
だから私は、ズタ袋から取り出した我が家の「家宝」を……
イクイナに目掛けて、思いっきり振り回してやった。
………………
「アウル君、済まない」
変わり果てた自分の主人に再会し、老犬はまるで魂が抜かれてしまったような姿で硬直していた。
後で聞いた話だが、少女が自死に使用した「紐」は、徒弟制度の折り、「面会時に正装を」と準備したドレスの一部らしい。
……しっかりと裁縫されたそれは、軽い少女の身体を吊り下げるには充分であった。
「私がもっと早く到着していれば」
死後、かなりの時間が経過しており、紐から自由にしてやっても、少女が再び目を開く事はなかった。
………………
「雨が降るぞおお!!」
「雨だ!恵みの雨だ!」
「大雨だ!やったぁあ」
集落では、少女の死とは違う事柄で騒ぎが起きていた。
──慈雨
稲光を伴う雷雨。
夕立であった。
余りのその雨足の勢いに、少女の亡骸を背負う騎士の姿と、とぼとぼとそれに付き従う老犬の姿は、人々の目に留まる事はなかった。
……との事だった。
猛暑の歌
終わり




