鋼の歌
誰かを守ること
誰かの明日を約束すること
オレの仕事はずっとそんな感じだった
この闇色と同じ宇宙の深淵を進み
皆を運ぶ移民船と言う存在と
その船を揺り籠とする
たくさんの生命を見守るのが
オレの使命
いったい
いつ迄続くのか
そんなことはどうでも良い
いや
契約の終焉に
こだわっていた日々も確かにあった
でも
もう考えるのは止めにしたんだ
だって
答えなんて
最初から存在しないのだろうから
きっとないのだから
リーンカーネーション 輪廻の扉
「鋼の歌」
──スクランブル!! 船団の前方に展開する敵を排除せよ!!──
──スクランブル!!!
──各レグルスのエージェントは直ちに任務を拝領し、スクランブルの所作、行動に移れ!!!
「藤壺と法螺貝が各一体、海月が七体」
ケイン一等空曹はげっそりとした面持ちで、艦橋部に設置してあるモニターを覗いた。
船団は、痛恨の失敗に陥っていた。
AIによって計算された、安全な航路である緑色の航路を通っていたにも関わらず、飛躍停止地点を包囲するように宇宙怪物が展開していた。
そして……正しく目の前で、護衛艦「雷鳥」が宇宙怪物に十字砲火を浴びて爆散した瞬間だった。
「ああ、とうとうプロメテウスだけになっちまったな……」
護衛艦のクルーは、「※代変わり」が終了している筈なので、現在はAIによる無人航行。人的被害は生まれない。
然しながら、護衛艦のない移民船団などと言う物が、果たしてこの先も生き残れるのだろうか。
ケインは自問し、苦笑する。
「まぁ、普通に考えたら詰みだな」
移民船に搭載されている、所謂「主電脳」、アイマイシリーズなどとも呼ばれている「彼女達」が演算する航路については、実はそれほど精度は高くない。
宇宙空間という前人未踏の闇を進んでいるのだから、時に計算が合わないくらいは、致し方ないとも思わなくもないが……
今、こうして絶望的な戦力差を見せつけられて、尚も、特攻の戦士の如く、忙しなく駆り出させられる身の上としては、嫌味の束を何十ダースもぶち撒けてやりたい気持ちにはなる。
──スクランブル
「ああ、もううるせーよ!!!!」
食欲が無くなっていた。
先程から、頻りに出撃しろと喧しいスピーカーに、食べようと思っていたホットドッグを投げつけてやった。
急ぐこともせず、ゆっくりと格納庫のある機材エリアに歩みを進める。
──彼は、プロメテウス防衛隊の一人。
──彼は、特殊機体「レグルス」のエージェント。
レグルス。
正式名称とかあって、実はそれの略称らしいが、そんなのはオレには興味がない。
通常時はバイクに酷似した車体をしている。
そして、宇宙空間では人型の形態に変形して任務を遂行する。
若さに滾った青年であれば誰しも、一度はレグルス乗りに憧れたものだ。
(※家出娘の神崎舞が乗って出た機体はレグルスの「プロトタイプ」である)
──そして彼は
──最後の「生身」の防空船員。
たくさんいた仲間たちは
みな宇宙の塵になっちまった
良い奴らだった
皆総じて若かった
夢もあったろう
好きな人もいただろう
けんどよ
この暗い海の藻屑になって
永遠に
彷徨い続けて行く事によって
「白」になっちまうんだな
ゼクス レイラ ゴーン ちさと ラムサス トニー
皆、直ぐに行くからよ
少しだけ
待っててくれ
──スクランブル
──スクランブル
「ケイン・ワナザード……レグルス・十五型改、いつでも出れる」
がらんとした「ガレージ」の中で、エンジン音を鳴らす一台。
かつては、隊列を組ませたままレグルスを宇宙に射出する為に、複数の機体を並べて載せる“スライドブロック式カタパルト”は、ケイン一等空曹が一機だけの専用になってしまっていた。
……同僚たちがレグルスの「前輪」を載せる「輪立ち」と呼ばれた溝には、長らく何も乗せた形跡はなく、油に付着した埃が払われずにそのままになっていた。
「了解しましたケイン。頑張って! ご武運を」
格納庫の制御を担当しているAIが、激をかけてくれた。
「ああ、マイン。奴等の鼻先ギリギリまで飛ばしてくれ」
AIを愛称で呼び返し。ゆっくり目を閉じる。
─GO!!!
後ろ側に、もの凄く引っ張られる様なGがかかったと思ったら、次の瞬間に全ての重力から解放される。
AIマインは、ケインのリクエスト通りに、宇宙怪物の鼻先。先程、護衛艦が撃沈されたポイントまで一気に彼の機体を押し出した。
「喰らえ」
レグルスが係留してきたミサイルランチャーから、核ミサイルが幾条もの奇跡を描いて、宇宙怪物が間抜けにも開けている大口に吸い込まれる様に飛び込んで行く。
瞬間、超弩級の核の炎が火球となって、宇宙怪物を焼き落として行く。
「どんどんいくぜ、船に近づけやしない」
核ミサイルを撃ち尽くしたら次は、レグルスの肩から取り外して構える突撃銃、「霊子ライフル」を乱射する。
移民船にも同型の霊子砲が搭載されているが、レグルスが持つライフルは、その小型版と言った感じだ。
「おらおらおらぁああ」
孤軍奮闘とは、きっとこの様な瞬間なのだなと……
突撃銃が熱でヒートアウトして行くのにも構わず撃ち続けた。
敵の増援が「藤壺」の内部から生成されて飛び出してくる様、海月達が分裂を繰り返して、数を無限に近付けて行く様……
そして……自分を囮に出した、「守るべき移民船」が戦線を離れて行く様をモニター越しに見ていた。
そんな絶望的な世界の中。
センチメンタルな気持ち囚われている自分自身を、ケイン一等空尉は声に出さずにクスクスと笑った。
…………………
「お父さん! お父さん!! 大変です!!!」
トタタと小気味の良い駆け足で、船橋の一番上部に誂えられた艦長室に飛び込んでくる小さな姿。
「お父さん!お父さん!!」
間髪入れず、先ほどの小さな姿とほぼ同じ背格好が、勢い良く追い掛けて来た。
優羽と優亜。
隠さずに言って良いと思う。
二人は、この移民船船団の主電脳の自律型外部端末。第三期・再生計画の「無から有」部門の成功例。
そう
決して私が会うはずのない。
二人の後期型の再生個体。
レグルスは、作者の大好きなメガゾーン23や、モスピーダのバイクを皆さんの想像で当てはめて下されば幸いです。
最初は、ガルフォースのブロンディをイメージしていたのですが……って、ついてきてます(笑)?
共感された御仁は速やかに点数をお願い致します。あさの




