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リーンカーネーション 輪廻の扉  作者: あさのてんきち


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第十七話「人と共生を試みる者」

嬉しい悲しい

楽しい寂しい

好き

嫌い

会いたい別れたい

愛している

憎々しい


生きたい

生きたい

死にたくない


そんな

人の子らの思いを

吸い上げ圧縮し

タービンは唸りを上げる

名を霊子エンジンという


その、ある種、救いのない熱源エネルギー

眠りについている

移民船の船員クルーから

今も、搾り取られ続けている



リーンカーネーション 輪廻の扉

第十七話「人と共生を試みる者」



「うにゃああ! 痛い、いたぁあい!!」

 

 漆黒の空。

 言わずもがな、無限に広がる宇宙空間。

 マイナス五十度を軽く超える、生物の活動を著しく禁じた世界。

 

「僕が一体何をしたんだよぉおお」


 一粒の命ある欠片かけら

 極寒の海原を漂いながら、たどり着く入り江を手探りで探している。

 そんな、名も無き……

 かつて、「宇宙怪物」の体細胞の一つであった「彼女」が、懸命に手を伸ばして掴んだ物。

 


「こいつは確か……」

 一時ほど前に、母体であった躯体からだに向けて、散々に「痛い」光線を浴びせかけた存在。

 そして、本体から切り離されて、寂しくも極寒の宇宙を彷徨う事になった原因。


 その「原因たる」移民船プロメテウスの尾翼にしがみついた。


「僕をいじめた仕返しをするからね」

 船体にある微細な亀裂を目にした生き物は、ゾルゾルと音を立てて(真空の宇宙空間なのでイメージです)中に入り込りむ。


警告!警告! 本艦は間もなく星間跳躍航行にうつる……

クルー各員は所定の「寝室ベッド」へ急げ!!

繰り返す……


 船内は、狂った様に警告音アラートが鳴り響いていた。

 最初は自分の潜入を感じ取られたと誤認し、あつらえ向きに立っていた「四角い箱」に滑り込んで難を逃れた。


「なんかピリピリした」

 ボトッと、箱の扉ごと転がり落ちて来た彼女は、相変わらずの緩慢な動きながらも「喜んでいる?」みたいな仕草……

 ビニョビニョと触手を上げては戻す。無理矢理に形容すれば「万歳」でもしているかのようである。

 彼女は、偶然入り込んだ「箱」。仮設されたターミナルアダプターから機器内に入り込んだことにより、プロメテウス船内の各セクションの様子を把握する事に成功したのだ。


「てか、寝室ってなんだろう」

 先程から船内アラートも告げている、船員の避難先。有機生命体を自分以外に知らない彼女にとっては、当然に興味を掻き立てられる物に他ならない。


「よし、近道をして……」

 ターミナルアダプターの上部に電源用の配管が見える。先程得た情報の中から「見えた」系統図によれば「寝室」に一番早くたどり着く進行方法のようだ。


「船外からの異物を排除するシステムくらいあるはずだから……」

 ここは慎重に行こう。

 見て触りたい、それこそ船内の至る場所が彼女の初体験なのだ。本当はゆっくり見て回りたい。

 ブニブニと、配管に自らを捻じ込んで行く彼女であったが、どことなく後ろ髪を引かれているような、自覚のない「もたもたとしている」様な妙な感覚があった。


………………


「発信源、転送されてきます。あと十七分後」

 

 夜中の二時半のナースコール。

 患者からではなかった。


「向こう側からのお客さんだ。精々、丁重にな」

 病棟でもなく、普段使われる事の少ないブリーフィング室で顔を合わせたメンバーは、これまで会った事のない面々。然しながら、序列は考えなくても理解出来た。医師と、私以外の看護師は、まだあどけなさの残る「新人」であり、余りにもこの場が相応しくないように思える。


「…………」

「児島小夜子さん、だね」

 私が、このメンバーへの質問をする前に、医師から名前を呼ばれた。ネームプレートは付けていない。


抵抗値レジストが高いそうだね。頼りにしている」

「………はい」


 竈門かまどの様に見えた。

 初めてその「装置」を見た時の率直な感想であった。

 

 異質な物。

 他の表現方法を私は知らない。

 その竈門が開くと、かつて「門」と呼ばれた装置がもたらした物と同様な「超常な恵み」。

 遠隔地とを繋ぐ「歪み」が具現する。

 

「カウントダウン、あと五分と三十秒!」

 但し、ゲートと違う所があるとすれば、人種ごと、部隊ごとを瞬時に転送出来た化け物である「門」と違い、小夜子が所属する帝国病院内にあるこの設備は、余りに一緒くたにするには規模が違い過ぎた。


「あと二十秒」

 カウントを告げる若い看護師と比較して、医師の表情は明るくない。


「うむ、それなりな奴だな、小夜子君、サポートを」

 いつの間にか「君」呼びになった事よりも、竈門が持って来た「物」に意識を持って行かれる。


「小夜子君!!」

 医師の声で意識を取り戻した。

 そして……


歪なる者よ

門を潜れる大きな存在よ

私は

あなたに尋ねる

旅の行く末に

辿りついたあなたの真実を


 歌い上げる。

 まるで憑き物が憑いたように。

 白衣を引きちぎる。

 目には情熱を!

 口元には英気を!


うあああああああああああ!!!


 強烈な小夜子のシャウト。

 新人の看護師たちは一瞬、何が起こったのか分からなかったが、次の瞬間には、彼女らの役目を理解した。


辿りついたあなたの真実を

あなたが目の当たりにした全ての物を教えて

ああ

世界に広がる全ての事象を……


 看護師たちは、全力のコーラスを小夜子に合わせ奏で上げる。

 何の打ち合わせも無かった。

 けれど。

 それが最善の行動だと瞬時に判断したのだ。


「我らは貴殿に尋ねる。貴殿の求める夢を映す世界と……」

 医師は、どこから取り出したのか、指揮棒タクトを構える。


──素晴らしいじやないか今宵のセッションは

 終始、仏頂面だった医師の顔に紅潮の赤色が昇る


「迎えよう、客人を!」


 そして……


ウウウアアアオオオオアアアアクァアッ!!!!!


 竈門の口が開いたのだった。


………………


「うお、にゃんだここは」

 彼女が見たのは、きっと墓場セメタリー

 目覚める機会の訪れない「廃船員」たちが横たわる広大な空間。

 全ての亡骸に既に息はない……


「けれども、けれども、ここからは」

 彼女自身が恐るべき質量を誇る、超常現象たる宇宙クラゲの一部であったからこそ、理解できる。


 今なお、亡骸たちは「囚われている」。


 泣いている

 苦しんでいる


 移民船が宇宙を泳ぐ為の動力源。

「贄」になっている自分らの存在を嘆いている。


彼女は思い出した

何故に僕ら、海月クラゲたちは船を襲うのか

そこに、船に押し込められた

圧搾された魂たちの解放

造物主が教えてくれた


正常な輪廻の担い手になるという事

時間が正しく過ぎる事を任されると言う事


臍の尾を引き摺りだすように

星々の悲しみの記憶を辿る

移民船たちを阻止する事が使命

それが彼女の使命


「僕は認めない」

 傍らに、打ち捨てられる。

 壊れた人形の様に息のない「一人」に触れる。


「うふふ、姉妹だったんだね」

 もう一人が、離れないように、腕に手を回していた。


「僕の生命を分けてあげる。どうか、君たちに未来がありますように」

 粘質だった彼女は……

 不幸にも旅の途中で生命を落とした「姉妹」の、魂になったのだった。



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