表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リーンカーネーション 輪廻の扉  作者: あさのてんきち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/32

外伝「メリアの歌姫①」

小生の聖書「グインサーガ」にも、たくさんの外伝が出ていますね。

物語の辻褄を整えるのに、この「外伝」と言うものは、本当に有り難い存在です。

お母さんは強かった

僕たちの故郷へ侵入した敵兵たちを

まるで羽虫を手で払い除ける様に

難なく

幾度となく退けたんだ


そして遂に

母さんの奮闘に呼応して

長く他の竜族と仲違いしていた土竜さんたちが参戦


メリア皇国の後方を撹乱してくれたお掛けで

母さんたちの兵隊さんたちは大挙して海峡を渡り

メリア皇国の南方の要

ラスワンヴェイ要塞を占領する事に成功しました


そこから十数年の間

要塞は僕たち竜族が統治する事になりました


これは

その要塞を取り返す為に苦心した女性たち

メリア皇国の「歌姫」と

その親衛隊である「コーラス隊」のエピソード

本来なら世に出ないはずの物語



リーンカーネーション 輪廻の扉

外伝「メリアの歌姫①」



「カーミラちゃん、どこかなぁ?」

 見渡す限りの見事なる赤色。

 ここは、とある有力者の邸宅にあるバラ園。

 ちょうど、成人の胸辺りに届く程度に整えられたバラの木には、零れ落ちそうなほど見事な花弁を広げたバラの花たちが、文字通り競うように咲き誇っている。


「カーミラ、愛しいカーミラ。お姉ちゃんだよ」

 その花々に負けじ劣らず咲く、一輪の大輪。


「うふふ、ここかなぁ?」

 美しいプラチナブロンドと、絹のような肌。

 ガーネット色の双眸と形の良い唇。

 シルク地の青い、メリアの民族衣装。

 ツーピースに似た、動きやすそうな装いを涼しそうに着こなしている。


 見目麗みめうるわしい成人女性である彼女が、バラ園の木々に隠れた妹を探している無邪気な様は、まるで天国エデンで戯れる女神イブそのものの様に映り、ここが本当に現世うつよかと見紛みまがうことであろう。


「みーつけた」

 探し人は、庭園のベンチの後ろに隠れていた。

 見事な程に「頭隠してお尻隠さず」であった。


 私のカーミラ

 栗色の髪と、栗色の瞳

 とっても小さな女の子

 そして

 その可愛らしい二つの眼で

 悲しい涙を

 たくさんたくさん流してきたのね

 だから

 私が世界で一番

 貴女を幸せにしてあげる

 

 メリア政府の戦災孤児救済計画の一環として行われている「里親制度」。

 カーミラは、正しく竜族に奪われた南方、ラスワン地方の出身であり、同地域の撤退戦を指揮した騎士団「白銀騎士プラチナナイツ」三番大隊長たっての要請により、カーミラはこの邸宅の新しい家族となった。

 竜族の反抗戦は苛烈であり、特に「非情の赤竜」とメリア側が仇なす竜族の首魁が一、レッド・ドラゴンが放ったアトミックブレスは、カーミラの生まれた土地を人族が住めない荒地へと変えてしまった。


「きゃあ! お姉ちゃん!」

 見つけられた事に、嬉しそうな悲鳴を上げる少女。

 さらに逃げようとする彼女に回り込んで「通せんぼ」する。


 カーミラは、ここに来てようやく一年近くが過ぎた。

 最近は食事もちゃんと摂るようになって、以前のような痩せ細った身体ではなくなり、元気いっぱい。

 ……姉に構ってもらえる事をまるで、至上の喜びにでも感じているようだ。


「カーミラに何かようかしら? ヴァゼリアお姉ちゃん」

 淑女になる為に行われる養成講座然に、恭しく首を垂れる妹。

 釣られて礼を返すと、隙アリ!と逃げてしまうので、姉は、そのカーミラが取る可愛らしいカーテシごと両手でいっぱい最愛の妹を抱きしめた。


「お母様が?」

 カーミラは、小さな小首をコクンと傾けた。

「カーミラ、まだ悪戯してないよ」

 ベンチの後ろに隠してあった青色の染料。

 思うところ、カーミラ作の「青いバラ」の材料か……


「私たちにご用事があるそうです。一緒に行きましょうカーミラ」

 にっこりと微笑みかける淑女ヴァゼリア。御年十七歳。まさに花も恥らう天使なお年頃。

 

「まだ何もしてないよ……」

 不安そうに小さな眉をしかめるカーミラ。

 屋敷に来た頃は、良く母に特別な「教育」を施されていた。

 最近は家の者に「それ」は引き継がれてはいるが、天真爛漫に育てられた南国の少女には、時折見せる母の神経質そうな眼差しが怖い。

 居辛さを感じた時は、一人庭園の隅でぼんやりと南方の空をながめていた。


 そんな様子を幾度か目にするうちに、姉は心から妹の力になりたいと思った。

 ヴァゼリアは皇国の所謂「歌姫候補リザーバー」と呼ばれる一人であり、実はけっこう忙しい身の上であった。

 然しながら、頼る者もなく、ここで生きて行く事を強いられているカーミラの事を不憫に思わぬ事はなかったが……


「ごめんなさいカーミラ、私、ちゃんとお姉ちゃんするね」


 起床時間を守れぬカーミラが、いつもより厳し目な「教育」を受けたその夜、コッソリと邸宅を抜け出そうと……

 したものの、不審者避けの意味も備えたバラ園のトゲで、言葉通り、血塗れになった状態で発見された。


 ヴァゼリアは、人任せであった妹を思い、恥じた。

 それからは、侍女たちに遠慮せず、積極的に妹の私室に顔を出すようになった。


「お姉ちゃんに見て欲しいのがあります」

 未遂の脱走事件から三月みつきが過ぎた頃、カーミラは姉の手を引き、庭園の北側にある庭師の詰め所を案内した。

 「誰もいないから大丈夫」

 以前であれば、住み込んで庭の手入れなどをしている庭師も居たらしいのだが、今では余り人が寄り付かない場所になっていた。


「これは……」

 ヴァゼリアは絶句し、涙を零す事を禁じ得なかった。

 詰め所の外れにある低木。

 恐らく、この場で寛いでいた植木職人たちが「戯れ」で植えていた一角。

「青いバラ、南方原産の。こんな所に……それと」

 木製のイーゼルに立てかけられた一枚の絵。


「お姉ちゃん、ありがとう」

 拙い肖像画。

 でも、一生懸命描いてくれたのが分かる一枚。


「ラスワンちほーのお花言葉で……」

 カーミラの説明が終わらぬうちに、飛び込む様に妹を抱き締め姉。

「終身の絆ね、そうよね」

 止めどなく溢れる涙をすすり、強く最愛の妹を抱き締めるヴァゼリアだった。


………………


「ミラージュ様が敗れました」

 母は、明らかに不機嫌であった。

「口惜しいかな、現在はリディアの虜になっていると言うことです」


 二人の母たる、シルヴァイア子爵夫人は、直情型の元女騎士であり、皇国の白銀騎士団に所属した時期もある、自他共に認める「女傑」であった。

わたくしが自ら戦地に赴けないのがまた……」

 膝に矢を受ける。

 毒矢であった為に、左足ごと処置をするしかなかった。

 二度と戦場に、戦友たちと共にくつわを並べる事は出来なくなった。


「ヴァゼリア、カーミラ、良く聞いて頂戴ね」

 母は無念な胸の内を語り始める。

 ミラージュ様。

 皇国の第一皇女であり、元シルヴァイア夫人の同期の騎士でもある。文字通り、幾つもの戦場を駆け抜けた夫人の「戦友」である。

「ナイア様が親征の準備をされています」

 まるで、遠くを見ている様な引き締まった双眸。

 夫人は今尚、戦場に立っているのかも知れない。


「お願いだ、二人とも。母の友人を取り返してくれ」

 姉の奪還をと声を上げたナイア皇子は、未だ十歳に満たない。

 政治的な何かを感じなくもないが、すでに計画は発表されている。

「近々、ヴァゼリアには歌姫としての正式な叙任があると思います」

 目を閉じ、何かに思いを馳せる様な「間」のあと、思い切った様に口火を切る元騎士。

「カーミラにも従軍してもらいます。そのつもりでいなさい」

 唐突な母の言に、凍り付く姉妹。

「ははは、ビビるんじゃない。それでも我が家の子か?!」

 両手で、硬直する姉妹の肩を同時に叩いた。

「何も、魔女アイの首を取って来いとは言っていない。楽勝だよ」

 かつて、戦場でたくさんの友を癒やした豪放さで、子らにも激を与える。

「時間もある。精々しっかりと準備をするように……」

 母は、カラカラと笑いながら、私室に退出して行った。


……………


「カーミラ、お歌は余り上手じゃないよぉ」

 歌姫になる。

 それは、一軍の旗頭になる事を意味し、長く戦場に従事する兵士達に癒しと、助言を与える存在となる使命を帯びる。


「うふふ、大丈夫よ。お姉ちゃんがお歌を頑張って勉強するから」

 後に、空から贈り物と呼ばれた、リディア聖国の砲台を沈黙させるに至った彼女の「壮行歌」は、まだこの時は冗談にも存在しない。

「新しい先生が見てくれるそうですよ」

 不満げに頬を膨らませている妹を優しく撫でる。


「どんな人が来るのかな」

 約束の時間は午後の二時半。

 お気に入りの帽子と、水色のブラウスを引っ張り出してきた。

「いい先生だといいな」

 カーミラの小さな胸は、緊張から、震えるように小刻みに動いていた。



 せんせい あさからおはようです

 私はねるので さよーなら

 あさひは私のよーぶんですから

 カーテンを少し開いて 

 おへやに光を入れて

 お天気が赤くかわるまで

 ゆっくりゆっくり過ごします

 おかーさんが

 コラって言っても

 おふとんバリアで たいこう(対抗)です


 

「あらあら、可愛らしい歌声ねん」


「??」

 カーミラが、聴きなれないバリトン・ボイスに振り返ると……

「みぎゃあ!! せかいが夜になったぁああ」

 いきなりカーミラの視界が無くなってしまったのだった。


「うふふ、ユリア先生の“特製ご挨拶”、気に入って頂けましたかしら♪」

 ふかふかでいい匂いのする。

 

「……お母様」

「あらあらあら」

 自身の胸元が染みるのが理解出来た女教師ユリア

 彼女は知る由もない、カーミラの実母も、実はこうして娘をあやしていたのであった。

 キュッと腰元のブラウスを握りしめ、うえぇえと咽び泣く教え子に、一番最初にするユリアの授業はカーミラを泣き止ませる事であった。


 

ほんのちょっとでも「いいね」と思われましたら……

点数。どうか入れて行って下さい(一点だっていいんですよぉ)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ