血の歌
子らよ
命ある全ての子らよ
お眠りなさい
あなた一人一人から
未来を奪うことを許して
下さい
空が堕ちる
「白」が訪れる時
全ての夢も
全ての愛も
全ての希望も
全ての思い出
全ての絆も
無くなる
消えてなくなるから
苦しまないで
悲しまないで
私が見ている
最後まで見ているから
お眠りなさい
さあ
お眠りなさい
リーンカーネーション 輪廻の扉
血の歌
「うわーーん、お姉ちゃん!! 痛い! 痛いよぉおお」
担ぎ込まれた妹の姿に、私は危うく気を失う所であった。
四肢が繋がっているのが奇跡的なくらい、どこもかしこも重篤な負傷を負っており、妹の精神が人より優れていなければ、とうの昔に絶命している筈の重傷であった。
衛生兵が止血の魔導を試みているが、文字通り「ぼろ雑巾」の様な妹の身体……
押さえた手当てから、滲み溢れるように出血が続いている。
「助けます、ユア、お姉ちゃんが必ず助けるから!!」
施術に入る前に、今にも息を止めてしまいそうな妹に、励ましを……
──ああ、早く準備をしてみんな!!
周囲にいるメンバーに声を掛ける。
サンディ、ウェンディ、……シルディは何処?
「あ、私、しーちゃん探してきます」
上級魔道士に授与する「リデアの七芒星」のネックレスが大き過ぎるくらいに小柄な、フラウ準一級魔道士が、彼女の幼馴染を探しに出てくれると言う。
「よろしく頼むわね」
この時、せめてあともう一人でも彼女に付き添わせていればと、百数十年経った今を以っても後悔の念から醒めていない。
…………
防衛網の比較的、安全域だと言われていた聖国の布陣の中。
星々を旅して、この星に辿り着いた移民船の外壁で形成されている陣地。
その、移民船の船首であり、攻撃兵器が集中している部分で構成された、聖国の防御隔壁群。
──組み立てれば空に帰れるのだと、ユウ様に聞いた事がある。
横目でチラリとその勇姿。
幾度も幾度も、私たちの眠れる命を宇宙怪物から守ってくれた漆黒の砲塔。
メリア皇国の船が展開しているウルザ海峡沖に、その雄々しい「テアステル・霊子鋼製」の四対の鋼が真っ直ぐに狙いを定めている。
緒戦こそ、不意をつかれたものの、あの守護神が鎮座する私たち聖国が負ける筈がない。
──私は、絶対にそうだと思っていた
──負けないと思っていた
──あの憎き「歌姫」たちの呪いが
──幾億、幾兆にもおよぶ長旅からを私たちを支えてくれていた守り神を
──沈黙させるに至った事実を
──目の当たりにしても信じることは出来なかった
歌が聞こえた
何十ものの歌が重なって聞こえた
空からも
大地からも唸るように
鳴り響くように聞こえた
そして
完成された術式を以て
幾つもの光の十字架が
嬲るように
次々と
鋼鉄の砲座に突き刺さって行く
メリアの歌姫たちが放つ大魔導
何十キロも離れた私の立ち位置
ここにまで届く大炸裂音
それはまるで
ユウ様が大事にされている、ご本に書き留められた聖者様のように
悪しき悪魔に攻撃を受けている……ような
なんとも痛ましい姿
私たちが負うべき業を
代わりに受け入れているのだとユウ様は教えてくれた
そして
轟音を上げて爆滅していく私たちの守護神を
いつまでも
遠くから眺めていた
私は
正確にはしーちゃんの元には辿り着けなかった
私が
道中で
メリア皇国の白銀騎士に
文字通り
死ぬほど
女に生まれた事を後悔させられた後
細切れにされた姿を
目の当たりにされただけだった
でも
しーちゃんが
私のネックレスを抱いて泣いてくれている
なら
ここまで来たのは
間違いではなかったと、思えるような気がするんだ
さよならしーちゃん
せめて貴女だけでも生き延びてね
※「しーちゃん」
雪の歌 に登場した一級魔道士「シルディ」の事
※女に生まれた事を後悔する
茨城産の高品質な納豆を「トントン」と、二丁の包丁で「引き割り」にする様を……
目の当たりにする事で、先ず聴覚と視覚と、更に発生する強烈な臭いによる嗅覚破壊。
そして、直接にその「ヌメヌメ」した何かを手に取らせ、無理やり口腔を通させる事により、触覚と味覚とを破壊せしめる「五感破壊」をそう我々は表現しています




