第十五話「リディア聖国(上)」
同じ時間軸と
ほぼ同じ航路・軌跡を経過して
緑の惑星にたどり着いた
「二隻の」移民船
話が通じない
価値観を共有できない
そんな
異民族であった双方は
我らが真実である
「異端は正さなければならない」
と言う
悲しい結論に至った
奇跡的に
手を繋いだ事もあった
それ故に
反動の悲劇の火柱は
熱く天を突き
今も消える事はない
リーンカーネーション 輪廻の扉
第十五話「リディア聖国(上)」
「警告! 警告! 宇宙大海月が複数体、通常航行座標に侵入! 繰り返す、大海月が……今、複数から多数に数を増大!! 本艦との戦闘を回避出来ない……各所クルーは……」
敵性生物の出現を告げるアラートが、けたたましく移民船内の各所に響き渡っている。
移民船の核とも言える船橋をはじめとし、住居区、商業・工業区、果ては、動力系統を管理制御する各エリア、その各々を繋ぐ配管室に至るまで、少々音量が大き過ぎるのではないかと思えるほど、アラートは大きく鳴り響いている。
「マスター、いえ……艦長、各部署・部門への通達を終了致しました。以降の指示をお願い致します……」
大きな座椅子に座っている人物の脇に、紫色のロングヘアの女性が直立不動の姿勢のまま、指示を待っている。
ここは艦橋。
艦長と呼ばれた人物が座る座椅子の前には、館内を隈無くモニターする大モニター、通称観音開きが展開しており、それぞれの重要施設の現状を矢継ぎ早に写している。
「艦長、あと十二時間程で奴等との交戦区域に入ります。霊子砲(スピリチュアル・カノン)、霊子盾(スピリチュアル・シールド)、スタンバイを始めております……」
……いつからだろう
かつて、艦長と呼ばれた人物の「骸」に話しかける少女たち。
アイから始まり、舞、美依、マイン……
そして傍に立つ、最後の再生体躯の具現者「ユアス」。
七番目の魔少女。
明らかに、白骨化してからかなりの時間が経過している。
元研究者にして、少女たちの産みの親たる神埼氏。
ユアスは相変わらず直立のまま、指示を待っている。
骸となった氏の口からは二度と、指示どころか冗談すらも聞こえないはずであるのだが……
少女は狂っているのだろうか?
目の前のモニターには、移民船を一飲み出来そうな宇宙怪物が数十体、真っ直ぐこちらに向けて進路を取ってる様がシュミレートされている。
その、明らかに死を目の当たりにしている状況をまるで楽しんでいるように、ニヤリと左側の口角を上げて、画面を眺めている。
「こう言う終わり方もあってよい。マスターはそうお考えなんですね」
モニターに映った画面が青白く光る。
射程内に入った怪物に向けて、移民船が攻撃を開始したのだ。
彼女の四肢は、移民船の制御に直結している。
まるで空手の型のようなユアスの動作をトレースして、制御器が彼女の動きを各砲座に伝達する。
──ズガアアアアアアアンンンンンン
──ズガアアアアアアアンンンンンン
一見すれば、宇宙に虹が生まれたかのような、七色の光線が唸りを上げて宇宙空間を切り裂いて行く。
そして、そのほとんどは確実に敵生命体に命中し、気味の悪い姿の大海月たちを分子レベルにまでに変えて行くのだ。
「数が多すぎる」
ユアスが先駆者たちからもらったデータの中には、今回のような宇宙怪物の群れ、小規模な物はあったが、そのような敵との邂逅は今までに無かった。
単に、幸運であったのだけなのかも知れないが……
──やはり艦長
──跳ぶことにしましょう
「私は、このユアスは諦めません」
計算通りであれば、霊子砲に蹴散らされて敵が混乱している今。
直ちに、跳躍航行に移れば切り抜けられる。
彼女の頭脳は、そう判断した。
「赤でも、黄色でもよい。ここから一番近い星系まで跳ぶ事にする」
船体が、移民船内の全てが彼女の声に耳を傾けている。
…………
数千の同胞と
数億の、まだ光を知らない「卵」たち
私はただ
あなたたちに見せてあげたい
かつて門を潜った先遣隊が見た
あの青い空を
美しい海を大地を
木々を
川のせせらぎを
私は
移民船の核となりて
あなたたちと旅を続けた
友愛の宇宙を共に
亘ってきた
途方もない時間の中で
いつしかあなたたちを
実の本当の家族だと思うようになった
だから必ず
私が見せてあげる!!!
地球のすべてを
…………
移民船の船体が赤く染まる。
ユアスの情熱の歌にシステムが呼応したのだ。
移民船内の全ての生命体が所持する「願い」を束ね……
そして、主電脳たるAIが星々の「想い」を見つけ出し……
それを捻り合わせ跳ぶ。
これが、星間跳躍。
…………




