第十四話「代償」
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目が開かない
音が聞こえない
僕はどうしてしまったのだろうか
手を伸ばす
闇雲に辺りに手を伸ばす
けれども
何に触れる訳でなく
何かに触れられる訳でなく
ただ
冷たい空気に
体温を奪われて行くのが理解できた
僕は生きているのだろうか
リーンカーネーション 輪廻の扉
第十四話「代償」
消毒液の臭い。
あとは、軟膏とかの鼻を突く類の物。
以外に薬品の種類が多くないように感じるのは、ここが病院の本棟ではなく、看護がメインの入院病棟であり、手術を行う施設ではないのだろうという事。
「…………」
ちょうど、お昼どきなのか、食事用のトレイを満載したキャリーや味噌汁の入った大きな寸胴を運んでいるスタッフ職の姿が見える。
小気味の良い、配膳をするカチャカチャ音が耳に触れる。
「目が覚めましたのね」
看護士姿の女性は、それが当たり前の様に話しかけて来た。
「…………」
「そろそろ普通の食事に移れるって、先生が言っていたでしょ?」
運ばれて来たトレイをスタッフから受け取り、枕元のサイドテーブルに持っていこうとしている。
病室内の通路が狭いのと、看護士がやや大きな身体をしている関係で、僅かな動作でもちょっと大変そうに思えた。
「食べさせてあげますわ、ベッドを起こしますわよ」
電動式のリクライニングベッドが、低いモーター音を鳴らす。
姿勢がゆっくりと起き上がり、目線が完全に看護士と重なった。
好みは分かれるだろうが、醜い女性ではなく、朗らかな為人が伝わってくる様な、安心感を与える女性に見える。
…………この様な状況でなければ
「!!?」
「外してあげる事なんて出来ませんのよ」
拘束されている自分に気が付いたのは、ベッドに姿勢を起こされ、身体に食い込む拘束用のベルトに四肢が理解を示したその瞬間。
恐らく渾身で身体を動かした筈だ。
……びくともしなかったが。
「さあ、お食事に致しましょう」
「…………」
胸に名札があった。
「小島小夜子」
目線を名札に向けたのを理解したのか、名乗ってくれた。
「知りたいでしょ?」
小夜子は、口に食事を運んでくれる傍ら、教えてくれた。
ここが「何か」なのか。
なぜ、「何か」なのか。
そして、目覚めてからずっと感じていた違和感。
その、心を蝕む、異質な感覚が教えてくれた。
私が「何か」なのか。
そう、私は誰彼ではなく、「物」に近い存在だった。
…………
「危ない!!!」
僕ははっきりと見ていた。
攻撃を受けたはずの粘液スライムが、クゼ爺さんの投げた火耀石を弾き返して来たんだ。
正確には、吹き出す様に射出されて来たのだけど、この際どちらでも良い!!
「おおおおぉおおお!!」
僕は、瞬間、反転。
ねじる様な無理な体勢からも渾身の撃を仕掛ける。
気持ちに応えてくれたのか、腕の中の蛇頭七節棍が唸りを上げて空を裂く!
「音をこえろおおおおお!!!」
── ウインドォぉぉおおおお! カッターぁぁああああああ!!!
見紛う事はない。
スズカが放った音速の刃が、グゼ爺さんに命中するはずであった火耀石を廃坑の奥先に弾き飛ばした。
「良し!!!」
確かに、スズカにはそう見えたはずだった。
──然しながら、それは
スズカ自身がそうであって欲しいと願った。
走馬灯の一場面でしかなかった。
ズガアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンンン!!!!!
廃坑の全てのフロアに響いたと言われる、火耀石の誘爆音。
不幸にも、スライムに弾き返された火耀石は、グゼ爺さんのアイテムポーチ、つまりは残りの全ての火耀石が入った袋を直撃したのであった。
グゼ氏は、この日の為に、最高級品の火耀石を手に入れ、文字通り、スズカの後方支援をと考えていた。
スズカの出世。
生き別れた孫娘の面影に似た、竜人族の少女との出会い。
せめて、奴隷鉱夫などという、貧しい立場から抜け出して欲しいと願っていた。
ただ、それだけの理由だった。
何かになろうとか、何かをしたいとか、一切そんな事ではなかった。
朝粥に、刻んだザーサイを放り込んでやると、頬を染めて……
「グゼおじさんありがとう」
ただ、ただ、そんな歯にかんだ笑顔になるスズカを……
愛おしいなどと、いつから思ってしまっていたのだろうか。
四散する自身の身体。
千切れ飛び、瞬間に高熱で分子に変わっていく我が身よりも……願った。
愛する者に奇跡が起きますように。
どうかこの不幸から、スズカが無事に、生還出来ますように、と……
…………
「痛い!! 痛い!!!」
少女は狂ったように、ゴロゴロと床を転がり。
身の上に起こった不条理に、苦しみ、失神しては醒め、醒めてはまた痛みに気を失う。
…………
「まだまだだね」
廃坑の闇がグニャリと捻れたかと思いきや、その歪みを足場に、一人の少女が「トン」っと、まるでベットの上から飛び降りるが如く、ふわりと地に降り立った。
「苦しみなさい、精々。竜の子よ」
足元で気を失っている少女の頭に、お気に入りの赤いヒールでガシガシと「ストンピング(笑)」を入れた後、口角をにんまりと上げて、そう口を利いた。
「お前は大事なピースなんだから」
それと、貰った身体は大事に使うんだと、よく意味の分からない、相手のいない独り言をブツブツと言い回し、満足しつつ、少女は、現れた時に使った空間の捻れ(※ワーム・ホールと言うそうです)に手を掛け、文字通り、よいしょよいしょと這い上がり……
そして、そこから、居なくなってしまった。
ワームホール
アイちゃんがコストの掛かる瞬間移動の魔道を面倒くさがっていたところ、
朋友のマイが、これまた面倒くさそうに生成した「時魔道」の一種。
穴状の空間を「歩いて」通って、リディア聖国の自室に戻る事が出来る。
高身長のマイが作成した由縁か、必ず穴の出現位置が高所に現れるのが難所。
但し、使用魔道コストが極めて低く、マイ曰く「ビスケット半分くらい」のカロリーらしい。




