第十一話「切り払われる枝葉」
ずっとずっと眺めていた
誰が私に気付くのかなって
雨の日も
曇りの日も
風の日も
そしてまた雨の日にも
ずっとこの「トー横」から眺めていたの
早く私を助けに来てって
早くここから助けてって
リーンカーネーション 輪廻の扉
第十一話「切り払われる枝葉」
「馬鹿な、いつから私の?!」
白き勝利者は一転して……
「貴女はね、この世界線には居ないんだよ」
真っ黒な敗者に転じる。その瞬間を感じていた。
「サーシア……」
「私の影に隠れていたのか、ぐうう、何と言う不覚」
胸元を背中から貫かれている。
幾重にも幾重にも鍛え上げた自身の胸板を、まるでバターを抉ったが如く、易々(やすやす)と貫かれた屈辱。
がはぁあああ!!!
堪えきれず、ついに口から噴水のように、真っ赤な血を吐き膝を付く女戦士。
……そう、先程までは、たくさんの観衆のシュプレヒコールを浴び、敗者を横目で見ながら揚々と闘技場を後にし始めていたのだ。
「分かって、サーシア」
サラサラとした声色。
その、鈴の音と言えばそうとも聞こえるその声に、強く否定を込めて頭を振る。
「まさか、そこな女に期待でもしていたのか?!」
既に、動かなくなっている対戦相手の屍に顎を遣る。
1日として、鍛錬を怠らなかった。
次の決勝戦で見える筈であった攻撃対象。
かの者を破り、文字通り、間違った因果を修正するのが「サーシア」の任務であった。
──こんな卑怯な横槍で
息も絶え絶えな女戦士。「サーシア」と呼ばれた彼女は、振り返りもせずに相手を罵った。
「全ての因果に呪われるといい。アイ・フォルゼ・ラーツェル!!!」
この卑怯者め!!!!
手刀を引き抜かれ、空っぽになった胸から、喉から、そして大きく口を開いて天に唾する。
この、破廉恥な因果を心から呪い。
──赦さん!!!!
怨みを吐き吐き、遂に女戦士は絶命した。
…………
「ようこそ、擬似地球圏へ」
私は、知らない終着駅に立っていた。
真っ白な、白樺の様な木材を使った駅舎。
見たことのない文字で書かれたインフォメーション。
そして……
「貴女は間違えてこちら側に来てしまったのです」
訳の分からない受付嬢の説明と。
「ああ、あの列車にはもうお乗りにはなれませんので」
私が乗ってきたはずのトロッコ列車は、本日で一旦シーズンを終えてしまったとの事。
……詳しくは、次のスケジュール発表を待って欲しいと言う話。
仕方なく。
私は駅から出て、街場を探した。
もしかしたら、あの人もここにいるのでは?
だって、一緒に乗っていたのだもの。
そう思うのは別に、可笑しい事とは少しも思わなかった。
…………
「勝者、サーシア・ファティーリア」
あれから、私はどれだけの徒労を繰り返したのだろう。
メリア皇国の国土の隅で……
国防の要と言われたラスワンヴェイ要塞。
御前試合で優勝を掴んだあの日から、私の遠回りは、更に大きな軌跡を描く事になった。
「貴公は、先遣隊として、彼の地を偵察する任務を遂行すること」
頑張れば頑張るほど。
因果は、四肢に絡みつく糸と化し、私の自由を阻害し。
「貴公は、そのまま伏兵として残り、機会があれば司令官を暗殺せよ」
やがて、泥濘んだ、汚泥の沼地に引き摺り込んでゆく。
「ありがとうサーシア、手伝ってくれて、今夜はご馳走だな」
異世界から来た私を疑いもせず、家族のように接してくれた飛龍族の公子。
苟且だと彼は言っていたが、かつて愛した男性に瓜二つのその姿に、私は心がときめいた。
「うまいなこれ、君はとっても料理が上手だよ」
子供のように、私が作った家庭料理をモリモリと食べる青年。
とっても可愛らしい。
このまま、彼に食事を提供するだけの家政婦として、異界の地で果てるのも良い。
本気で考えていたのだ。
……そう考える程、本当に彼を愛していたのだ。
「シグルイ君、最後まで馬鹿だったサーシアを許してね、全ては……」
──仕組まれた罠だったのだ。




