第九話「巣作りドラマ」
「お兄のバーカ、甲斐性なし」
「ブラッド君、お母さんは早く孫の顔が見たいの」
家には僕がゆっくりできる場所がない。
「あはは、鍵なんか掛けても意味なんてないんだから」
せっかく京浜D2(ホームセンター)で鍵一式を買って来て交換しても、妹には簡単に開けられてしまう。
「うふふ、無駄無駄無駄❤️」
妹はズカズカと部屋に侵入すると、僕が作りかけのガンプラをゴミ箱に捨てようとする。
「やめてよリュミス」
「嫌、やめない」
あの日以来、妹の僕への仕打ちはエスカレートしている。
木造の二階建て、その二階部分は僕とリュミスの部屋であり、正直生活音などもダダ漏れである。
従い、年頃の男子の嗜みである「処理」が正常に行われなかった。
そして、日に日に綺麗になって行く妹に我慢ができなくなったと言う始末だ。許せ。
「私には、駄目な主人を鍛え直す義務があるの。オモチャなんてダサいからやめて」
結局、僕の新しいプラモデルは妹に取り上げられてしまった。
リーンカーネーション 輪廻の扉
第九話「巣作りドラマ」
「ブラッドさんが、新しい住処を見い出すまで、お母さんは毎日貴方に言いますからね」
「やーい、馬鹿兄、あたしだって毎日言いますわよぉおお、あはは」
実の娘の未来を案じる母と、自分の伴侶の成達を期待する婚約者。
傍目にはこんな所だろう。
「え、僕、母さんの子じゃないの?!」
リュミスに事の次第をさっさと言いつけられて(家が大きくないので母にも聞こえていました)、こっ酷く叱られるのではないかと思いきや、意外な言葉が返って来た。
「貴方は火竜の系譜ではありません。何となくは分かっていたんでしょう?」
確かに、母さんと妹は「いかにも火竜族」な、赤い瞳に赤い髪。
けれども親父は黒竜族なので、そちらの方の血だと思っていた。
「貴方はね、滅んでしまった飛竜の王、シグルイ様の最期の一つ種」
衝撃だった。僕は今の今まで、他人様に厄介になっていたのだ。
「なかなかリュミスが貴方になつかなくて、お母さん、かなり心配でしたのよ」
僕には分かる事がある。
母さんは、血が繋がっていなくても母さんだ。
それが証拠に、不安に押しつぶされそうな僕の肩を優しく抱いてくれた。
「リュミスを幸せにしてね。ブラッド君」
同時に実娘の行く末を案じる母の顔。
僕は、頑張りますとだけしか言えなかった。
…………
「リュミス、帰るぞ」
バケツを持ち上げ、娘に帰宅を促す。
「んーん」
けれども、娘は首を振って帰ろうとしない。
「ブラッド君にも?」
一昨日から、我が家に住み込んでいる少年の名前。
見れば、リュミスは頬を赤らめていた。
「そっか、お父さん的には、ちょっとだけ嬉しくて」
ちょっとだけ、寂しかった。
竜人族は早熟である。
他の亜人種との生存競争に勝利する為にも、ゆっくりと成長を待つ事が出来ない。
十を数えず、武を修得し、魔導を掌握する。そして、十五にはさっさっと良縁に嫁ぐ。
…………
「ブラッド君、娘を頼むぞ」
あまり家に居ない親父だったが、あの日はやけに嬉しそうに。見えた。
珍しく、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でてくれたんだ。
…………
「ルテナ河の付近に、放置されている迷宮があるそうです。そこに行って見るつもりです」
竜人族は習わしで、子供を産む為には安全な拠点を「雄」が設ける。と言う決まりがある。
「大丈夫、みんな来てくれるから」
心配する母に、妹が計画を簡単に説明する。
「ラグちゃんも来てくれるの?」
母は、迷宮のメンバーリストの中から、見知った名前を見出した。
ミノタウロス族のラグ・キリシマ。
母がリュミスを産んだ時にも、当時のお屋敷の正門を守ってくれていた古き友人である。
「じゃあ、大丈夫ね、お父さんが帰って来ても心配しないでって言うわね」
娘煩悩な親父が、言葉だけで留まるとは思わないがね。
僕は少しだけ笑った。
…………
「スズカ、お山はね、私たち竜族を隠し、守ってくれるのよ」
母は、私が生まれた後も迷宮の北部にある村に小さな家を建て、私を育ててくれた。
「ずっと、ここでお母さんと暮らしたい」
でも、そんな小さな僕の願いは、叶えられませんでした。




