第八話「白濁する世界」
夕焼けお空がまっかっか
路地裏の小道も手のひらも
みーんなみーんなまっかっか
お家へ帰ろう
蜻蛉さんたちが
お空をプヨプヨと泳いでる間に
飛蝗さんたちが
ヒリヒリヒリヒリと鳴いている間に
迷いの夜に会わないように
忘却の時間に重ならないように
リーンカーネーション 輪廻の扉
第八話「お父さん、お母さん」
「お兄って本当にキモいよね? てか、なにやってんの?」
お気に入りの、ガンプラを眺めていた至福の時間を突如妹に邪魔された。正直速攻で死にたい。
「またそんなタマゴみたいなオモチャで遊んでててさ? じぶん、歳、分かってる?」
妹との誹りは、僕の気持ちなどお構いなしに続けられる。
ちなみに、タマゴなんかじゃない。ゴッグと言う立派な名前がある。
もしも弟に名前を付けて良いと言われたら、間違いなく同じ名前を親に勧める。
「もうさ、二十一なんだから、さっさとパートナー、見つけて来なよ」
挑むように、蔑むように、妹の深紅の瞳は僕を虐めて離さない。
いつもいつも僕を馬鹿にする可愛い舌をチロチロ出して挑発する。
「あ? どこ見てんのさ、甲斐性なし」
確かに、意地の悪さはこの辺りの年頃の娘の中で一番だろう。
だが……
もう許さない。
「やめて、離してよお兄! 駄目!!」
僕は妹に襲いかかった。
誰よりも愛おしい存在。
指を滑る瞳と同じ真紅の髪。
雪よりも白く、手にしっとりと吸い付く肌。
「馬鹿!!」
力任せに妹の両腕を捻り上げ、唇を奪う。
歯と歯の隙間に強引に舌を捻り込み、先程僕を揶揄った形の良い舌を貪る。
愛して止まない、この世界の唯一の人それが……
「駄目!! 私たちの血は近すぎるの!! 悪い子が出来ちゃう……」
一度は、体ごと押し返され、距離を保たれたが、再び部屋の隅に追い込んだ。
「許してお兄。謝るから」
構うものか。
妹が僕を詰る度、この日を実現させる勇気に切り替えていた。
僕の全ての気持ちで、妹に全て分からせてやるんだ!
「駄目、お兄! こんなのおかしいよ」
まだ震えるように抵抗する妹を押し倒し。
もう一度強く唇を奪った。
…………
「リュミス、こんな所にいたのか」
もうすぐ夜が訪れる。
時間になっても家に帰らないお転婆娘を探しに、彼女がいつも一人遊びをしている草原を探し回っていた。
娘は、私の姿を視認すると、悪びれもなく、釣竿をフリフリと振り、バケツをもう一方の手で指差し、中を見るよう私を促した。
「釣れた」
愛娘は、ニコニコと満面の笑みで答える。
余り大きくないバケツの中には「ギル」が三匹、ピタピタと動いていた。
「さっき、三匹になった」
聞けば、私と妻と、自分で食べる分を釣り上げないと帰らない気分だったと言う。
よく見れば「大中小」と、まるで親子の様な様相の三枚だった。
「お父さんと、お母さん、そしてリュミス」
余りに、無垢な娘の告白に、私は構わず娘を抱き上げキスした。
とても幸せな時間だった。
…………
「人間どもの巣を焼き払うのに、どの様な感傷が必要なのだ?」
部下が己を引き留めることの意味が理解できず、私は次第を聞き返した。
「彼らにも日々の営みがあり、その中で彼らは生まれ、そして死んでいきます。その一生は彼らのものであり、他者が無用に蹂躙して良いものではありません」
真剣な面持ちで答える、我が竜族の守りの要、知と力を備えた千竜長ティア・ワグナス。
「だが、奴らは、同胞水竜ベルベデールや土竜カーグラーとも対立している。万が一にも彼らが人などに破れるとは思わないが、火竜として生を受けている私が、彼らの戦いに干渉しないと言うのは、何というか、義理を欠いていないか?」
それに……
「奴等は私の両親を殺したのだぞ。高が、名声とかの為に」
私は、到底、ワグナスの様なお人好しにはなれない。
「族滅だ。人族を根絶やしにする」
私はあの時、そう誓った。
…………
「空が……」
見上げる空が白濁して行く
全てを覆い尽くさんとするそれは
まるで、河川を汚す毒液が滲み出す様に
まるで、全てを覆う冬の吹雪の様に
白一色に変えて行く
…………
「リュミス様、どうやらあれは、メリア皇国の新兵器の様です」
我ら、竜族の力を結集しても、どうにもならないのが現状です。
力なく、ワグナスがそう答える。
「まるで、やり直しみたいじゃない。見て」
リュミスが指差す地平に存在した人族の砦は、その白濁した空気に侵され消滅した。
「共倒れを狙うのね?」
人族は本当に無責任だと思う。
争い事には必ず勝者が必要だ。
然しながら……
人族が選択したのは、それすら無かった事にする無効試合。
全てを徒労に帰する魔道。
「私は嫌よ、そんなの。馬鹿みたいじゃない」
リュミスは腕を組み考えた。
片時も白濁した世界から目を離すことなく。
ただ、一心に打開策を考えていた。
…………
あの時
東の空から現れた彗星は
もう一度世界を書き換えたのだった
ホワイトの絵の具で塗りつぶされたカンバスを
黒色の絵の具で一筆書きに




