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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
一章『あたらしい朝が、来ない……』
9/91

1-8

 魔術仕掛けの神デウス・エクス・マギア

それは魔術師にとっての究極であり絶望であり、禁忌(きんき)だ。

基本的に魔術というのは単一能の術式を複合して効果を得る。

例えば水の魔術と火の魔術は相性が悪くお互いを打ち消し合う。

だが水の魔術に対して火の魔術が圧倒的に強ければ水蒸気爆発を起こす。

このように術式の組み合わせ方しだいでより高度な効果を得ることができる。

ただし、一つの魔術に組み込む術式の数が増え複雑になればなるほど魔力消費量が増大する。

だから効果が同じならより少ない術式で組まれた魔術ほど優れていると言える。

術者の魔力量には限度がある以上、それが手数の多さを決定づけるからだ。

だが逆に、魔力量が許すかぎり大掛かりな術式で効果を高めよう、という研究は(いにしえ)の時代から魔術師を魅了してきた。

当然だろう。

魔術とは本来、人の身でありながら神の御業(みわざ)を己がものとしようとした奇跡の模倣(もほう)なのだから。

ゆえにその欲望の行き着く先の未だ誰も成しえない到達点、それ一つで万事を成し得る全能魔術、あるいは全にして一なる完全術式、古来(こらい)それを(あざな)して魔術仕掛けの神デウス・エクス・マギアと呼ぶ。

クーネリアはあの大魔法陣こそがそれだと言うのだ。


「たしかに全能魔術ならすべてに説明がつくだろうな。それこそご都合主義の御神体に不可能はないんだから当たり前と言えば当たり前だ。でもな、全能魔術はそれ自体が不可能の代名詞だぞ。それを実現するには世界をひっくり返すくらいしないとあり得ない話だ」


 そう。

いくら全能魔術が作り物の偽神(ぎしん)であれ、実際に本物の神と同等の力を持つのであればその魔力消費量は無限に等しい。

それが全能魔術は不可能と断じられ、理論上の偶像(ぐうぞう)神話とみなされる所以(ゆえん)だ。

今どき誰も本気で信じてはいない。


「そうね。あんたの言う通りこの神様は完全じゃないわ。今はまだ赤子みたいなものよ」

「今はまだ?」

「この魔術の基幹(きかん)術式はね、自律進化術式よ。つまりこれは()()()()()()なの。今はまだ全能とは言えないけど、いつかはそう呼べるまでに成長する可能性がある。だから今はまだ、なのよ」

「自律進化術式……そんなものまで組み込んでたのか」


 術者が手を加えなくても術式自体が自己改変を繰り返し進化するというコンセプトは素晴らしい。

全能魔術を完成させるためには途方もない試行錯誤(しこうさくご)が必要だ。

その検証を外部からではなく内部で処理できるなら、術式を構成する速度も精度も格段に効率的になる。


「だがそれでも完全術式は成立しないな。自律進化が全能魔術に到達するより先に、大魔法陣に注ぎ込まれた魔力が尽きる」


 実際のところ自律進化術式の弱点は寿命の短さだ。

魔術は行使する瞬間に魔力が必要だが、自律進化術式は発動後、常に魔力を消費し、さらには進化するほどに魔力消費量が増加していく。

命あるものが生きていくには常に食事が必要なように、常時稼動(かどう)が前提の自律進化術式は常に魔力を必要とし続ける。

だから自律進化術式は全能魔術には到達しない。

その前に必ず飢え死ぬからだ。


「お前に心臓を撃ち抜かれた時、すでに一度時間を巻き戻されてるからな。そろそろ術式が停止するんじゃないか?」


 何と言っても時間遡行魔術はそれ自体が奇跡の模倣(もほう)だ。

たとえ一度だけでも莫大(ばくだい)な魔力を消費するだろう。


「問題はそこなのよ。あたしはあんたよりずっと早く目が醒めたわ。それから今日までもう何回も時間遡行を経験してる。それなのに大魔法陣はまだ停止してないのよ。あんたこれ、どうにか説明できる?」


 それは俺の計算を根本から(くつがえ)す重大な事実だった。

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