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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
二章『湯けむりの向こう、約束の場所』
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2-39

 魔王軍獣戦士団将軍。

その肩書から想像される人物像はおそらくライオンみたいな頭をした巨漢の獣人ではないだろうか。

いや。

実際、そういう風体の獣人も居るには居るが、当の将軍はそれとは真逆の容姿の持ち主である。

一見しただけでも戦場より社交界が似合う線の細さとその美貌。

気品の中にどこか愛くるしささえ感じるのは凛とした目元に対して小顔がゆえにやや幼い印象になるからだろう。

しかもそんな彼女の名前がニャンデリカだというのだから世の中分からないものだ。


「にゃはは。偉そうなわりに変な名前にゃん。将軍なんて字面じゃねーにゃん」

「ちょ、ちょっと。それはさすがに言い過ぎだよ」


 レーンが(いさ)めるもプリニャンカは相手を指さして笑うのをやめない。

自分だってわりと似たおもしろい名前だろうに。


「これだから幼稚な犬っころは嫌なんですわ。笑いたければあの世で存分(ぞんぶん)にお笑いなさいな。そのためならわたくしの名、冥土の土産にさしあげますわ――」


 そして(ふくれ)れ上がるニャンデリカの殺気。

やはり戦うしかない。

そう覚悟した瞬間、爆轟(ばくごう)(はし)った。

それがニャンデリカの突進だと俺が判断できたのは一周目で戦った時の知識があったからに過ぎない。


「にゃ!?」


 プリニャンカの反応は遅れた。

本調子を取り戻したニャンデリカに対してプリニャンカの目はまだ完全ではない。

十分な回避動作に入れないプリニャンカにニャンデリカが迫る。


「にゃにゃー!」


 ニャンデリカを転がるように避けるプリニャンカ。

そんな回避ではとても反撃につなげられない。

やはり現時点での実力差は如何ともし難い。


「こいつ速いにゃん。変な名前のくせに速いにゃん」


 粉塵(ふんじん)のたちこめる中でプリニャンカも認めざるを得なかった。

まるで砲弾が(かす)めていったようなものだ。

すぐさま体勢を立て直したプリニャンカだがそこにはもう余裕は無い。


「また来――!」


 レーンの警告にかぶせるような第二撃。

新米の勇者は辛うじてロングソードを盾にすることに成功した。

しかしニャンデリカの突進を止められず、受け流すかたちでその場を凌ぐ。

……やはり圧されてしまう。

たった一合でレーンの顔にも焦りが浮かんでいる。

瞬間的に理解したのだ。

ニャンデリカの本当の強さと、今の自分との実力差を。

少なくとも魔王軍幹部の実力のほどは十分に知れたはず。

しかしそれでも反撃に出る影が一つ。

プリニャンカだ。


「逃さないにゃん!」


 離脱するニャンデリカの背中を狙ってプリニャンカが飛び出る。

ニャンデリカの突進攻撃は疾走ではなく跳躍だ。

限りなく水平に近いが、実際にはわずかに放物線を描いて飛んでいる。

つまり最後には必ず着地して速度を失う。

プリニャンカはそこを捕らえるつもりなのだが――


「ご主人様。離れたら連携(れんけい)が取れません!」


 そう警告した時プリニャンカはすでに大きく突出していた。

それつまり猫族の包囲網に深く侵入しているということ。

集団戦においてそれは危険極まりない行動だ。


「だいじょうぶにゃん。こんなやつらまとめてぶっ倒してやるにゃん!」


プリニャンカは止まらなかった。

ニャンデリカの背後を取ったことで好機だと思ったのだろう。

しかしそれを(はば)むように猫族の戦士たちが攻撃を集中する。


「お前ら、邪魔するなにゃん!」


 ニャンデリカに比べれば格段に劣るものの、猫族たちの一撃離脱攻撃はまさに数の暴力だった。

彼らはつかず離れずの距離を保ったまま次々に突撃を仕掛けている。

一人の攻撃をかわしてもすぐに別の猫族が飛びかかる。

結果、プリニャンカは足は止まりニャンデリカの追撃どころではなくなる。


「無理です。下がってください」

「そうだよ。早くゼノの指示に従って!」

「何言ってるにゃん。にゃんがご主人様にゃん。従うのはお前らにゃん」


 プリニャンカは引かない。

猫族の攻撃に必死に応戦しながらレーンに反論する。

まだ戦士としての経験が浅く、俺たちとの信頼関係も無い。

だから本来の性格である猪突猛進(ちょとつもうしん)さが抑えられないのだ。


「こんな状況でまだそんなこと言ってるの? バラバラに戦ってたら勝てないよ!」

「だったらなおさらにゃん。戦場なら一番強いやつがボスにゃん。にゃんに命令したかったらにゃんより強いところ見せるにゃん」

「そんな勝手な……」


 プリニャンカは劣勢(れっせい)になりながらも自分を曲げない。

不毛だ。

ここで言い争っていても何も解決しない。

やむを得ないと判断した俺はプリニャンカを中心にした陣形を取ろうとした。

しかし複数の猫族たちが俺の前に立ちはだかる。

プリニャンカに加勢させないための妨害。

なるほど味方同士の連携は彼らの方がはるかに取れている。


「ぐ……」


 プリニャンカ同様、一撃離脱の波状攻撃を仕掛けられ俺は魔術を使う暇もなくなる。

こちらが一つ動作すれば猫族の一人から攻撃を受け、その離脱していく背中を狙おうと体を(ひね)ればまた別の猫族から攻撃を受ける。

さすがはニャンデリカの直属部隊。

数としての暴力もそうだが個々の練度(れんど)が高い。

常にお互いをカバーするように立ち回るので隙がほとんど無い。

そうやって戦場全体を縫い付けておいて、攻撃力の高いニャンデリカの遊撃で目障(めざわ)りな相手から刈り取っていく。

それが彼らの戦法にして狩りの流儀。

現状ではニャンデリカのターゲットは乱戦に強い騎士であるレーンだった。

視力が戻りきっていないプリニャンカや、魔術師であるがゆえに接近戦に弱い俺は後回し。

この状況で唯一まともに反撃できるレーンを最初に叩くことで逆転の目を潰すつもりで有利な攻撃位置へと回り込んでいく。

対してレーンは、周囲の猫族からの波状攻撃を回避しながらニャンデリカの突進まで受け流さなければならない。

当然反撃に出る余裕は無い。


 やはりニャンデリカと戦うにはまだ早すぎる。

一周目では、レーンもプリニャンカもニャンデリカと出会う前にもっと色々と経験し成長していた。

しかし二週目の今回は遭遇が早すぎて経験値が足りない。

正直なところ、今の二人には勝ち目が無いのだ。

だからこそ俺がこの劣勢を逆転しなければならない。


「レーン。援護してくれ!」


 俺は逆転の一手を打つべくその名前を叫んだ。

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