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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
一章『あたらしい朝が、来ない……』
8/91

1-7

 再び着替えを済ませて一階に降りるとクーネリアはすでに食卓に着いていた。

そこには彼女が作ったであろう例の朝食が並んでいる。

おかしなことに手付かずのままで、だ。


「これは作り直したのか?」


 クーネリアの正面に着席した俺は料理を前に口火を切った。


「まさか。わざわざそんなことするわけないでしょ」


 俺の問いに対してクーネリアは不敵な微笑を浮かべている。

それはどこか満足げのようにも思えた。


「でも食べただろう。俺も、お前も。さっきと同じ料理だ」

「ええ。でもさっき食べたのはこれからの話よ」

「どういう意味だ。文法がめちゃくちゃだぞ?」


 さっきまでの会話ではクーネリアの言語能力に問題は感じなかった。

それがここにきて急に言葉使いが乱れたのだが、逆に本人の堂々とした態度の方は崩れる様子がない。


「そのままの意味よ。この時間軸だとまだ料理に口をつける前だから、さっきの食事は今のあたしたちはまだ経験してないってことよ」


 それはずいぶんな言い草だった。

普段であればさすがの俺も耳を貸さなかったかもしれない。


「それじゃあまるで時間が巻き戻ったみたいな言い方だな」


 そうでもなければ時間軸なんて言葉は使わないだろう。

もしくはクーネリアが冗談を言っているのか、でなければ正気ではないかのどちらかということになるのだが――


「実際そうなのよ。あんただって思い当たるふしがあるでしょう?」

「あると言えば、あるな……」


 そう。

現状に説明をつけるなら時間遡行(そこう)魔術ほど理屈に合う仮説は他にない。

死してなお生きている俺。

過去に引き払ったはずの家。

撃ち抜かれたはずの服や食べたはずの料理。

それらすべてに夢オチではない現実としての説明がつく。


「魔王城の大魔法陣。あれが原因なのか?」


 俺はクーネリアの言葉が正しいという前提で話しを進める。

どの道俺はパラドクスの迷路の中だ。

こういう時の打開策としてパルメディアが授けてくれた方法を実践してみるのだ。

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()、という方法だ。

危険だが時に天啓(てんけい)さえ得られる可能性もある。

上手くいけば重要な情報を聞けるかもしれない。

それに、せめて相手の言い分からその思惑や目的を探っておこうという魂胆(こんたん)もあった。

クーネリアの行動原理を知ることは今のこの現状を理解するのと同じくらい大切だ。


「……あんた、あれがどういうものか気がついてるの?」


 やはり俺の質問は彼女の話に関係があるのだろう。

クーネリアの声色からは、どうやらパラドクスの迷路の一つ目の曲がり角は当たりを引いたらしいことが(うかが)えた。

だがそれでは不十分。

まだ進むべき方向に見当が付いただけだ。


「いや。詳しく分析(ぶんせき)する時間なんて無かったからな。でも思い出してみれば、魔力爆発にのまれた最後の瞬間に時間の伸張(しんちょう)を感じた。あの大魔法陣が時間を操るためのものだったとしても意外とは思わない」

「ま、普通はそう考えるわよね。でもはずれよ。あれは時間を操る魔法陣なんてちっぽけなものじゃないわ。あれはね、どんな願いでも叶えてくれる――魔術仕掛けの神デウス・エクス・マギアよ」


 二つ目の曲がり角。

魔王クーネリアが示したのはなんとも古びた廃道(はいどう)だった。

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