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むかしむかし、あるところにほのおのきょじんがすんでいました。
ほのおのきょじんのからだはいしでできていましたが、もえるようにあつかったのでそうよばれていました。
ですがほのおのきょじんはちょくせつそうよばれたことはありませんでした。
なぜならほのおのきょじんはのろいにかかっていて、かれのちかくではほかのいきものはすぐにとしをとってしまうからだれもちかづいてこないからです。
あるひ、ほのおのきょじんのいえにひとりのまほうつかいがやってきました。
そのまほうつかいはとてもうつくしいひとだったので、ほのおのきょじんはあわてていいました。
「それいじょうちかづいたらとしをとってしまうよ。ぼくのいえのまわりのくさやはなはみんなかれてしまった。あなたもそうなるまえにかえったほうがいいよ」
しかしまほうつかいはかえりませんでした。
「わたしにはまほうがある。それにとてもながいきだからすこしくらいとしをとってもへいきなんだ」
ほのおのきょじんは「どうなってもしらないよ」といいました。
でもほんとうははじめてともだちができるかもしれなかったのでうれしかったのです。
それからまほうつかいはときどきいえにやってきました。
ほのおのきょじんはまほうつかいとはなしをしたり、いろんなじっけんにつきあいました。
とくにみずをつかったじっけんをたくさんしました。
まほうつかいがなにをしているのかほのおのきょじんはわかりませんでしたが、てつだっているときはいっしょにいられたのできになりませんでした。
そんなあるひ、ほのおのきょじんのいえがちいさくなってしまいました
そのいえは、ほのおのきょじんがはいれるくらいじゅうぶんおおきかったはずなのに、あたまがてんじょうにぶつかってしまうようになってしまったのです。
そのことをまほうつかいにはなすと、「それはいえがちいさくなったのではなく、きみがおおきくなったのだ」といわれました。
たしかにまほうつかいやほかのものもちいさくなっていました。
つまりほんとうはきょじんがおおきくなっていたのです。
でもふしぎでした。
「ぼくはごはんをたべないのにどうしておおきくなるんだろう?」
そうきくと、まほうつかいはいいにくそうにおしえてくれました。
じつは、ほのおのきょじんはたべものをたべないかわりに、まわりのいきものからいのちをすいとっていきていたのです。
そのせいでもりやだいちがよわって、こまったにんげんはかみさまにおいのりしました。
かみさまはにんげんたちをたすけるためにほのおのきょじんをたいじするとやくそくしました。
「ぼくはかみさまにころされるの?」
「かみさまはいない。でもかみさまをしんじているひとたちがきみをころしにくる」
まほうつかいのいうとおり、たたかいのじゅんびをしたひとたちがこちらにむかってくるのがみえました。
ふたりはやまににげました。
にげるとちゅう、ほのおのきょじんはうしろをふりかえりました。
すると、くさやはなやきがかれているのがみえました。
それはほのおのきょじんがおもっていたのよりずっととおくまでかれていました。
にんげんたちもほんとうにこまっていたのです。
だからどんなにやまおくににげてもあきらめてはくれませんでした。
このままではおいつかれてまほうつかいもあぶないめにあってしまいそうです。
「あのひとたちにゆるしてもらうほうほうはないの? ゆるしてもらえるならぼくはなんでもするよ」
「きみがすいとったいのちをみずにとかしてかえせばいい。そうすればもりやだいちみいきかえってゆるしてもらえるかもしれない」
「いのちをかえしたらぼくはしんでしまうの?」
「きみだってじぶんのいのちをもっているんだからしなないさ。ただし、すいとったいのちをゆっくりとみずにとかせば、だけど」
ほのおのきょじんはよろこびました。
そんなほうほうをおもいつくなんて、まほうつかいはとてもあたまがよかったのです。
「でもこれだと、すいとったいのちをぜんぶかえすまで、きみはみずのなかでずっとねむりつづけないといけない。ほんとうはもっといいほうほうがあるはずなんだ」
じつはまほうつかいはそれをみつけるためにいろいろとじっけんしていたのだとおしえてくれました。
でもいいのです。
まほうつかいがじぶんやみんなのためにがんばってくれていたことがほのおのきょじんにはうれしかったのです。
「つぎにめがさめたらまたあえるかな?」
「わたしはながいきだからきっとあえるさ」
それならほのおのきょじんにまよいはありませんでした。
「ぼくはどこでねむればいいの?」
「できるだけたかいところにあってひとがこないみずたまりがいい。そうすればいのちがとけたみずがかわをながれてだいちにかえっていく」
「それならいいところがあるよ」
ほのおのきょじんはまほうつかいをひみつのばしょにあんないしました。
そこはがけのむこうにある『かわのはじまるばしょ』でした。
そこはとてもふかいみずたまりでした。
ここならにんげんもかんたんにはこられません。
ほのおのきょじんはここでねむることにしました。
「さようなら。あなたにあえてうれしかったよ」
ほのおのきょじんはみずたまりにしずみながらまほうつかいにわかれをいいました。
しかしまほうつかいはさようならをいいませんでした。
「つぎにきみのめがさめるときまでにのろいをとくほうほうをみつけておこう。そうすればみんなといっしょにいられるようになる。だからこれはさよならではないさ」
「ほんとうに? でもぼくはきょじんだからみんなこわがってしまうかもしれないよ?」
「それならみんなとなかよくできるほうほうもかんがえておこう」
まほうつかいはじしんたっぷりにそういいました。
まほうつかいはとてもあたまがいいのできっといいほうほうをみつけてくれるだろう、とほのおのきょじんはおもいました。
「じゃあそれまでおやすみだね」
「ああ。おやすみ」
そうしてほのおのきょじんはふかいみずのそこでねむりにつきました。
それからというもの、ほのおのきょじんがねむるやまからながれてくるみずはあたたかいおんせんになりました。
そのおんせんはいのちのちからがとけだしていて、もりやだいちもすこしずづいきかえりました。
そしてまほうつかいはにんげんたちにおんせんのまちをつくるようにいいました。
そうすればおんせんがみんなをしあわせにしてくれるから、やまをだいじにまもるようにいいました。
それがルルドのまちのはじまりでした。
おしまい。




