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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
二章『湯けむりの向こう、約束の場所』
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2-31

「お前まだそんなこと言ってるのかにゃん。にゃんの子分のことはいい加減あきらめてほかの仲間を探せばいいにゃん」


 犬族のもとへと向かうという今後の予定に異を唱えたレーンに対し、プリニャンカは呆れたように肩をすくめた。

だがレーンもレーンで(うつむ)いたまま言葉を返す。


「そんなことできるわけないじゃないか。ゼノは魔導学府(アカデメイア)の四賢者なんだよ。その代わりなんて、見つからないよ」

「でも似たようなのがあと三人居るにゃん?」

「ほかの人たちはどこに居るのかわからないし、それに、ゼノみたいに優しくないかもだし……」


 それについては俺が断言しよう。

ほかの三人はやめておけ。

彼らは魔導学府(アカデメイア)から出してはいけない危険物だ。

協力を求めたところで絶対に言うことを聞いてくれないし、それどころか逆におもちゃにされかねない。


「だから絶対にゼノは渡さないよ。なんなら君の耳を引きちぎってでも止めてみせる」


 そうしてようやく顔を上げたレーンだったが目が()わっている。

正直ちょっと怖い。

いや。

そもそも耳を引きちぎるなどと(おど)している時点で物騒(ぶっそう)なのだ。

たとえそれが犬耳カチューシャのことを言っているのだとしても。


「な、なんにゃ。やるのかにゃん? こう見えてもにゃんは犬族最強の戦士にゃん。ボッコボコの返り討ちにゃん」

「そう。それじゃあ本当に犬族なのかどうか、このボク、聖法教会認定勇者レーン・レイ・ソードワースが見極めてあげるよ」


 だめだ。

この二人、一周目の時からして相性(あいしょう)が悪すぎる。

真面目なレーンと自由奔放(ほんぽう)なプリニャンカ。

どうしたってぶつからなければならないのだろうか。

幸い今のレーンは帯剣していないとは言え、二人とも魔力による身体能力強化が使える。

だから素手(すで)であってもただでは済まない。

そういう決闘が、今から行われようとしているのだ。

ところが、幸か不幸か戦いの火蓋(ひぶた)切って落とされるより先にそれを制止する声が横合いからかかる。


「待ってください。ここはどうかご自重(じちょう)ください!」


 声のした方を振り向くと、そこには先ほど出会った少年領主の姿があった。

ただし一人ではなく、となりにはさっきもいっしょに居た侍女(じじょ)らしき女性と、うしろには二、三十人ほどの完全武装した兵士の姿。

おいおい。

これはずいぶん物々しいじゃないか。


「なんか来たにゃん。温泉郷の入浴管理局にゃん?」

「って言うより普通にこの国の正規兵だと思うけど、ボクたちを止めに来たってこと?」


 それにしてはあまりにも早い対応だ。

本当に俺たちが目当てだとしたらあらかじめ目を付けられていたということになる。

その可能性は低いように思われたが、プリニャンカの素性のこともある。

俺は、二人をうしろに隠すように少年領主と対峙(たいじ)した。


「失礼。たしかエミール様でしたね。連れが騒いだことはお()びします。ここは俺に免じて穏便(おんびん)にすませていただけないでしょうか。申し遅れましたが、俺はアカデメイアの四賢者――」

「ゼノ・クレイス様ですね。それと後ろにいらっしゃるのは勇者レーン・レイ・ソードワース卿でまちがいありませんか?」

「ええ。そのとおりです。俺たちは魔王討伐任務の途中、この温泉郷で休息を取らせてもらいに立ち寄っただけで、ご迷惑(めいわく)になるようならすぐにでも立ち去らせてもらいますが――」

「いえ。違うんです。私はお二人に(ちから)を貸していもらいたいんです」


 少年領主エミールは俺が喋るたびに言葉を(さえぎ)って話をすすめる。

よほど焦っているからなのだろうが、目的が俺の仲間でないのならまったくもって問題ない。


 俺は小さく(うなず)いて先を(うなが)した。


「じつは、お二人にはこの土地の温泉と私の兄弟、トリスタン・ピエール・ド・ルルドを救ってほしいんです」


 その頼みは、俺がまったく予想していないものだった。

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