1-6
「何で、だ。何で死んでいない?」
おかしい。
心臓を撃ち抜かれて平気で生きていられるほど俺の体は健康優良児ではない。
それにあれだけの重傷から蘇生出来るような回復魔術も使えない。
そもそもほぼ即死だっただけに自己回復は不可能だった。
他の誰かが助けてくれたとしか思えないのだが……
「お前が、助けてくれたのか?」
ベットの上で座り直した俺は、背中を向けて靴を履いている魔王に恐る恐る聞いてみる。
「あたしがあんたを救ったと思ってるんなら間違いよ。命って言うのは簡単に助けられるほど軽くはないのよ」
クーネリアはこっちも見ずにそう答えた。
やはりそうか。
いくら魔王でもあの状況では治癒魔術は間に合わないだろう。
まして死者蘇生など歴史上のどこを探しても成功例は無いはず。
だとすればこの状況にどう説明をつけるべきか。
「そうか。ならそもそも俺は死んでいない、ってことにならないか?」
俺の言葉にクーネリアが肩越しに振り返り俺を見た。
その顔は少し意外そうにも見える。
「ふーん。最初は本当に賢者なのか疑ったけど、確かに物分りはいいみたいね」
半分は冗談だったのだが褒められてしまった。
心臓を撃ち抜かれた俺を治癒することも蘇生することも不可能だったのなら、死と言う事実を否定しなければこの状況は説明できない。
だが同時に、あの出来事は間違いなく起こったことだ、という確信も俺にはある。
つまり俺は論理パラドクスに陥っているのだ。
どこかに矛盾の原因があるはずだが、それが特定できない。
「俺はまだ何も分かっていないさ。お前が説明してくれるなら話しは早いんだけどな?」
クーネリアの行動は謎だらけだ。
だが、こちらから攻撃しなければ暴れるつもりはなさそうだ。
少なくとも言動からはそう見て取れる。
もちろん警戒はすべきだが、話しをするつもりがあるなら聞いてみるべきだろう。
と言うか俺には今の所それくらいしか選択肢が無い。
「いいわよ。説明してあげるからもう一度これに着替えて下りて来なさい」
クーネリアはクローゼットから一着の服を取ると俺に投げて寄越した。
それはさっき一階に降りる前に着替えた服、つまりクーネリアに心臓を撃ち抜かれた時に着ていた一着しかない正装だった。
「お前これ、どういうことだ――?」
クーネリアは答えずに部屋を出ていってしまった。
俺は改めて自分の今の着衣と投げつけられた正装を見比べた。
いつの間にか俺の着衣が寝間着に戻っているし、正装の方も血に濡れていなければ穴も空いていない。
ついでに胸を触って確かめてみるがやはり体にも異常はない。
いったい何がどうなっていると言うのか。