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結論から言おう。
俺たちはまたしても時間を巻き戻されていた。
どうやらプリニャンカに顔面を蹴られてひっくり返された瞬間に巻き戻ったらしく、水中から起き上がった時にはもう前の時間軸だった。
しかもよりにもよってカルクトスの池でクーネリアと水浴びしている最中に戻されてしまった。
その結果が二度目のクーネリアの透け透けさくらんぼだ。
当然俺の背負う罪業も倍プッシュ。
ただし配当は無い。
単純に負債が二倍になっただけだ。
ということで、時は再びアデラ高原、カルクトス軍本陣である。
「――ボクはレーン・レイ・ソードワース。聖法教会に認定された勇者だよ」
「お前勇者にゃん?」
「そうだよ。ボクたちは魔族を倒すためにこの戦いに参加してるんだ」
今はちょうどレーンとプリニャンカが初めて顔を合わせたところだ。
当然だが、このあたりの会話の流れは前回と寸分違わない。
「魔族ならにゃんも戦ってるにゃん。猫族のやつらといっしょに全員にゃんが倒してやるから心配するなにゃん」
「そうじゃなくて、それで済まない状況になったからゼノの知恵が必要なんだってば」
「心配しなくてもご主人様のにゃんが居れば大丈夫にゃん」
「二人ともちょっと待ってくれ。先に確認したいんだが、レーン、それで済まない状況って、もしかして何かあったのか?」
俺は前の周回での会話を踏襲しつつ、二人に向かって少し大げさに話かけた。
今回は前の周回との齟齬をできるだけ少なくしたかったからだ。
つまるところ、レーンたちを回廊の問題に集中させたい。
「あ、うん。ちょっと前に魔王軍の様子がおかしいことに気がついて、それをゼノに相談したかったんだけど――」
「具体的には、具体的にはどうおかしいんだ。どんな些細なことでもいいから俺に話してごらん?」
思わず食い気味に。
密着するくらい接近してレーンの肩捕まえて話しに集中させる。
「えっとね、魔王軍の陣地に誰も居ないみたいなんだけど……」
「なんだって。それは大変じゃないか。すぐに調べないといけないな!」
「う、うん。そうなんだけど、実はそれとは別にもう一つ気になってることがあって……」
無い無い。
問題なんて魔王軍のことだけで十分だ。
この期に及んでもう一つなんてさすがの賢者さんもおなかいっぱいだ。
「クーネがすごく怒ってるみたいなんだけど、ゼノ、何か知らない?」
「知らないなー。うちの妹はいつもあんな感じだけどなー?」
俺は背後のクーネリアに振り向くことはせず、あくまでもレーンの目を見たままとぼけてみせる。
「いつもあんな感じって、今なら魔王でも殺せそうな感じだよ。ちゃんと見てみて?」
「妹やべーにゃん。殺意の覇気に目覚めた祟り神にゃん」
「さすが賢者様の妹君。背景が歪んで見えるのはあれがオーラなのですか。初めて見る」
いやだな。
みんなしてそんな風に言われると絶対に振り返りたくない。
でもきっと死神は背後から近づいてくるものなのだろう。
「お兄ちゃん」
真後ろで、妙に覇気覇気した声がした。
「お兄ちゃんは賢者だから同じ間違いを何度も繰り返したりしないわよね?」
それはある種の脅しか、あるいは殺害予告なんだろうと、俺は思った。




