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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
二章『湯けむりの向こう、約束の場所』
63/91

2-22

「痛てて……お前、こんなところで魔術をぶっ放すやつがあるか」


 クーネリアの魔術で店の外まで転がされた俺は、それでもなんとか起き上がった。

周りでは通行人たちが何事かと興味深そうに野次馬と化しているが今は気にしている場合ではない。


「ふざけたこと言う方が悪いのよ。あんた全然反省してないじゃない……」


 店の入口から姿を現したクーネリアは目元を隠したまま静かに牙を()くようま剣幕(けんまく)だった。

やはり俺に()()()()ことを根に持っているらしい。


「待て待て。反省していないことは無い。俺だって悪ふざけが過ぎたと思っている」

「そのわりには温泉郷(こんなとこ)までのこのこ来るなんていいご身分じゃない。どうせ行き先がここだって知ってたんでしょ」


 ぬぬ。

いい(かん)をしている。

クーネリアの口調は疑っているというより確信している人間のそれだ。

だが誤解している。

俺だってべつに遊びでここまで来たわけではない。


「そうだ。聞いてくれ。たしかにプリニャンカがどこに行くつもりなのかは最初から分かっていた。でもべつに理由も無く自由にさせていたわけじゃない。この温泉郷でも通過しておかないといけないイベントがあるんだ」

「へぇー。あんたのことだからまた覗きでもするつもりなのかしらね?」

「人聞きの悪いことを言うな。俺がそんな悪趣味(あくしゅみ)なことをするわけがないだろう」

「ふん。よくもそんな白々しいことが言えたもんね。まさか自分の日頃の行いを忘れたわけじゃないんでしょ?」

「うぐ。それは不可抗力(ふかこうりょうく)というか不測の事態というか……」

「なんですって?」

「いえ。なんでもないです」


 下手な口答えは危険だ。

プリニャンカとの関係が歪なものとなってしまっている今、協力者であるクーネリアの機嫌をこれ以上損ねるのは得策ではない。

何とか会話の流れを修正しなければと思っていると、意外にもクーネリアの方からチャンスをくれた。


「それで、一応聞いておいてあげるけど、あんたここでいったい何するつもりなわけ?」

「え? ああ。じつは――」


 ここで焦ってまくし立てるのは()骨頂(こっちょう)

勢いに任せていては余計な失言をしてしまいかねない。

だから簡潔(かんけつ)に、的の中心を射抜くような一言で説明すべきだ。


「俺は、プリニャンカと混浴するためにここに来た」

「やっぱりそれかー!」

「なんでー!?」


 クーネリア魔術が暴風となって俺の体を空高くへと舞い上げた。

あ、やばい。

これ絶対着地までは面倒みてもらえないやつだ。


「こんなところで死んでたまるかー!」


 俺がどれだけの高さまで飛ばされたのか正確には分からない。

しかし眼下に広がるのは周囲の町並み。

それは浮遊魔術を持たない俺にとって、落下死するのに十分な高さであることを意味している。

だが空が飛べないからと言って打つ手が無いわけではない。

地面に激突する衝撃を魔術で相殺すれば致命傷を避けられるかもしれない。

その可能性に一縷(いちる)の望みを(たく)した俺は、慣性(かんせい)から予想される着地点を(にら)みつけた。

高度はもう無かった。

しかし着地点にあるものを見つけことで俺の焦りは一気に吹き飛んだ。


「あれは水面か。助かる!」


 そこにあったのは(まぎ)れもなく大量の水だった。

つまりは衝撃を和らげる緩衝材(かんしょうざい)が敷き詰められているのに等しいということだ。

もしかしたら無傷で済むかもしれない。

いや。

俺は絶対に無傷で生還するのだ!


「おおおお!」


 無我夢中(むがむちゅう)だった。

とにかくありったけの魔力で防壁を張ってその瞬間を俺は迎えた。

噴水(ふんすい)

あるいは間欠泉(かんけつせん)と表現してもよかったかもしれない。

水面に衝突した衝撃で盛大に水を巻き上げ、それでも俺は無事着地することに成功した。

思ったより水深が浅かったが、それでも大怪我しなかったことをこの豊かな水に感謝した。

ありがとう。


 ふぅ。

それしにしても温かいな。

浅いとは言え水場に着地した俺は全身びしょ濡れだ。

だがそれによって体温を奪われるどころかむしろ温められている。

理由は単純で、この場所は温水のたまり場だったからだ。

と言うより温泉だ。

そう。

俺は温泉の湯船、もっと言えば露天湯に着地したらしい。

考えてもみればここは温泉郷だ。

大小合わせて百以上の浴場があるのだ。

落ちる場所がそのうちのどこかになる可能性も十分にあったということか。


「それにしても運がよかったな」


 もしこの湯船の中に入浴客が居て、着地の際にぶつかっていたらお互い怪我ではすまなかっただろう。

()()()()()本当によかったと思うのだ。


「……」

「…………」


 ただ一つ不幸を呪うのなら、湯船の外には入浴客が一人居たということだ。

入浴客と言うか、プリニャンカだった。

彼女は露天湯のほとりに立っていた。

もちろん、言うまでもなく全裸(SUPPONPON)である。

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