2-12
「ねぇ。これ大丈夫なの?」
調理場を後にしてすぐ、プリニャンカの後を追いかけながらクーネリアが話しかけて来た。
プリニャンカが案内してくれる場所に何か不安でもあるのだろうか。
「池と言ってもこのあたりなら水は綺麗だと思うぞ」
「そうじゃなくて獣人の子の方。あんたこれからはあの子の奴隷なのよ。時間を巻き戻してやり直した方がいいんじゃないの?」
そっちか。
たしかにプリニャンカを仲間にするはずが本来の立場とは逆転してしまった。
クーネリアにしてみれば俺は完全に失敗してしまったように見えるだろう。
「時間を巻き戻せって、まさかまた覗きでもして故意に時間ループさせろって言うのか?」
「べつにそんなことしなくてもあたしが殺してあげてもいいわよ?」
「魔王! 相変わらず発想が魔王!」
冗談ではない。
俺がプリニャンカとの勝負に負けて状況がややこしくなったのは事実だが、この程度のことでいちいち殺されていては身がもたない。
いや。
正確には精神的に辛いと言うべきか。
いくら時間ループして生き返るとは言え殺される時の痛みからは逃れられないのだ。
俺はルーシアの自宅でクーネリアに一度殺されているからそれは間違いない。
痛みは本物だしクーネリアに躊躇は無いし、たとえ時間を巻き戻すために必要だとしても簡単に考えられては困る。
「いいか。任意に時間を巻き戻す方法についてはあとで考えるから物騒な方法はいったん封印だ。ポンポンポンポン魔術で俺を撃つな」
俺にとっては切実な問題だが、クーネリアは何かふてぶてしい表情を浮かべるだけで返事はしない。
こいつ、場合によってはまたやる気だぞ。
できるだけ早急に任意で時間を巻き戻す方法を確立しよう。
その手段が必要になる時はかならずくるだろうが、最悪クーネリアのお世話にだけはなりたくない。
「それから今この現状で魔術仕掛けの神が強制的に時間を巻き戻さないってことはこの状況でもハーレム計画には支障がないってことだ。とりあえずこのまま様子を見よう」
「それじゃあこれからずっとあの子をご主人様って呼ぶつもりなの?」
「それもそのうちなんとかするさ」
そうだ。
多少いびつな状態かもしれないが、だからといって致命的な問題が発生しているわけではない。
何も焦る状況ではないのだ。
「お前ら早く来るにゃん。ここが水場にゃん!」
前方でプリニャンカが叫んでいる。
なるほどたしかにすぐ近くだったようだ。
俺とクーネリアは急かされるまま足を早めた。




