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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
二章『湯けむりの向こう、約束の場所』
49/91

2-8

 獣人戦士プリニャンカ。

それは一周目の冒険で俺がレーンの次に出会った仲間で犬族(クーシー)の戦士だ。

彼女は部族の宿敵である猫族(ケットシー)と戦うために俺たちと共に冒険をした。

なぜなら現世界対魔界というこの戦争において、犬族は人間勢力と同盟を結び、片や猫族は魔族と同盟を結んでいたからだ。

そういうわけで犬族の戦士たちは各地で戦い、プリニャンカもまたこのアデラ高原での戦いにカルクトス軍の傭兵として参加していた。

が、いつだってどこだってプリニャンカは自由奔放なお茶目さんだったようで、戦いの前だというのに料理人たち相手に一足早く修羅場っていた。


「美味いにゃー。さすがいい肉はやわらかくて最高だにゃー」


 現場は複数の天幕を繋いだ広い調理場だった。

いたるところに調理器具やテーブルが置かれさまざまな食材が用意されていた。

そんな環境にあって、プリニャンカは食べられるものなら手当りしだい口に放り込んでいく。

どうやら状況を察するに、食欲に突き動かされたプリニャンカが食べ物を求め調理場を襲撃したらしい。

普通つまみ食いと言ったら忍び込んでこっそりやるものだろうに、正面突破からの強盗働き(バンディット)とはいかにもプリニャンカらしい手口だ。

え?

誰も知恵足らずなんて言っていないよ?

とっても微笑ましいいたずらだよ?

なんて思っているのは俺だけかもしれない。

現にここに居る料理人たちは地面に膝をついたりテーブルに突っ伏したりプリニャンカの方に手を伸ばしたりしながら涙を流している。


「もうやめてくれー」

「これ以上はゆるしてくれー」


 実際、料理人にとっては食材は宝物のようなものだろう。

ましてここにあるのは高級食材も含まれているらしいからなおさらだ。

もっともそれなら泣き叫んでいないでプリニャンカを取り押さえるなり追い出すなり努力をできないものだろうかと思わないでもないが、まぁ、あの素早さの前にはとても追いつけないだろう。


「何これ。どういう状況なの。あそこに居るあれってあんたの仲間でしょ?」


 そうです。

あそこの食いしん坊バンザイは私の仲間です。


「あんたたちってもともとこういう出会い方をした、ってわけじゃないわよね?」

「ああ。一周目ではプリニャンカとはこのあとの戦闘中に偶然共闘して知り合ったのが関係の始まりだ。こんな出来事、俺は知らない」


 どうやらクーネリアと行動を共にしていたことで一周目では出くわさなかった状況に遭遇してしまったらしい。

それにしてもプリニャンカらしいと言えばらしいが、まさかこんなことをしていたとは思わなかった。

よりにもよって兵糧(ひょうろう)泥棒とか味方兵士全員を敵にまわすつもりか。

まぁ、一周目ではちゃんと戦いにも参加していたし大事にはならなかったのだろうが。


「予定に無いなら見つからないうちに離れた方がよさそうね。下手に関わると厄介事になりかねないわ」

「そうだな。また変なループに入っても困るし、今のうちに――」

「あ、あなたはもしや賢者様。ちょうどいいところに来てくれた。たのみます。助けてください」


 しまった。

遅かったか。

どうやら戦術的撤退の機を逃してしまったらしい。

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