2-7
「分かった。お前がそう言うならそういうことなんだろう」
クーネリアの意思を確認した俺はそれ以上の追求をすることはしなかった。
ひとまず俺の立場を明確にしておくだけにする。
たぶんここではそれが正解だ。
「でも俺は俺で味方のために全力を尽くすし、使える手段は何でも使うつもりだ。それがたとえ一周目の記憶であってもな」
「別にあんたの立場なら当たり前のことじゃない。いちいち改めて言うこと?」
「ああ。だからお前も必要な時は利用できるものは何でも利用すればいいって話だ。もし俺に遠慮してる部分があるなら気にしなくていい。何がどうなろうと、魔術仕掛けの神の問題ではちゃんと協力するから心配するな」
「心配って――」
言いかけて、何かに思い当たったのかクーネリアは急に納得したような顔をした。
たぶん俺の言いたいことが通じたのだろう。
俺たちは二人ともがループ現象に囚われている。
だから関係性としてはあくまでも対等な協力者でなければいけない。
俺を手伝わせるためにクーネリアが何かを遠慮しているのだとしたら、それは違うと俺は思う。
「分かったわ。これからはあんたには一切手加減しないことにするわ。自分からもっとキツイのを欲しがるなんて、あんたも案外業が深いわね」
あれ?
ちゃんと意味通じてるよな?
微笑みの向こう側に悪意が見え隠れしているよ?
「ごめん。クーネちゃん。やっぱりもうちょっと話し合って――」
「――何だ貴様は!?」
なんだとはなんだ?
俺はただの気さくな賢者ですけど?
「どこから入った――うわぁー。誰か助けてくれー!」
違う。
俺じゃない。
これは侵入者――魔王軍の奇襲攻撃か?
「近いな。どこだ?」
叫び声の聞こえ方からはさほどの距離を感じられなかった。
走れば間に合うかもしれない。
こんな本陣の真ん中で好き勝手にさせてなるものか。
俺はすぐさま声したの方向に飛び出した。
「いったい何なのよ。もう!」
クーネリアもちゃんとついてくる。
とりあえず目の届く範囲に居てくれるのはありがたい。
「ここか!」
俺は物音のする天幕の入り口の前に走り込む。
助けを求められている今、待ち伏せを考慮する猶予はない。
「にゃはー。ここの食料は全部にゃんのものにゃん。おとなしく差し出すにゃん」
「やめてくれー。それは指揮官に振る舞う上等な肉なんだ。勝手につまみ食いするのはやめてくれー」
そこに居たのはテーブルの上に飛び乗り、食材に対して暴虐のかぎりを尽くす一匹のケモノ。
そしてその悪逆非道に恐れおののく数名の料理人たち。
「あれは、プリニャンカじゃないか。何でこんなところに……」
何故か、予定より早く俺は新たな仲間と合流することになってしまった。




