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アデラ高原は小さな丘が連続する雄大な丘陵地帯だ。
冬には一帯が雪に覆われ白一色に染まるがすでに季節は春も末。
残り雪のひと摘みさえあるはずもなく、陽気を謳歌する草花に覆われたエメラルドの海原となっていた。
しかし今、その牧歌的とも言える風景の中に似つかわしくないものがいくつかある。
一つに周囲よりひときわ小高い丘に築かれた城壁のような建造物。
二つにそれを遠巻きに取り囲む武装集団。
つまるところ回廊を守る魔王軍の防御陣地と、それを攻略しようとするカルクトス軍の包囲部隊だ。
そしてそのカルクトス軍こそ聖法教会が共闘の算段を付けた俺たちの味方戦力である。
アデラ高原に入ったところで彼らと合流してそのまますぐに軍議となり、レーンとクーネリアと共に俺も参加することになった。
本陣には指揮官のほか各部隊長など十人ほどが集まり簡略的な地図を広げたテーブルを囲んでいる。
「カルクトス軍精鋭三百名。傭兵部隊五十名。雑役人足二十余名。以上、我方の兵力はすでに布陣しております。賢者様」
カルクトス軍の指揮官は、いかにも謹厳実直な職業軍人といった風体の人物だった。
歳の頃は三十半ば過ぎ。
特別背が高いわけではないががっしりとした体格と髪の毛を短く刈り込んだ強面が相まってなかなかに叩き上げの兵といった風格がある。
事実、すでに回廊に対する包囲陣形を手堅く築いているし、一周目の戦いでもよく働いてくれたのを覚えている。
それらの印象から言えば、彼は定石を堅実に使いこなすタイプの軍人と言えるだろう。
つまり戦況が想定の範囲で展開されるかぎり一番信頼できる手合だ。
「敵方の戦力と防御陣地の状態はどうなっていますか?」
味方に不足がないとなればあとは戦う相手が問題だ。
そこに対する確認はたとえ二週目であっても欠かすことはできない。
「防御はなかなかに堅そうです。魔王軍は土の魔術を使い回廊を土壁で囲っております。それゆえ中が見通せずあちらの戦力は不明ですが少しずつ増強しているのではなかろうかと」
俺の問いに対する指揮官の答えはたしか一周目の時も同じだった。




