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日が沈んだ。
つまりは、ちょうどお時間となりました、ということだ。
ここは呪われた折り返し地点、カルクトスの宿。
ジェームス王に魔王討伐を命じられルーシアを旅立ち馬車に揺られること約半日。
ようやくたどり着いた隣国の町で宿を取り仲間三人での食事を済ませたのち、俺はレーンの泊まる部屋の前に立っていた。
隣にクーネリアの姿はない。
あいつは食堂に置いてきた。
ここからの戦いにはついてこられそうにないからな。
そういうわけで俺は一人突入のタイミングを計っている。
と言っても自分の呼吸でドアを開けるだけだ。
時間をいくらずらしたところで中に居るレーンのまいっちんぐな状態は不可避。
突入すれば即座に非常事態に襲われるのは確定だ。
だが、今回の俺には武器がある。
いや。
正確には盾と言うべきか。
この手の中にあるそれはただの縫製品に過ぎないが、それでもレーンの怒りを防いでくれるだろう。
俺は一度息を吸い込んでからドアノブに手をかけた。
何度となく繰り返したこの一日。
今度こそ最後の一回にしてみせる。
そう。
ここからが俺の賢者タイムだ。
「レーン。プレゼントがあるんだ。ちょっとこれを着てみてくれないか!」
俺は部屋に踏み入りレーンの顔を確認するなり即座に反転。
背中を見せて室内からドアを閉めた。
やはり裸。
ゆえに正念場。
「ゼ、ゼノ。急に部屋に入ってくるなんて――」
「すまない。レーンを驚かせたくてサプライズを狙ったんだが間が悪かった。でもどうしてもレーンにこれを着てほしかったんだ」
俺はレーンに喋る時間を与えずに畳み掛けた。
そうすることでレーンは行動の出鼻を挫かれたはず。
その隙に俺は例の盾を使う。
後ろ手に掲げてそれをレーンに見せる。
「ボクに着て欲しいって……、それ女の子の服だよね?」
その通り。
俺が持参したのは流行り物の婦人服。
いつぞやの周回で買い物した時、レーンが一人で物色していたものの一着だ。
俺はルーシアを旅立つ前、隙きを見て単独行動し購入しておいたのだ。
「レーンならこういうのが好きだろうと思って。今日はクーネのために協力してくれただろう。だからささやかだけどそのお返しにこっそり用意しておいたんだ」
あの時レーンが手に取って見比べていたのは二着。
そのどちらをプレゼントしようか悩んだが、今日クーネリアのメイド服を選んでもらった時の傾向を参考にして購入したものが今この手にある。
そうでもしないと俺に女物の服など選べない。
「つまりゼノはボクが女だって気づいてたんだ。でもいったいいつからなの?」
「最初からに決まってるだろ。いくら騎士の格好をしても男にしてはかわいすぎるんだよ、レーンは」
それは半分うそで半分本当だ。
俺が始めてレーンの性別に気がついたのは一周目でのこの宿でのアクシデントの時。
だから最初から気づいていたというのは違うだろう。
だがレーンがかわいいと思っているのは本当だ。
騎士や勇者という立場から性別を隠さなければならないが、せめて部屋の中だけでも好きな服を着させてやりたい。
「――だからレーンに似合いそうな服をプレゼントしたかったんだ」
それは一周目の埋め合わせでもある。
レーンの立場を重視して女物の服を着せようなんて思いもしなかったが、本当ならもっと本人の気持ちをくみ取ってやるべきだった。
今回の俺の行動はその反省にも基づいている。
「ゼノ。それ本気で言ってるの。そんな服がボクに似合うだなんて、本当にそう思ってるの?」
その声のトーンはうそも冗談も返せるような感じではなかった。




