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はてさて俺の思惑である偽妹メイド化計画も大詰めとなったわけだが、しかし、クローゼットに並ぶメイド服たちを前にクーネリアの動きは蝋人形のように固まっている。
さもありなん。
もともとこういった服を好まないのだろうし、ましてや仕事着と言うからにはその向こうに待つこれからの業務に恐れおののきもするだろう――が、仮にそうだとしてもかまわない。
なぜなら今この場で主体となるのはクーネリアではないのだから。
「どうやらやっぱりクーネはどれを選んだらいいのか迷ってるみたいだな。すまないが手伝ってやってくれないか、レーン」
「ボクが?」
「エルミュットみたいな大国出身のレーンならご婦人方の流行にも詳しいだろう。ここは田舎者のクーネにかわいいのを選んでやってくれ」
と言ったところでメイド服自体はどれを選んでも問題はない。
要はレーンに楽しんでもらえればいいのだ。
「そういうことなら協力させてもらおうかな……」
やはり食いついてきたか。
いつぞやの周回で装備を整えるために商店に立ち寄った際、レーンは流行ものの婦人服を品定めしていたからな。
実はこういうかわいい服に目がないのだろうと踏んでいたが、さっそくクローゼットを覗き込んでいるあたり正解のようだ。
(ねぇ。何なのよ、これ?)
邪魔をしないようにクローゼットから離れた俺に、状況を飲み込めないでいるクーネリアが耳打ちしてきた。
その間もレーンはメイド服に夢中である。
(悪いが付き合ってやってくれ。これが上手くいけばループを抜け出して明日に進めるはずだ)
(あんたが考えること本当にわけ分からないわよ。あんた、実はただおもしろがってるだけなんじゃないの?)
バレているのか!?
いや。
冗談だ。
本当にメイド服姿のクーネリアがこのループ現象の救世主なのだ。
たぶん。
(見てみろ。レーンのあの楽しそうな顔。ああやってレーンを喜ばせることがループ現象の脱出、ひいてはハーレム計画の成功につながるんだ。大丈夫。効果はある)
我ながらばかばかしい説明だとは思うが、しかしこれが俺たちの共通目的なのでしかたがない。
それはクーネリアだって十分わかっている様子で、不満ともあきらめとも取れるため息をしたがそれ以上の反論は無かった。
「見て、クーネ。これなんかどうかな。きっと似合うと思うよ」
おっと。
さっそくレーンが一着目を見繕ったようだ。
クーネリアはおずおずとそれを受け取るとくわしく見るまでもなくげんなりとした。
レーンのチョイスは初手からどピンクのミニスカメイド服だった。
こやつ、思った以上にやりおるわ。
「最近はけっこう明るめの色が人気だからこれくらいの方がおしゃれっぽく見せられるよ」
「そ、そう……なんだ」
「あとは非対称を取り入れたデザインも欲しいところだけど、さすがにそういう服は置いて無いみたいだね」
残念だがここに揃えたのは仕事着の範疇に収まる程度のメイド服だけだ。
そんな流行の最先端までビンビンに尖った勝負服などルーシアでは手に入らない。
というかそんなもの必要になるとは普通思わないだろう。
まさかレーンがここまで本気になるとは、俺はちょっとだけ見誤っていたかもしれない。
「まぁ、そのあたりはニーソックスを片足だけ履いたり手袋の長さを左右で変えたり小物でアレンジできるから、とりあえず癖のないデザインで色味の違う服を選んでおこうか」
いや。
俺はかなり見誤っていた。
これは本気なのではない。
本物なのだ。
こうなったらクーネリアには悪いがレーンの気が済むまで付き合ってもらうとしよう。
そうして結局レーンによるメイド服の選定はジェームス王との謁見の呼び出しがあるまで続いた。
その後は今までの周回同様のスムーズさで魔王討伐を拝命、三人揃っての旅立ちとなった。
ただちょっと違うのは今回はクーネリアがメイドなことと、馬車に乗る前にこっそりと俺一人で買い物をしたことだ。
その違い、たったその違いだけを武器に俺は再びカルクトスの悪夢ことレーンの裸パンチに挑むのだった。




