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「よし。こんなものか」
服を着替え終わった俺は身支度に不備がないことを確認した。
完璧だ。
登城用の正装はどこもほつれていないし、髪の毛だって寝癖一つついていない。
そして何より一番重要なのは、体のどこにも怪我がなかったということだ。
「あれだけの魔力爆発に巻き込まれたのに、な」
運が良かった、という話ではないだろう。
さすがにかすり傷一つ見当たらないというのは不自然過ぎる。
本当なら体は跡形もなく消し飛んでいるくらいでなくては辻褄が合わない。
とは言え、今はそれについて考えていてもしかたがない。
何を判断するにしても、必要なだけの情報を得られてはいないのだから。
そういうわけで、俺は目下唯一の情報源が待つ一階へと向かった。
そう。
この家は二階建てなのだ。
さほど大きい家ではないが、それでも二階建ての個人宅なんて庶民にはそうそう手に入れられるものでもない。
俺が住んでいられたのはあくまでもジェームス様から貸し与えられていたからだ。
しかし問題なのは、この家は何もかも昔のままだった、ということだ。
クローゼットにしまわれていた服も、目に着くかぎりの調度品も、研究を本にまとめるために書きかけになっていた原稿も、何もかもそのままだった。
この時点で今の状況に説明をつけられるとしたら、俺が夢を見ているという可能性くらいか。
初めは魔王城で倒れたあとに救出されてここまで運ばれたのかと思った。
だが仮にあの魔力爆発を生き延びたにしても、重傷者を移送するにはこの家は遠すぎる。
それに家の中を俺が住んでいた当時のままに再現することができるだろうか?
――無理だ。
この家がどういう状態だったかなんて俺しか知らない。
それを誰かが再現するのは物理的に不可能だ。
だからこれは夢かもしれない。
やはり俺は大魔法陣の魔力爆発で死にかけていて、平穏だったころの思い出を夢に見ている。
そう考えれば辻褄も合う。
とは言え、これもただの推論だ。
結論は急がずもう少し様子を見るべきだろう。
さいわいここには会話できる相手が一人だけいる。
そちらから情報を引き出せば何か分かるかもしれない。
そう思って一階に下りると、ちょうどテーブルに朝食が用意されているところだった。
どうやら赤髪の少女が用意してくれたらしい。
さてと、まずは何から話すべきだろうか。