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「ここか……」
俺はクーネリアと共に一つのドアの前に立っていた。
それは城内の客室の一つで昨日からレーンが泊まっているという部屋だった。
レーンがルーシアに到着したのは現時点から言えば昨日のことになる。
その目的は言わずもがな、アカデメイアの四賢者に数えられる俺を仲間に加えるべくやってきたのだ。
このあたりはもともと教会側の意向だったらしいのだが、ルーシアには事前の打診など一切なかったのは大陸最大の宗教組織ゆえの強権と言えるかもしれない。
どちらにしても突然現れた勇者の対応をルーシアが即座にこなせるわけもなく、レーンには城で一泊してもらってジェームス王との正式な謁見は明日改めて、というのが昨日対応した城の重臣の判断だったという。
そういうわけでレーンは昨日からこの城に滞在していた。
「ねぇ。事前に話しをしたくらいで本当にレーンを怒らせないようにできるの?」
すでにレーンの部屋の前まで来たというのに、クーネリアは未だに俺の伝えた作戦内容に半信半疑のようだった。
その作戦とは、謁見の前に俺とクーネリアだけでレーンと会って友好関係を深めておこうというものだ。
本来の歴史では俺は謁見の時に初めてレーンと出会っているし、ジェームス王にしてもそれ以外の場ではレーンと接していない。
それに倣い今までの周回でもそれを踏襲してきた。
つまり俺がレーンの魔王討伐任務に同行するのをジェームス王に納得させるのは謁見での問答だけで十分なのだ。
わざわざ事前の面談など必要ない。
それでも俺が今回あえてその手間をかけるのは、出立前に仲良くなっておけば裸を見たとしても許してもらえる可能性がある、というのが理由だ。
何せ二年間の旅を共にした上でのレーンであれば裸の一つや二つ許される自信が俺にはある。
少なくとも恥ずかしがりこそすれ殴ってくることはないはずだ。
それなのにこの時間軸ではレーンに殴られてしまうのは、俺たちの親密度が圧倒的に足りていないからだろう。
だから謁見までの空き時間を使ってレーンとお近づきになっておく。
それで二年間のギャップを埋められるかと言えばかなりきびしいが、少なくとも現時点のレーンを知ることには繋がる。
そうすれば何か別の手立てを思いつくかもしれない――と、以上のようにクーネリアには説明しておいた。
そう。
だからこの作戦に対するクーネリアの疑念は正しい。
実際問題、この短時間でどこまでレーンとの心理的距離を詰められるのか。
夕方にはカルクトスの宿にたどり着いていなければならないのだ。
普通に接していてはとても間に合わない。
これで疑念を持つなという方が無理だし、俺だって本当にこれで裸を許されるなんて思っていない。
それでもこの作戦は必要だ。
「心配するなって。これでも無駄に周回を重ねてたわけじゃない。レーンの行動を観察して対策を考えてあるからきっと上手くいくさ」
嘘ではない。
状況を打破するヒントはすでに経験していたのだ。
それを最大限活かすためには少し罠を張って相手を騙す必要があるだけで、現状を打開するためなら些細な問題だ。
「まぁ、あの子はあんたの仲間なんだし、何をするつもりか知らないけどあんたがそれでいいならあたしは文句ないわ」
そうか。
ならば問題は無し。
俺は俺の考えを心置きなく実行するとしよう。
「それじゃあ行くか」
俺はひと声かけてからクーネリアが頷くのを確認してドアをノックした。
するとやや間を置いて室内で人の動く気配があった。




