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「へぇ。ゼノ君に妹が居たなんて初耳だよ。今まで黙ってたなんて水臭いじゃないか」
作戦会議を兼ねた朝食を済ませ、俺たちは早々に城に上がりジェームス様のもとを訪れた。
そしてまずは国元から偶然訪ねてきた妹クーネの紹介を済ませる。
それ自体はこれまでの周回とさほど違いはない。
時間的に多少早く到着したくらいだ。
「でも兄妹と言ってもあんまり似てはいないものだねぇ。うちの王室には性別違いの兄弟ってあんまりいないから新鮮だよ」
ジェームス王は毎回疑うことを知らないみたいに俺の偽妹をすんなり受け入れてくれる。
正直申しわけない。
(いっつも思うんだけど、あんたの王様、人の良さが底抜けじゃない。こんなのでこの国大丈夫なわけ?)
(こんなのって言うな。土地柄と言うか国民性と言うか、この国の王はこれくらいでちょうどいいんだ)
クーネリアは呆れているが、ジェームス王の人柄あってのルーシアだ。
彼でなければ貧困国に近いルーシア国内はもっと陰鬱な雰囲気になっていたかもしれない。
ジェームス王のおおらかさは精神的にも政策的にも国民の救いになっている。
「それにしても、クーネさんだったね。こんなところまで訪ねてくるなんて、私がお兄さんを取り上げてしまっていたみたいで申し訳ないよ」
「いいえ。むしろ兄がちゃんとお勤めできているか心配で見に来ただけで、ジェームス様には不肖の兄を召し抱えていただき感謝の言葉もありません」
「ははは。しっかりした子だねぇ。さすがゼノ君の妹と言ったところかな。でも君のお兄さんはうちの国にはもったいないくらいの人材だからね。こっちの方こそ感謝しているよ」
意外だがクーネリアの受け答えは毎回この調子で安定している。
腐っても魔王だからだろうか。
貴人相手の会話に慣れているのかもしれない。
「感謝なんてとんでもありません。こんな兄でよければどうかボロ雑巾になるまで使い潰していただければきっと本望だと思います」
んなわけあるか。
前言撤回。
クーネリアの受け答えは悪意ありありで先々の不安も増し増しだ。
「ボロ雑巾はともかく、できればこのまま長く仕えてくれたら私としても願ったりなんだけどねぇ」
クーネリアの悪洒落に大人の余裕で答えつつも、ジェームス王の顔が一転して神妙な面持ちに変わる。
「件の勇者レーン・レイ・ソードワースがね、ゼノ君を引き渡せって言ってきたよ。聖法教会認定の勇者って言っても知らない人だからねぇ。信用してもいいのかちゃんと見極めないといけないよね」
実際のところレーンに人間的な問題はないのだが、ジェームス王の立場からすれば突然現れて家臣を連れ去っていく誘拐犯みたいな相手だろう。
もちろんこの後の謁見でその辺りをはっきりとさせるのが今までの周回でのパターンなわけだが。
「ジェームス様。謁見の前に俺と妹をソードワース卿に会わせてくれませんか?」
俺の申し出にジェームス王は不思議そうな顔をした。




