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おかしい……
この状況は何かがおかしい。
そう気づいたのはレーンから5回目の裸パンチをもらった時だった。
カルクトスの宿で夕食を済ませたあと、レーンの部屋を訪れるタイミングをいくら調整しても結果は決まっていた。
部屋の中に居るレーンは必ず服を脱いでいて、俺は絶対にレーンから嫌われてしまうのだ。
そして、何故か俺はその状況を回避することができない。
五回も同じ状況を繰り返している。
おかしいのはそこだ。
いくら何でも巻き戻る度に着替えのタイミングが同じになるのは偶然とは思えない。
なんらかの特別な力が働いていると考えるべきだろう。
「でもそんなことってあるわけ。何をやってもあんたがレーンの裸を見ることになるなんて、いったいどんな力が働いたらそうなるのよ?」
もはや何回目なのか数えるのも飽きてきた朝食を前に、俺とクーネリアはこの状況について作戦会議をしている。
「現実問題として毎回同じ状況という結果があるんだ。何か原因があるのは間違いないだろう。問題はそれがどんな力なのか、なんだが……」
それについて一応考えを巡らせてみるが当然ながら見当もつかない。
そもそも推論や仮説を組み立てようにもどういう分野の問題として取り扱っていいのすら分からない。
まさかこんなことで自分の思考力の限界を思い知らされるとは屈辱である。
「あれじゃない。あんたの邪な心がレーンの裸を引き寄せてるとか?」
「そんなばかみたいなラッキースケベ体質が突然備わってたまるか」
そんな才能手に入れたら俺は全力でカンストを目指すが残念ながら到底あり得ない話だ。
「じゃああんたは他にどんな原因があるって言うのよ?」
「正直くわしいことは分からないな。魔術仕掛けの神の影響で何かおかしいことになっているんだろうが、もしそれが正しいならかなりやっかいなのは間違いない」
「冷静に言ってるんじゃないわよ。それって原因を取り除いて状況を変えることができないってことじゃない」
「ああ。俺たちは大魔法陣にアクセスできないからな。何か不具合が起こっていても術式を修正する手立てがない。たぶん何をやってもレーンの着替えのタイミングはずらせないんだろう」
「だからなんでそんなに冷静なのよ。あの状況を避けられないならあんたは絶対にレーンに殴られることになるのよ。そんなの……詰んでるじゃない」
「……」
まいったな。
一周目より上手くやるどころかこのままでは初日から先に進むこともできない。
何よりレーンに拒絶され続けるのは精神衛生上たいへんよろしくない。
「いっそ部屋に行かないって手もあるんじゃない? 嫌われるくらいなら出来事自体なかったことにしてやり過ごした方がまだマシだわ」
「それはリスクが高いな。一周目だとここで打ち解けた上での二日目以降だったんだ。今日の内に関係を作っておかないとレーンの動きが変わって俺の記憶が早々に役に立たなくなる可能性が高い」
「そっか。最低でもあんたの仲間を全員集めるまでは一周目をなぞらないと合流自体に失敗するかもしれないものね。でもそうなるとやっぱり……」
詰んでいる。
それが現状の結論なのだが。
「しかたない。何か手を打つしかないか」
「手って、何か考えでもあるっていうの。どう転んでも結局最後は裸なのよ?」
結局最後は裸て。
改めて聞くととんでもない字面だ。
それでもやるしかないのだ。
他に方法はない。
「避けられない裸ならありがたく目撃させてもらう。その上で怒られないように仕向ければいいはずだ」
「はぁ?」
クーネリアの反応もさもありなん。
自分でも何を言っているのか定かではない。
それでも今後の方向性だけは俺は見出していた。




