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カルクトスの宿まで無事戻ってきた俺たちは、また同じように食堂で夕食を取り同じように身の上話をレーンに聞かせた。
そしていよいよ宴もたけなわ、再挑戦の時が迫っている。
「ふぅ。ボクはもうお腹いっぱいだけど、二人はまだ何か食べる?」
言ってレーンはフォークを置きナプキンで口元を上品に拭った。
もっともそんなことしなくても全然汚れていないし、なんだったら白い騎士正装にもシミ一つ見受けられない。
こういうところを見るといかにレーンの育ちがいいのかが理解できる。
少なくとも庶民の俺や、そんな俺となんら変わらない食事マナーの魔王様とは雲泥の差である。
「いや。俺はもう十分だ」
「あたしももう食べられないわ」
実際夕食には満足している。
クーネリアが作ってくれる朝食は食材の関係で巻き戻りの度に同じメニューだ。
しかしここは大宿の食堂。
注文さえすれば毎回違うものが食べられるのだ。
しかも代金はレーンのおごり、正確にはその後ろ盾である聖法教会の資金提供で賄われている。
楽しくないはずがない。
「それじゃあボクは先に部屋に戻ってるね」
「分かったわ」
「ごゆっくりー」
そうしてこれまで同様レーンは最初に席を立った。
ここまではやはり順調。
危なげがない。
「ほら。もたもたしてないで早く行きなさいよ」
「も、もう行けって言うのか。ちょっと早すぎじゃないか?」
クーネリアはレーンの姿が見えなくなるなり俺をせっついてきた。
こいつには微調整という繊細な感覚が無いのだろうか。
「あんただけにまかせといたらまた出遅れるかもしれないでしょ。いい。今度はあたしの指示に従いなさい?」
クーネリアはそう言って立ち上がりレーンの部屋の方へと向かって歩き出した。
俺はあわててそれを追いかけとなりに並ぶがクーネリアがズンズンと進んでしまうので半歩遅れるかたちで追従する。
「まさかお前も来るのか。これはレーンと俺の甘い青春の思い出だぞ?」
「何が青春よ。気持ち悪いわね。やってることの内容を考えなさいよ」
「いや。まぁ、思春期の迷場面的な……?」
無理だな。
客観的に考えるとこの件に関して俺は能動的な変質者だ。
とても青春などと言う美しい形容で語れない。
しかし、それでもあの状況にクーネリアを三人目として加えるわけにはいかない。
なぜなら俺とレーンの二人きりだからこそ特別な関係の始まりになるのだから。
そんな俺の考えを知ってか知らずか、クーネリアはレーンの部屋の前までくるとためらうことなくドアノブに手を掛けた。
「心配しなくても邪魔なんかしないわよ。むしろあんたは四の五の考える前に飛び込んできなさい!」
――そんな不用意な。
そう言い返す間もなくドアの開かれた室内に向かって俺は蹴り込まれた。
そこには当然のようにレーンが居てたたらを踏んだ俺はそれを避けきれない。
「ぐあ。……ってすまない。大丈夫か。レーン?」
「……」
レーンとぶつかってしまった俺は勢いそのままに倒れ込んでしまった。
レーンが俺の下敷きになる形でだ。
だからだろう。
転倒したにも関わらず俺に痛みはない。
むしろ柔らかくてこのまま寝ていたいくらいだ。
「それにしても頬に当たってる部分はなんて気持ちいいんだ。レーンの体にこんなに柔らかい部分があったなんて……」
柔らかい。
そう。
柔らかいのだ。
鍛え上げられたレーンの体にしてはあまりにもふにょふにょしている。
しかも目の前にはさくらんぼに似たピンク色の何かがある。
近すぎて逆によく見えないが一度体を起こして距離を取ってみればはっきり見えるだろう。
「そんなゼロ距離で――」
おや。
何やら頭上からレーンの声が聞こえる。
相手を押し倒してしまった体勢で上から声が聞こえるということは、俺の顔はレーンの胸元にあるということになりはしないか?
「凝視するな――!」
その瞬間横殴りの衝撃に意識を刈り取られ、俺はさくらんぼの正体を確認することはできなかった。




