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「で、あたしとあんたが同じ部屋じゃなきゃいけない理由はなんなの。くだらないこと言ったら消し炭にするわよ?」
俺たちが泊まる部屋に入るなりクーネリアは荷物を床に放って腕組みをした。
どうやら一応俺に考えがあってのことだとは理解しているようだが、どうにもクーネリアは気が強過ぎはしないだろうか。
人前だと偽妹キャラの制約で少しやわらかいが二人きりだと容赦が無い。
また心臓を撃ち抜かれたくはないし、ここはていねいな説明が必要か。
「俺とお前がいっしょの部屋なのはあくまでもレーンを一人部屋にするためだ。一周目だと食事をしたあとレーンは部屋に戻って着替えをする。だから俺はそれを覗く。それがレーンを一人にした理由だ」
「あんた、どうやら自殺願望があるみたいね」
わなわな震えるクーネリアの右手に炎が宿る。
まずい。
あんなの食らったら消し炭も残らない気がする。
「違う違う。これはあくまでも一周目でレーンと仲良くなったきっかけの出来事なんだよ!」
「はぁ? 着替えを覗かれてその犯人と仲良くなる女がいるわけないでしょ!」
こ、殺される。
クーネリアの剣幕に圧され床に尻もちをついた俺は、両手を突き出して必死に赤い死神を制止する。
「レーンはエルミュットの一等騎士で聖法教会認定の勇者だけど、それは男じゃないとなれない立場だ。だからレーンは昔から性別をごまかして生きてきた。でも心の中で誰かに本当の自分を認めてもらいたいって思っててもそれは当然だろう?」
そう。
いくら男装が似合っていてもそれはレーンが自分で望んでそうしているわけではなく、単にエルミュットも聖法教会も女の騎士や勇者を認めていないからだ。
だから大英雄ソル・レイ・ソードワースの唯一直系の子孫としてその責任を果たすために男を演じていなくてはならないのだ。
「それで、あんたが着替えを覗いたら本当のあの子ってのを認めてあげられる存在になれるわけ?」
「着替えを見てしまったのは本当に偶然だったんだ。でもそれで本当の性別を知ってからは事実を黙っていることで俺たちは秘密の共有者になったんだ。他の三人にさえも言えずにな。それが俺とレーンが仲良くなった理由だ」
「…………」
俺の説明にクーネリアはムスッとしている。
どうだ。
だめか。
俺はこのまま火だるまか?
「ま、いいわ。あんたを信じるわけじゃないけど、案外始まりはそんなものなのかもね」
「いや。信じろよ。一応協力者だぞ」
とは言え俺の説明は一応通じたようでクーネリアは右手の炎を引っ込めてくれた。
魔術仕掛けの神の影響下では死んでも生き返るとは言え焼き殺されるのだけはごめんだ。
「とりあえずこのあとの出来事を避けたら未来のハーレムもないって認めてあげる。特別にあんたをこの部屋の床で寝させてあげるから、その代わりちゃんとあの子の気持ちを掴み取ってきなさい」
最終目的がハーレムというのがいまだに引っかかるのだが、とにかくこれでクーネリアの協力は得られた。
あとは食堂に降りて時が来るのを待てばいい。
「ゼノ。クーネ。急かして悪いけど、あんまりのんびりしてるとごはん作ってもらえなくなるよ?」
おっと。
さっそくレーンが呼びに来たようだ。
宿の食堂もいつまでも人がいるわけじゃないしな。
俺たちは頷きあって部屋をあとにした。