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「それでは今日この時をもって賢者ゼノ・クレイスを執政顧問代理の職から解き、新たに魔王討伐の任を命じる。それなる勇者レーン・レイ・ソードワースと共に見事なしとげてみせよ」
クーネリアと共に王城を訪れた俺は謁見の間でレーンと再開し、ここルーシア王国の国王であるジェームス様から魔王討伐を命じられた。
クーネリアの存在も偶然国元から訪ねてきた妹ということでまったく疑われなかった。
思うに俺の普段の素行の良さが幸いしたに違いない。
と、ここまではとくに問題はなく、とりあえず一周目の冒険同様の順調な滑り出しである。
「とまぁ堅苦しいのはここまでにして、くれぐれもゼノ君をよろしく頼むよ、ソードワース卿。何せこの国にとってはかけがえのない家族だからね」
玉座のジェームス王は一番大事なことを言い終わるととたんに素の喋り方に戻ってしまった。
仮にも勇者であるレーンの前なのだからもう少し外面をがんばって欲しかった。
「は、はい。必ず無事に連れて帰るとお約束します」
「うん。じゃあみんなの武運を祈っているよ」
そうしてジェームス王に見送られ俺たちは三人は王城を後にした。
一周目ではレーンと二人で打倒魔王に燃えた旅立ちだった。
それが今回は魔王本人がとなりに居るというよく分からない状況だ。
「えっと、あらためてよろしくお願いします。賢者様。クーネさん」
城門をくぐり城下町へと続く階段を下り始めると遠く連なる山嶺が見渡せた。
城勤めの俺には見慣れた光景だったが、国を離れる今この景色の壮大さにはこれから挑む責務の大きさを思わずにはいられない。
少なくとも一周目の旅立ちの時はそう感じたものだった。
「俺のことはゼノでかまわない。これからは仲間なんだからお互い気を使うのは無しにしよう」
「そうね。あたしも呼び捨てでかまわないわ」
「分かったよ。じゃあゼノとクーネもボクのことはレーンって呼んでね」
俺たちの申し出にレーンはうれしそうに微笑んでそう答えた。
白の騎士正装に青のマント身につけて、さらには自慢の金髪を煌めかせるその姿はつい見とれてしまいそうになるほど美しい。
これだから世の女性たちが夢中になるのも無理も無い。
「でも本当にクーネもいっしょに来て大丈夫なの。これは魔族との戦いだから女の子にはすごく危ない旅になるよ?」
レーンは心配そうにクーネリアを見たが、本当を言うと自分だって女の子だろうに。
その事実を隠しながらもクーネリアを気づかわなければいけないのだからかわいそうだ。
しかしそれにしても、まさかその偽妹クーネの正体が討伐目標の魔王本人だとは思うまい。
なんと言ってもこの時点ではレーンは魔王の顔を知らないし、クーネリアもまた目元を前髪で隠している。
あとは旅の同行者としてもっともらしい理由さえ作ってやれば不審がられることもないだろう。
「クーネは俺の妹だからある程度は魔術が使える。自分の身くらいは守れるはずだし、俺も一人くらい従者が居た方が何かと助かると思うから連れて行かせてくれ」
「そっか。いざという時には信頼できる人が必要だもんね」
さすがレーン。
あっさり信じてくれた。
これでクーネリアは今後俺の妹として行動を共にすることができる。
というか最初に目覚めた時にクーネリアが俺の妹を名乗っていたのは最初からそういうつもりだったらしいのだが、事前の説明も無しに持ち込み企画の偽妹設定を演じられてもなんのこっちゃである。
どうしてそれで疑問を持たれないと思ったのか……
――あんた女に弱そうだからいけると思ったのよ。
だ、そうだ。
まったく俺を何だと思っているのか。
男だからって全員が全員、突然始まる血の繋がらない妹との共同生活を夢見ているわけではない――わけではないが偽妹設定そのものに罪はない。
採用である。
「それじゃあこれからどうしようか。二人とも、旅の支度が必要だよね?」
もちろん俺もクーネリアもなんの準備もしていない。
服に武具に食料その他もろもろ。
仮にも魔王討伐に旅立つのだからそれなりの物資を揃える必要がある。
だからまずはそこから冒険を始めないとだ。