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「時間ループ――つまり閉じた時間連続体に囚われるって言いたいのか。でも何でだ?」
「いい? あたしたちは願いを叶えるために時間遡行魔術を与えられたけど、逆に言えば願いが叶えられない状況になった時に時間が巻き戻されるのよ。たとえば手に入れたいものが失われたり、あたしたち本人や願いを叶えるのに必要な人間が死んだりした時にね」
「その理屈は分かるがなんで二年後だ。最初の時間遡行を気にしているなら回避するように俺たちが動ける話だぞ?」
もし仮に全員の願いを叶えられないまま二年後の魔王城決戦を再び迎えたとしても、大魔法陣を起動しなければ二年前に時間を巻き戻されることもない。
俺たちはそのまま先の時間軸に進み時間ループに陥ることはないのだから回避は難しくないはずだ。
それにクーネリアは大魔法陣を敷いた張本人ではないにせよ、本来の術者である副官をいずれ従えることになる。
そいつと合流しさえすればなんなりと命令して最初に起こる二年間の巻き戻りを繰り返さないようにもできるはずだ。
「二年後っていう確信があるわけじゃないのよ。でもそこまでのどこかでループに陥るとあたしは思ってるわ。でもそれは絶対に避けなきゃいけないじゃない。だからどうしてもあんたの協力が必要なのよ」
「ずいぶんこだわるな。もちろん俺だって永遠に同じ時間を繰り返すなんてごめんだし、閉じた時間連続体は魔術仕掛けの神の自律進化に永遠の猶予を与えかねない。でもなんで俺だ。まるで俺に原因があるみたいじゃないか?」
「実際あんたが原因なのよ」
「そんなことはないだろ。俺に原因なんてあるはずがない」
いやいや。
本当に心当たりはない。
何かの間違いだろう。
「あるに決まってるでしょ。あんた大魔法陣が起動した時、自分の仲間がどんな願いを持ってたと思ってるのよ?」
「みんなの願い?」
どうだろう。
それはみんな何かしらあるにはあるだろうが……
「じゃあ質問を変えるわ。あの直前、あの子たちは何を手に入れようと争ってたの?」
直前?
直前と言えば確か――
――契約を守ってもらえないなら、力ずくでもゼノは渡してもらう。
――私もゼノをあきらめる気はありませんのでー。
――どうやらゼノを手に入れるには、戦うしかないみたいだね。
――全員まとめて叩き潰せばご主人はにゃんのものにゃん!
……
…………
………………
「……俺か?」
「あんたよ」
断言された。
きっぱりと。
「いやいやいや。そんなばかな話があるわけないだろう」
「ばかとはずいぶんじゃない。あんたあの子たちがどれだけ本気だったか分かってないわ。うわさの賢者様も乙女心は知らないみたいね」
「し、知ってるし。なんなら一番の得意分野だし……」
「目が泳いでるわよ」
こらこら眼球たちよ。
古式甲冑泳法はやめなさい。
「とにかく他の可能性だってまだあるだろ。全員が全員願いが同じって……」
「事実上の術者のあたしが言うんだから間違いないわよ。間違いないから困ってるんじゃない」
そうか。
あの四人の願い、求めるものが同じなら誰か一人が願いを叶えれば他の三人は願いを叶えられなくなる。
クーネリアが危惧していたのはこのことか。
「あの子たち四人はみんなあんたを求めてる。でも残念だけどあんたは一人しかいない」
俺が四人に増殖できたらいいんだろうがもちろんそれは不可能だ。
そこから導き出される結論は一つ。
「つまり記憶の通りに冒険をやりなおしても、二年後にはあの四人はまた仲間割れをして誰か一人以外は願いを叶えられない。そして俺たちは時間ループがに陥ってしまう……」
いや。
この理論はおかしい。
おかしいのだが、正しいのだ。
「そうよ。だから同じ結末を繰り返したくないなら――」
だめだ。
これでは本当に閉じた時間連続体に囚われてしまう。
この状況を突破する名案は何かないのか。
パルメディアならこういう時どうする。
非常識でもなんでもいい。
どんなに突拍子が無くてもかまわない。
あの四人を戦わせるなんて二度とさせたりしない。
そのためなら俺はどんな努力だってしてみせる。
だからどこかにその方法は――
「あんた、ハーレムを作りなさい!」
俺に向かって突きつけられたクーネリアの人差し指が、起死回生の秘策の在り処を示していた――