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「そんなまさか……」
クーネリアの話を聞いて、それはおかしいと俺は思った。
時間遡行が魔王城の大魔法陣の仕業なら、起動に使われたのは俺の仲間たちの魔力だろう。
仲間割れをした彼女たちはそれぞれがとんでもない魔力を纏い、そして突然それを失っていた。
クーネリアによって魔法陣の起動に利用されたからだ。
しかし、あの時の四人の魔力量はたしかに驚くべきものだったが、時間遡行を何度も行えるほどだったとは考え難い。
もちろん、大魔法陣に組み込まれた術式の数や種類によって魔力消費量は変わる。
だが自律進化術式まで組み込んでいる大魔法陣が何度も時間遡行魔術を使いながらそう長い間稼動していられるはずがない。
「お前が時間遡行したのは全部で何回だ?」
「正確には覚えてないけど、十回以上は巻き戻ったわ」
「十回……そんなにか」
それは俺の予想以上の回数だ。
そうなるとますます大魔法陣が未だに停止していないのは説明が付けられなくなる。
「もう一つ教えてくれ。そもそも今日は魔王城決戦から数えて何日目だ。俺は何日眠ってた?」
その問いにクーネリアの表情が少し曇った。
何か戸惑っているようにも見えるが、なんだ?
「……だいたい、二年」
「ちょっと待て。あれから二年も経っているのか。俺はそんなに眠り続けてたって言うのか?」
魔王城で意識を失った俺を救出しここまで運んで来たことを考えれば数ヶ月の時間経過は覚悟していた。
だが二年というのはちょっと信じられない。
その間、大魔法陣が生き続けているということも含めてだ。
「違うわ。あんたは勘違いしてる。魔術仕掛けの神は時間を巻き戻す力を持った偽神。あたしがあんたの仲間の魔力を利用して目覚めさせた時、その瞬間にあたしたちは最初の時間遡行をさせられたのよ」
「目覚めさせたって、あの魔力爆発が起きた時のことか。それが最初の時間遡行……お前、何が言いたいんだ?」
いやな予感はしている。
それはとてつもなく重大な予感だ。
「もう分かってるんでしょ。あんたは魔力爆発に巻き込まれて二年間眠ってたんじゃない。二年前に時間を巻き戻されたのよ。今日は魔王城決戦の二年前、あんたが勇者レーン・レイと出会った日、ここの王様に魔王を倒せって命じられた日の朝よ」
やはりそうなのか。
この家が俺が住んでいた頃のままなのは人為的に再現されたわけではない。
引き払う前の時間軸だから当時のままなのだ。
まいったな。
全能魔術は世界がひっくり返らないかぎり実現しないとは言ったが、すでに世界はひっくり返っていたのだ。