5.
—————夜
何をするでもなく経った時間。いつも通りに、夜着に自分で着替え(侍女達の少しの嫌がらせの一貫である。)、寝支度をした。
ちなみに皇后は自分のことは自分でやりたい派であるし、何よりも慣れているため、嬉々として一人で着替えている。
侍女達の嫌がらせはこの面においては失敗である。なむなむ。
気疲れから、卓に寄りかかったその時である。
————-ガシャンッ
ふ、と目の前が真っ暗になり、頭がガンガンと痛みだした。
(いた、い、頭が、、われ、るように、いたい)
ザザッ……ザザッ
(わた…の……な…ま?)
「大丈夫かい!?しっかりするんだ。今侍医を呼ぶから。」
珍しく悠舜の焦った声が聞こえる。
(また、この男はタイミングのいい。どこから現れているんだか)
「大丈夫だ。最近よくある。」
頭の痛みが当初よりもひいてきたため、そう答える。
「よくある!?何かの病気じゃないのかい?やはり侍医に診てもらったほうが…」
「問題ないと言っているであろう。おそらくただの気疲れだ。」
「ああ、なるほど…」
悠舜にも心当たりがあるのか、気まずげに目を逸らす。
沈黙が辺りを支配した。
ふと、悠舜が消えた。
と、
「皇后陛下、何かございましたか。」
と侍女が部屋を訪れた。
(成程、流石は敵国の人質の監視を任されるだけあって気配の読み方は完璧か。)
「問題ない。少し立ちくらみがしただけだ。それよりも、落としてしまったグラスを片付けてくれぬか。」
「…かしこまりました。何かありましたら、お呼びください。」
そう言って、グラスの処理だけして立ち去っていった。
にしても、脳裏をよぎるのは先程見た光景である。
((わた…の……な…ま?))
あれは何だったのであろうか。
今まで頭が痛くなったことはあっても、何かが脳裏をよぎったことなどなかった。
(まあ、考えても答えは出ぬであろうし、寝るか。)
頭の痛みから考えることを放棄し、眠りについた。