1話 転移
ジメジメした場所といえばまず最初に何を思い浮かべるだろうか?
雨降っている時のバス停?
そうかもしれんが俺は違う。
確かに嫌だよね、雨降っている時のバス停。
そんな事は置いといて。
今、俺は暗い暗い洞窟?らしい所にいる。
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夏と秋の間ぐらいの暖かい風が俺の髪を撫でる。
数学の授業中、教室の1番後ろの席、窓側にて、俺は真剣な顔で自分の膀胱の容量について考えていた。
数学なんてそっちのけである。
困った。
実に困った。
「ですから後はここにxを代入するだけなので…」
俺の膀胱が悲鳴をあげている。
いや休み時間にトイレ行ったよ?
水そんな飲んだか…?
黒板の上の時計を見る。
…後20数分。
殺す気かな?
「せんせーい。トイレ」
「はい先生はトイレでーす」
クラスメイトのみんなで笑いがおこる。
1人だけ爆笑している奴がいる。
…今のそんなに面白かったか???
そう思いながら教室を出る。
俺が出た後でも笑いは収まっていなかった。
もちろんさっき先生のトイレでーすでの笑いではなく、誰かがふざけたからである。
そんな事はともかく、トイレは教室のすぐ近くだ。
駆け足で教室へ戻る。
大便と思われたくないからである。
「戻りましたー…?」
教室の中に入ろうとして、俺は足を止めた。
誰もいないのである。
「集団神隠しか…?」
俺の小便せいぜい3分ぐらいだぞ?
3分前はちゃんと授業していたはずなのに…。
なんだかとてつもなく嫌な予感を感じながら俺は恐る恐る教室へと入る。
「は?」
足が教室の床についた瞬間、黒いモヤのようなものが俺を包んだ。
…そのモヤが消えたときには、俺はこの世から消えていた。
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先生の早い説明を、頑張って一言一句ノートに写し、たまに自分が見つけたやりやすい方法を付け加える。
付け加え終わって黒板を見ると、いつの間にか次の単元へ突入してしまっている。
田辺先生の授業は分かりやすいけどこのスピードは何とかならないのかといつも思う。
周りを見れば、諦めてノートに写していない者、僕みたいに一心不乱に写している者、寝ている者がいる。
…誰か訴えてくれ。
そんな事を考えながらノートを写す。
みんなノートを書くのに一生懸命で、頭に入っている者は多分いない。
もし途中でトイレなど保健室に行ったりすると手遅れなので、そんな奴はこのクラスにはいない。
「せんせーい。トイレ」
いたわ。
気の抜けた質問をするのは窓際の端っこの席にいる柳原耀。
特に何も言うことはないインキャ。
先生に了承をもらった彼はそそくさと教室を出て行く。
そしてクラスから出た途端走り出した。
余程行きたかったのだろう。
おっといけない、僕も授業についていけなくなってしまう。
と、シャーペンをノートに走らせていると。
バタン。
いきなり隣りの席の女子が倒れた。
みんなが唖然としていると、その唖然としていた側の方からもどたどたと倒れていく。
「みんな!大丈夫!?」
先生が今更ながら慌て始めると、なんと先生も倒れた。
僕もびっくりしていたが、それ以上に頭が痛く、「…なんかふらふらする」と思っていたら、僕も倒れた。
僕は倒れながらも意識は保てていた。
怠いけど立つか…。
と考えながら床を見ると。
「…魔法陣?」
らしきものが僕達の下にあった。
目のような、口の中のような、はたまた何かの生物のようにも見えるそれは、突然光を放ち始めた。
痛い頭を押さえながらも、何事かと光で痛む目で無理やり見ると、魔法陣から鎖が伸びて、クラスメイトのみんなに巻きついていた。
もちろん、僕にも。
その鎖が全身を包んだ瞬間、魔法陣の真ん中にある丸いものが回転し、目の前が真っ暗になった。
そしていつの間にか人造人間みたいな人達に囲まれており、目の前には魔王?みたいな人がいた。
…教室で目の前が真っ暗になる前にトイレ特有の流れる音を聞いた気がした。
そして、プロローグ。




