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時計屋ワンダークロック  作者: 缶
chapter1
6/31

6話

「…………」


 今の言葉は皮肉なのか、天然ゆえの自然体から出たのか。当たり前でしょうと形相を鋭くして言おうかと思ったが、相手は客であるし、僕らの仕事にとって重要人物である。

「時計は修理終わりましたけど……」

「けど、何かあるんですか?」

「んーと、まぁ比喩的に言えば修理しきってないとでも言うんですかねぇ」

「?」

「貴方自身ですよ……」

「?」

 頓珍漢だとでも言うような顔。そりゃあそうだろう。少しばかりの格好をつけた言葉はあまり伝わらない。と言うか逆に伝わらなくて少し恥ずかしさすら覚えた。

 全貌を明かしていないのだから。


「隠し事……していますでしょう?」

「は?……何を言っているんだ?」

 小細工や比喩は抜きとり、直球で端的にそして直入に問い質した。

「貴方が何も言ってないんですよ……いやねぇ、昨日は貴方はこの、葬式に出す時計に関して祖父の寿命だと申されていましたよね?」


「あ……あ……あぁ……そうだが」

「嘘でしょう?」

 男の顔が少し歪む。

 隠し事が下手なのだろうか、取り繕い方が変だった。

「……何でだ?」

「知ってて頼んだんじゃないんですか? “ココ”に来るお客はそりゃあ時計の修理だけの人もいますけどねぇ。わざわざ訳の分からない用途の物を持ち出して、それでただの修理なだけなわけないでしょ……」


「……」

「それに、彼女……シロは嘘を見抜けるんですよね。本人曰く勘らしいですけど。」

「……」

「話して……頂けませんか?」


「……ぁぁ」

 小さくボソっと吐かれた一言。

 それを聞いた瞬間に僕は机の引き出しからペンと紙を取り出した。


 その頃、一悶着を見ていたのかそれとも偶然かシロがやってきてお茶をだした。

「丁度良かった。シロ。嘘見極めてくれ」

「うん」

「じゃあ、お願いします……」

 彼はゆっくりと口を開いた。


「父は……えっと、グラファー=モウロンは、私の会社……モウロン社の社長だったんだ……」

 成程と僕はそこで頷く。

 父親が社長であれば会社名と一致して当然であるし、話に一枚噛んでいて当然だ。


「父が社長で……恥ずかしい話が私はそこにコネで入ったんだよ。当時の私は就職難でね。今の部長の地位だってそうだ。私の社会人としての30年間は全て親任せってわけさ。それで当然、私を疎む者も多くいたよ。社員の何人か……多分三割くらいはね直接的な無視はされないけど何か違和感が多かったんだ。壁っていうのかな……」

「貴方自身は……その、何というか、会社に見合う働きはしてなかったんですか?」

「してたつもりさ。でも就職するっていうスタートラインが違ったからだろうね……それで私を嫌う者達は図ったんだ。死去に見せかけて、社長を殺した……んだと思う……」


 最期の言葉に近づくにつれ、弱々しくなっていく。憶測だろうけど彼自身が確実な証拠に辿り着いていないのだろう。

 そもそも証拠があるなら警察の方に転がり込んだ方が、解決に至るまでは早い。


「思う……って段階ですか……証拠は無し、と」

「あぁ……」

 小さくコクリ、と縦に首を動かした。

 しかしそれを聞いていたシロが反するように首を左右に振る。

「証拠はあります……よね?恐らく」

「いや……ないよ」

「……?」

 シロの嘘を見抜くその勘が外れたのだろうか。

 彼女だって人間だしあくまで本人曰くその力と言うのは、体感だと言っていたから、外れることもあるのだろうか。

 とは言え今までその嘘が外れた事なぞ無かった筈なのだが。

 まさかのシロの嘘を見抜くその勘が外れるとは思いもよらなかった。

 驚嘆の反応を見せる。……だがその刹那。


「見ただけだ……」


 勘が外れたという事への驚嘆が消える。代わりに、見たと言う言葉に僕は飛びつくように立ち上がって反応した。

 机に置かれた本が立ち上がった時に膝が机に当たって本が幾らか落ちた。

 ボロの本もいくつかあったはずなのに落としてしまうとは青天の霹靂と言うものだ。


「あぁぁぁ!ほ、本が!!」

 膝の痛みを気にせずさらに軽く痣になりそうなものに対して気にも留めずただただ本が心配になった。

「本棚に仕舞わないからでしょ……それに今は客の前よ?」

「……は、はい」

 怒られる。

 一先ずとして本を元の位置に……つまりは机の上に元の様に置いた。本を見ると前から伺えた傷だったり古びた所しか見受けられないから多分大丈夫だろう。

 少し安堵感に包まれると安心からか今更になって膝の痛みが来た。

 しかしここで再び取乱すわけにもいかないと堪える。


 ゴホン、と咳を一つして態勢を戻す。


 アズバーを見ると少々ばかり心配そうに僕を見つめていた。

 なんだかんだ言っても僕は子供にでも見えてるのだろうか、その目つきは子供に対する目つきと言うべきか……若干の老齢さから温和を漂わせている。


「すいません……ちょっと取乱しまして……あっと……そうだ。あの質問なんですが」

「切り替え速いね」

「それ程でも……で、あの質問なんですけど、例えばアズバーさんの言うとおり貴方の祖父……グラファー=モウロンさんが社員の方々によって何らかの方法で殺されたとして、そうしたら何かあるんですか?」

「そうしたら……私か或いは別の誰かが社長の座をつぐ……。私が社長なんかに成ったら避難の嵐で仕事じゃなくなるし、私以外の誰かが成ったら……社長に成れる可能性のあるもの達は皆一様に私を嫌っている……」

「あぁ……成程……」

 つまりはグラファー=モウロンという名のまとめ役が消えてしまえば、会社が会社として成り立たなくなる、という事なのだろう。みなまで言えずとも何となくわかった。

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