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時計屋ワンダークロック  作者: 缶
chapter1
4/31

4話

 カッカッカッ。


 時計の秒針は刻々と音を鳴らす。中の振り子が揺れる度時間は進む。

「んーと……そろそろ……10時か」

 拾ってきた時計を分解している時、ふと時計を見るとそう告げていたのだ。

 少しばかりの焦燥に駆られながら、客を迎える部屋……つまりは仕事部屋を片づけ始める。

 書類やら本やらが散らばったままなのだ。

「あーっと……えーっとえーっと……」

 慌てて適当に本を本棚に詰めていく。更に書類もある程度一纏めにし、机に載せて。

 せめて景観が少しでもまともにみれればそれでいい。


 しかしそれも果敢なくして、客は来てしまった。

 ドアに取り付けられたベルが鳴る。

 思わず慌ててしまいコケた。そして本に潰されるような形で

 床へと倒れて行った。

 痛みに呻いていると、奥から出てきたシロがどうにか場を繋いで

 対応してくれた。


「いらっしゃい。時計屋ワンダークロックへ……ちょっと散らかっていますけど……はは」

 と言うかナイスすぎるアシストである。流石と言うべきもので、尊敬しなければならないだろう。

 そんな事は考えてる前からしょっちゅう彼女に“見習え”と口を酸っぱくして言われたけれど。

「いや、構わないさ。アンティークでいいじゃないか、オーナーはどちらに?」

 顔の彫が深い少々老齢な男だった。

 柔らかい笑みと共に、客人用の椅子に腰を掛けた。

 持っていたトランクを椅子に立てかける。

 本来であれば僕が、お座りくださいと言うべきだったのだが……。


「いてて……あぁ……どうもははは……店主のクロ=ヴェルトリーブです」

 軽く笑って誤魔化しがら、本の山の中から現れる。とんでもない失態をしてしまったものだ。

 接客において第一印象は何よりなのだが、そこで早速躓いた。二つの意味で。揶揄的にも、物理的にも。


 服の埃を手で払いながら椅子に腰を掛けた。少しぶつけた足が痛む。

 すると客である男は驚いたのか息をのんで呟いた。

 その目顔には汗らしきものが伺えた。


「……君、冗談だろう?親はいないのかい?」

「いないですし、僕がオーナーですからご安心下さい。……で、御用件の方の時計は?」

 話を進めようとした。

 が、彼は認めないとでも言うように僕に再び問い質してきた。


「ははは……えっと……」

 悩む様に黙り込んだ。当然と言えば当然である。

 立場が逆なら僕も、自らの事であるのに思うかもしれない。

 例えば向かいにある店の店主が子供だったとしたら俄かに信じがたいと一蹴するだろう。もしくは一笑するだろう。

 冗句と思い込みつつ狐疑の目を向けられているとシロが彼に近づいて説明してくれた。


「皆さん驚かれますが……一応クロの腕前は相当なものですから……」

「そ、そうなの……かい? まぁ……分かったよ……」

「ええ、疑わないでくださいね……私自身彼の能力には驚くばかりですから……」

 そう言うシロの顔は何かを感じ取った顔をしていた。

 彼女は嘘を見抜ける。本人曰くただのシックスセンスらしいが、しかしその的中率は今のところ100%で、僕としても仕事上とても助かる。……が、今の話で反応したと言うことは、この客は僕がオーナーであると結局のところで信じていないらしい。

 仕方がないとはいえ、少しばかり歯痒い。


 褒められたはずなのだが、何故かそう感じ取れなかった。寧ろ貶されでもした気分だ。とは言え、そんな表情を出してはならない。

 偽りこそ営業である。

 まぁシロは目敏いのか勘が鋭いのか、通用しないのだけれど。誤魔化す度見透かされては、長々と怒られる。


「あの……御用件は……?」

「ああ、そうだったな。コイツを直してくれ……」

 そう言いながら椅子に掛けていたトランクを開いた。

 現れたのは少々古そうな掛け時計だった。

 振り子式のようである。

「……時間が……1時あたりで止まってますね。何時壊れたんですか?


「8年前だ」

「え?」


 思わず聞き返す。

「だから8年前だ」

「……」

 沈黙。

 良く見たら……と言うか見る前から白っぽくみえたが、埃をかぶっているようだった。少々古そうとか思った自分の目を潰したくなる。

 何故こんなにも放置していたのか、しかも今更直そうとやってくるとは……。


「8年前……ですか……随分と放置していたんですね。こんな古そうなものをなんでまた今更……」

 一見してみたところ、古びて埃を大分被ってはいるものの、それなりに名のありそうな品だった。

「いや、な……今度ちょっとした式があるんだ……。その時に私の家で行うから用意しようと……」

「成程。……結構高そうですね」

 それらしく頷いて見せる。


「祖父が買ってきた想い出の時計だ……この時計は高かったと何度も口にしていたよ」

「へぇ……ところでなんの式なんです?」

「……弔いの式だ」

「それは失礼なことを聞いてしまいましたね……」

 軽く頭を下げて謝る。

「まぁ、老い先短かった私の父なのだ。そこを悔やんでも、どうしようもあるまいよ」


 ピクッ。


 突然シロの眉が少しばかり動いた。

 何かを感じ取ったらしい。

「寿命ってやつですか……」

「そうさ」

 ピクッ。

 やはりシロの眉が動いた。

 そして表情で何かを伝えたそうにしている。


「まぁ暗い話はやめましょうか、僕から言うのもなんですが……で、この時計……埃がつまってるだけの可能性もあるんで、若しかしたらすぐ終わるかもしれません」

「おお、それは良かった。ならば少々待たせてもらおうかな……」

「ええ、どうぞ……シロ、その客の相手しておいてくれ。“僕が時計見終わるまで”な」

「うん」

 そういって時計を抱えて部屋を出る。

 時計が壊れる理由なんて様々だけど、多分……と言うか十中八九この時計は中身の錆びと埃で止まってるだけだろう。

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